第134話 長い友?


儀式は数日続くようなので私は寝ることにした。シャルルと宰相は隣の領主が行動を起こさなくても王都の軍が到着次第帰還するらしい。


国の頂点である2人がいないときっと王都は色々大変だろう。


……宰相は帰ってから宰相と認められるのだろうか?出会った頃は見た目も高齢のおじいちゃんだったのに、ここに来る前は40歳ぐらい、そこからどんどん若返って30手前まで若返った。今も追加で魔力水を出したら……体の体積以上に飲んでいるし肉体改造っぷりがやばい。



儀式の間は大量に持ち込まれる貢物を神殿に入れて、私は神殿で寝るというしきたりがあるらしいのだけど……なんかカビ臭かったので、神殿の内部を掃除する。



「ここの掃除はご領主様一族しかしてはならなかったので……」


「ふむ、掃除ですね」



申し訳無さそうにするテロスさんだが問題はない。石造りの建物と私は相性が良いのだ。


そんなわけで久しぶりに高圧洗浄である。海が近いからか、湿気が溜まりやすいのか、水苔が生えている部分もあった。



「<…………水よ、ぐるぐる回って汚れをとれ>」



使おうと思ったけど直前で変更、やはり高圧洗浄は駄目だ。リヴァイアスとの接触後、海ごと簡単に持ち上げられたのは自分でもとんでもないと思う。今なら高圧洗浄魔法が大砲魔法になっているかもしれない。


流石に領主就任して数日続く儀式の最中に「神殿破壊しました★」なんて洒落にならなすぎる。


装飾のある箇所は水をぐるぐる回して汚れを取り、大きな汚れには……やはり高圧洗浄が必要だ。いつもよりも魔法の効率が上がりすぎて使用感がおかしい気もするから最小の力から始めて調整していく。


水の神殿らしく排水はしっかりしているようで助かる。コツはいるものの今までよりも小さな力でたくさんの高圧洗浄が出せる。範囲も広くなったし。あっさり掃除は終わった。



「………」



魔力水を少し作って神殿内の石像や壁の彫り物にかけてみる。魔力水は少し光るのでよく見えるのだ。……本当は水にかけてはいけないものとかもあるかもしれないがそれは習ってないから知らない。


壁の彫られた絵はリヴァイアスに続く海の生き物だと思う。見たこともない生き物もいてかなり興味深い。貝殻や石も壁には貼り付けられていて……汚れや苔が取れて見違えた。


ん?ちょっと試しにかけてみただけだが、光の魔法や私の魔力水の光が「純粋な魔力」だというのなら周りに設置されている壁画やリヴァイアスの像も魔導具だった場合に動いたりするかもしれない?……心配したが動くようなことはなかった。


魔力水を出す時にほんの一瞬リヴァイアスがうっすら現れて私の水の中を泳いでいた気もするが一瞬だけであった。魔法って意味が分からぬ。


一瞬で使えて、一瞬で効果終了。発動までのためや反動など関係なしに呪文一言で使えればいいのに……使用するときの魔力の操り方や杖の先まで魔力の通る感覚はまだ慣れない時もある。


ウヒャウヒャならない回復方法もほしい。結構治るまで時間もかかるし始めは結構苦しんでいた。…………ままならないことばかりだ。



掃除も終わって用意されたベッドを運び込んで寝た。神殿の周りには兵士がいるし、ここで寝ないといけないというのならそうする。




掃除したてで水っぽい空気だけど何故か心地よくて、最近疲れているからかすっと寝て――――――――――………一瞬で起きた。




「だれ!?」



髪を引っ張られた気がする。それも頭頂部。


周りを見ても誰もいない。思ったよりもぐっすり寝ていたみたいで外を見ると暗くなっている。


頭の上、中央前側がムズムズする。誰かに前髪の上を引っ張られたような変な感覚。妹が私の髪で遊んだ時に近い、癖がつくからやめろと何度も言ったのに――――。



――――――………ネズミでもいた?



「<水よっ>」



ネズミに髪の毛をかじられたのかとゾッとして……照明代わりに魔力水を作っても周りに何も、誰もいない。水の膜で闇に隠れたかもしれないシャルルを探してもいない……。


排水はこの神殿にはあった。その排水からネズミが来たのだったのならありえる。海沿いだしゲジゲジしたでっかいダンゴムシみたいなのもいるかも……耳や首筋がゾワゾワと気持ち悪い。なんだろ、いや、今も頭がゾワゾワとしているような変な感覚がする。ネズミや虫に触れられるとか生理的に無理だ。


神殿内には誰もいない。用意されたベッドからジリジリと下がる。枕とか触った瞬間に飛び出てくるとか最悪だ。


ゾワゾワが止まらないし、ネズミじゃなくても虫が髪の中にいる?



