第132話 オベイロス王家とリヴァイアス領地?
薬草も揃って儀式を行うことになった。その前に結構広い領地だから「祭りするよ!」と告知しないといけない……はずなのだがどんどん人が領都に集まってきていた。
リヴァイアスの領地で大精霊リヴァイアスの契約者が現れるかもしれないという期待は私達が来る前に知れ渡っていた。そして領民は戦争になるならこの都に集まるように教育がされている。この領都なら海があるから食料に困らないし、海があるからこその退路もある。
行事としては年に一度、魔力水に薬草を入れて、この杖でかき混ぜてからそれでスープを作る。スープの材料はこの地に集まるものが各々持ち寄るのと、皆で海産物を獲って入れる。
敵兵は町ごと壁で閉じ込められていた人族の街に閉じ込めた。私の治療した敵兵、チャークさんを筆頭にプゥロさんも締め付ける側として何故か張り切っている。
締め付けるよりも彼らの調査に力を入れてもらいたい。敵兵の中には何処から来たのかわからない兵も多いのだし……。
「そう言えばなんでワーさんは私に仕えようと思ったんですか?」
「わー?……わーはにーに主のこときーた」
黒狐のワーさんに聞きたかったことを聞いた。他の種族は今でも私に対して懐疑的な人がいる。政治に関わらない海猫族はすぐに仲良くなれたが、狐人は彼が出てきた途端その緊張が無くなった。
私に狐の獣人の知り合いはいないんだけどな。
「お兄さんがいるんですか?」
「んー、おーとではたらーてる。ドゥもおきゃーさん」
「え”っ!?その辺り詳しく!」
あれ?狐人族は親分さんの関係者だった?
ワーさんの里では闇の加護を授かる子が一定数いるらしく、情報収集や諜報活動を生業としている。
その中でリヴァイアスに関係のあるかもしれない私の噂を知って人となりを調べられていた。私の噂の中でも奴隷や亜人への扱いを知られていたから私のことは評価が高かったようだ。世間は狭い……のかな?ドゥッガもお客さんだったのだとか………見たことはなかったけど親分さんやり手だなぁ。
それはそれとして、彼は試作していたカレーが気に入ったようで彼オリジナルのカレー粉を作ってくれていた。
私が頑張って試作し「味が物足りない」とか「薄い」とか「初めからカレールゥがあったら」とか「何にでも会う万能料理」とかブツブツ言っていたのを聞かれたらしく、ワーさんは自身の鼻を頼りにいくつも作ってくれていた。
「わーこれすき!わー!かんどう!!!」
まだ私的には微妙だったカレーだったがワーさんは尻尾がボンと膨れるほど感動していた。
「だったら良いんですが、これじゃまだ物足りなくて……」
「これよりおーしーなーの?」
「はい、本物のカレーはこんなものじゃないんです!」
「………」
それからカレーにハマったのか厨房にこもっていくつものカレーを作ってくれていた。
方向性が違うが試作してくれているいくつかの種類のカレー。爽快感があるものや辛味の強いもの、ちょっと方向性は外れているが酸っぱいながらもカレーの風味の効いたもの。…………段々と理想に近づいてきた気がする。
調合したスパイスでルウを用意してもらった。儀式にも使うことになったが獣に見た目が近いのに香辛料は良いのかと心配に思ったが……むしろこういう香りの強いものを獣人は好むそうだ。
一応伝統的なスープも作るがこっちのほうが絶対美味しいから人気が出ると言われた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「無理はするなよ?」
「はい、打ち合わせ通りにお願いします」
いけない。リヴァイアスとの接触……だけではなくカレーによってシャルルには心配をかけてしまっている。
リヴァイアスの神殿、神官もいないそこにはただ人々が祈るか儀式をするためにある。外に集まった獣人達の声はとても大きくて、建物の中にまで響く。
「<領主のフレーミス・タナナ・レーム・ルカリム・リヴァイアスです!!これより儀式を執り行います!!!>」
神殿の外に出て皆に大声で伝える。名前は結構雑に名乗りを変えることが許される。本来ならルカリムこそ最後かもしれないが領主になり、その領地にいる限り、この名乗りが正しい。
国の承認とかいらないのか聞いたがシャルルは「よしやれ、許可する」と言っていたし問題ないはず……ただ宰相が「貴族院の爺共がうるさそうではありますが、問題ないじゃろう」なんて言ってなにか不穏ではあった。
まだアモスさんには認められてはいないが、多くの人に認められ、覚悟を決めた私はこの領地の領主である。
隣の領主の問題もあるし、いや、本家ルカリムやライアームの事も考えると問題は超山積みだが……私しかやる人がいなくて、私が何もしなければ不幸になる人がいっぱいいて――――人々に求められている。
ならばやろう。
強制されたようなものだ。しかし、見方を変えれば私だからできることがあるのだ。私のやる気一つで人々の営みが決まるとなれば責任は重大だし小市民根性の残っている私は「辞退したほうが良いかも」とも思ってしまうが……あの日のシャルルと同じで「助けたい」と思ってしまった。だから、結果はどうあれ、やるのだ!!