「――――んぅっ!!?」



頭を払ってもまだ気持ち悪い気がする。


時計もないし深夜とかだと何時かわからないのに人を呼ぶのも憚られたので試しに水の膜と魔力水で水鏡を作ってみる。


真っ暗な中、後ろに魔力水の光源、前に水の玉を作って……また引っ張られる感覚!



「だれっ!!?」



杖を頭の周りに振ってみるも誰もいない。


髪になにかくっついたのか?何が起きているのか、顔を映してみる……………なんだこれ?



「「「にゃー!!」」」



流石に声が大きかったのか海猫の人達が来てくれた。深夜だと言うのに申し訳ない。



「えっと、鏡のある場所に案内してください。持ってる?あ、貸してください。ありがとうございます………ナニコレ!!!??」




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「それは……変な髪型だな。他に体に変化はないか?」


「よくあることですな」


「おぉ、なんだこれ……?」



髪が、アホ毛が出来てミョンミョンしている。


毛の束は梳いてもすぐ元に戻る……というここだけ毛量が増えた気がする。そして動き回っている。



精霊との契約の場が設けられるのは学園での生活を得て年齢や精神力が成熟しているから出来る。私の場合時期は早いが、それは精霊からのものなのでどうしようもない。


精霊の性質によって魔法や身体的特徴が変わることがある。


アーダルム先生は元々金属製の小型ゴーレム使いだったというのに沼の精霊と契約してから小型ゴーレムが出せなくなった。インフー先生も肌がよく日焼けしていたように色黒だったのは黒獅子との契約後から……フィレーも実年齢はいい年だけど見た目はそう私と変わらない。


私もおそらくそういうことだろうとのことだ。


リヴァイアスも角と牙の生えた大きなマッコウクジラのようだったしおでこの中央に角が生えなかっただけましか………しかし、アホ毛……神経でも繋がっているのかと言わんばかりにミョンミョンと私の意思を無視して動く。



「アホ毛……あほげ………AHOGE!!!」



神殿掃除の結果とは思いたくはない。


というかミョンミョン動いているが下手に動かして毛根がやられないか心配である。



「うぅ……というかこれはハゲる可能性もあるのか………」


「にゃー」


「いや、痛くはないですけども………」



数ヶ月も眠ったり、体が酷く痛む例もあるそうだ……。それに鼻や指、耳が伸びたり、髪の色が変わったり………Be Cool私、まだ大慌てする季節じゃない。可能性に気付いただ。もしかしたらこのミョンミョン動くアホ毛は動いて――――――…………最後にこの中央ど真ん中が根こそぎ禿げるかもしれない。


猫、海猫……猫耳のほうがまだ良いような……いや、まって、歯がトゲトゲに牙が生えたりはしないよね?



「うぉあぁああ~~~」


「ま、まぁ落ち着けフリム。なんだ、似合ってていいじゃないか?」


「この動いてるところがハゲるかもしれないのに?」



リヴァイアスはクジラで、頭から角が生えていたが……あんな感じになるのだとしたら逆にアホ毛以外全部抜ける?


その可能性はシャルルも考えたのかこちらと目を合わせようとはしない。



「う”っ、いや、その……精霊の導きであるし、精霊の加護や寵愛での肉体の変化は……尊いもの………だぞ?」


「せめて目をそらさずに言ってくれますか!?」



私は男女問わず髪が抜けるのは仕方ない部分はあると思っていた。病気の投薬で髪が抜けることもあれば、年齢や遺伝的要因だってあるだろう。


しかし、しかしだ。


自分の意志関係なく、別の存在からの強制によって禿げる可能性というのは考えたこともなかった。



「ま、まママ、マだ落ち着かないとキではない!」



前世でも私は女だったし自分の髪が全部抜けてスキンヘッドなんて思いもしなかった。前世のお父さんは少し後退気味だったかもしれないがそこまでじゃなかったし私も大丈夫!……いや前世基準でどうする!!?オルダースとかいう見たこと無い父親がどうだったかが重要、じゃない。なんだっけ母方の祖父が遺伝で大事?とかテレビで見たような気がする、違う、そんな話を聞いたことがあるような無いような……どっちDA!!?いや!そもそも母方の父親とかも全然知らない!!!??



「お、おちつけ。な?まだ禿げると決まったわけじゃないだろ?」


「陛下!言い方!」


「あ……」


「ワタしは冷静ですワ!」


「ま、まぁきっと大丈夫だろう。髪が薄くなるものは珍しいし、今はゆっくり休むと良い」



珍しいということはいる場合もあると……とりあえず、帰り次第クラルス先生に毛生え薬を教えてもらうことにしよう………いざというときのために……………いや違うなこれは夢だ。そうに違いない。


これは夢だからして夢なのである。なかなか寝付けなかったが悪い夢だからこそ夢から覚めないこともあるのかもしれない。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






――――そして、朝






「いやー悪い夢見たわー」





元気に暴れまわるアホ毛は夢ではなかったようで――――――私は現実逃避した。


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