「<水よ!リヴァイアスに住みし者のために!出よ>」
杖を掲げ、魔力水を作る。運ばれてくる大鍋を前に、どんどん作る。
空中に少しずつ大きく……どんどん眩しくなる。領民の皆はどよめいている。テロスもワーもこの儀式で使う水は僅かに光ることがあると言っていたがどうせなら全力だ。輝く超魔力水を空中に作っていく。
ジュリオンさんは壊れた人形のように見ていられないほどに酷い状態だった。そこまでの怪我人はいなくともこの領地の領民も多くが傷ついている。
巨大な大鍋に薬草がいれられていく。他にもいくつものの大きな鍋がある。本来数日かけて行う儀式だ。……できれば領主就任もしたばかりであり、この儀式を一つの区切り、禊としたい。
巨大な太陽のように光る水を大鍋に注いでいき、杖でかき混ぜる。……これでいいらしいが大丈夫だろうか?
ひときわ大きな鍋で混ぜられたそれを別の大鍋にも分けてもらう。
後は料理だ。それぞれの種族で収穫したものを持ち寄ってそれをいれていく。収穫祭や狩猟祭も兼ねているのか今も漁に出ているものもいる。流石に防衛面を考えれば全領民に一度で済ますというわけにもいかない。
基本的に私の仕事は終わった。もう一つの問題を終わらせよう。
船に詰め込まれていた隷属にかけられた人々に出てきてもらう。シャルルに跪き、頭を垂れる。
「<リヴァイアス領主としてオベイロス王に願う!不当に隷属させられた領民を救う手助けを!>」
「<シャルトル・ヴァイノア・リアー・ルーナ・オベイロスがリヴァイアス領主の懇請を聞き届けた!!我が大精霊ルーラ!隷属を消し払え!!>」
攻め込んできた敵の船には括り付けられていた人魚だけではなく元はこの領地の領民が戦闘奴隷として収納されていた。
隷属も抵抗できる場合と出来ない場合があるが、オルミュロイは長い隷属によって妹であるタラリネたちをどうしようもなく殺そうとしてしまった。
隷属させられた戦闘奴隷も、数年かけて兵士にされたのか……故郷を攻撃するのに出来る限りの抵抗をしようとしていた。彼らのことを知ればここに集まった獣人の彼らは人との対立を深めるだろうし。
更にこの領地には「全ての元凶は政争の発端であったオベイロス」という風潮もあるからオベイロス王家への敵愾心を再燃させていたことだろう。
泣いて家族と抱き合って喜ぶ彼ら。数日かけてからの解放になったのは申し訳ないが、戦闘奴隷の中には他領で犯罪を犯した戦闘奴隷もいたことから調べるのに時間がかかってしまった。今回は確実に問題のない人間だけでも解放していく。
私が頭を下げたことでオベイロス王家が上でリヴァイアス領はオベイロスに属するという姿勢も見せられたし……彼らの傷も少しは癒せればいいのだが。
シャルルの横に立って、シャルルの大精霊ルーラが隷属を解いていくのを一緒に見る。ルーラは闇の大精霊で、隷属は闇に属するから結構簡単らしい……逆に隷属をかけるのは力が強すぎて難しいそうな。
「彼らはなんと言っている?」
「え?えぇ……ま、まぁ喜んでるみたいです」
「そうか?なんか顔が赤くないか?無理していないか?」
「なんでも無いです!」
なんかリヴァイアスやオベイロスへの称賛だけではなく、別のものが聞こえる。
聞こえてくるにゃーにゃーの中に「シャルルにブラシをもらって、そのブラシで私の髪を梳いていた」ことからなんか夫婦認定されている。そこから「ブラシブラシ」と「結婚結婚」「髪飾り」というワードがあっという間に広がり「お幸せにー!」とか「子供いっぱい作るにゃー!」とか……微妙に「オベイロス王家を乗っ取るにゃー!」とか聞こえる、その海猫族は横の海猫族に叩かれていた。良いぞもっとやれ。
―――――――いやいやいや!このあんちゃんとはそういう関係じゃないから!!!??
………儀式が終わる前に訂正しておくようにニマニマしているすぐ横のニャールルに耳打ちして言い含める。
下手したら戦争案件だからと伝えるとダッシュで行ってしまった。
「本当に大丈夫か?」
「はい」
「あれだけの魔力水を作ったのだから無理はするな。よっと」
「ひゃわっ!」
抱き上げられた。子供扱いであるが顔が近い。
もうあの光る魔力水を作るのにそこまで疲労しないのにな。
「なんだ?」
「お、驚いただけです!……コホン、隷属を解いてくれてありがとうございます」
「いや、妙案だ。このリヴァイアスの地は巨大だからな、伯父上だけではなくこの領が敵にまわっていたかもしれないと思うと寒気がする……これも精霊のお導きかもな」
「かもしれませんね」
貴族の統治で「領民の不幸は中央のせい」というのは偶にあるらしい。
ここの領民は政争から領主を失い、隣だけではなく他領や他国、奴隷商人や賊から脅威にさらされ、結果として人やオベイロスへの恨みが募っていた。もしも彼らがオベイロス王都に生存競争のために攻め込んできていたらと思うとゾッとする。
それはそれとしてお腹が空いてきたので手早く料理する。
薬草スープは薬草が若干苦いのでできるだけ濃い味で誤魔化したりしていたそうだが今回はカレー味だ。
ワーに作ってもらっていたカレー粉をドバドバと入れる。大分理想に近づいてきた味は素晴らしく美味しい。
肉もいっぱい入っているが超巨大海老は一週間は腐らず食べられるそうでカレーに入れると最高のシーフードになった。タイカレーのようにシャバシャバだが海老の旨味が滲み出ていて最高に良い。
カレー粉の力は凄まじく、薬草はほんのりした苦味がアクセントというか、エグ味が抜けてこれはこれでありな味になった。……強いて言うならもう少しドロドロ感もほしいが仕方ない。
「不味いスープがここまで美味いだと」
「ウメェエエエエエエエエエエ!!!??」
「カレー最高!新領主様最高!!」
「オベイロスは死ね!リヴァイアスに栄光あれ!!」
「うぉおおおお!!?なんじゃこりゃぁぁああああ??!!!」
「リヴァイアス!リヴァイアス!!」
なんかアウトなことを言っているやつもまだいるがカレーは大好評である。
シャルルによる隷属解放の段階で人々の空気は最高潮だと思ったのだがカレーが勝った。うむ、素晴らしきかなカレー……布教しなくては。
「なんか聞こえた気がするが……それにしてもこれは美味いな」
「美味しいので許してください」
「許す。おかわり」
「はいはい」
本当は領主就任の演説とかも少しはしようかと思ったけど、カレー初体験の喜びに水を差すのはやめておこう。
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