第129話 非人道的実験体?
モーモスにも試していた水を更に強化してみよう。
この世界では人を癒やすのは光魔法が最上、使い手は少ないが後遺症などがない。次に効果が魔力のこもった水を使って薬効を高めた薬。鼻や味覚が死ぬ危険な物だが効果は凄まじい。どちらも値段は高い。水魔法であれば比較的安価に体に良い水が出せるが高価は薬や光ほどはない。
魔法で出した水は宰相のように体との相性はあるし、加護次第で飲めなくなることもあるようだが……うん、私の水は変わらず普通に水だ………魔力持ちの人によってはすごく美味しく感じるらしい。
そもそも光の魔法と水の魔法で回復するのは何故だろうか?
魔導書によると魔法による現象は自然な現象と異なる点がある。何もない場所から魔法は出現させる事はできるし、ほんのり光ることもある。
私の水と普通の水、何が違う?私の水は私の思うままに操ることが出来る。その辺りの水も操れる………ほぼ同じに思えるが出現させているのは私の魔力だ。なにか違う気がする。
……海を見て思った。海水と水の違いは塩分だ。それと同じく、魔法で出した水にも魔力が含まれる。
私に出来ることはなんだろう?
H₂Oに近いものなら作り出せる。酸素(O)や水素(H)、オゾン(O₃)、そして過酸化水素水(H₂O₂ )。どれもHとOの領域を出ることはない。
それに温度も変えることが出来る。……それだけじゃないな、自身の手や杖から出しやすい。水に何か持たせたり、自身を持ち上げて移動もできる。
学園には私の他にも水の魔法を使えるものはいた。なのにクラルス先生は私の水を求めた。それは人それぞれの魔力の質に精霊の力が水に加算されるからという話だった。
当時からリヴァイアスとしっかり契約したわけではなかったが明らかに普通以上に良い水だった……だったら今は?
私の水には水以外に魔力が含まれているのは確実だ。
たしか魔導書によると風の魔法もほんの僅かにだが光るという描写があった。
純粋な風も精霊の領域であれば光ることがあるそうだが、風の魔法も光るのであればそれは魔力が関係しているのかもしれない。多分この仮説はあっているだろう。
光の魔法は「純粋な魔力」だから人を回復させやすいそうだし、もしかしたら風の魔法も使いようによっては治癒に使えるかもしれないが……吹き付けるとか呼吸器のあたりなら効果はあるのかもしれない。
しかし、風の魔法で治癒をするなんて聞いたことはない。液体と気体の差があるから体に効果が出やすいのは水なんじゃないだろうか?
光は知らない、あんな回復ビームは推察も出来ない。もしかしたら陽電子?とか量子?もそういうものかもしれないが科学はそう詳しくないしわからない。
それはそれとして、人体への治癒と回復………科学の発展には犠牲がつきものと何処かで聞いたことがあるが―――――
領地の重臣だった人族がプゥロによってはめられた結果、土の魔法が使えるものによって作られた壁の中に閉じ込められていた。
今しかない。実験するのなら今だ。
領地で過去に戦ってきた人もどこかしら怪我をし他人も多いそうで……今なら攻めてきた兵士には大怪我をしている人も多い。
最低限の治療をして私の沙汰待ちだった人の中に片腕が過去の負傷で失くなった上にもう片腕も戦闘で切り落とされた人がいた。……非人道的な実験みたいで心が痛むなぁ。
「な、なにか?」
「貴方には選択肢があります」
船に乗っていた中でも偉そうだった人に話しかける。
周りの獣人たちが「なにかしたら絶対ころす」と張り切ってるし、私を見て驚いている様子だ。
「というと?」
「このまま裁判を受けて刑が執行される。聞いたところ今回捕らえることのできた中で最も身分が高く、指揮官に近い。このまま何もなければ拷問されて衆目の前で処刑、首を切り落として隣の領地に送るのが普通だそうです。もしくは獣の地に縛ったまま放置するなども考えられますが……」
「――――そんなっ俺はっ??!」
「それだけではありません、貴方の家族、愛する人、父、母、子供……友人知人も今後狙われることとなるでしょう。悲しいですね」
おぉ、フリムちゃん外道すぎる。いや、個人が戦車砲みたいな攻撃魔法が可能「かもしれない」世界だ。見た目では分からないが恐ろしい復讐者が生まれる可能性はあるのだ。
彼の家族がどこにいるかはわからないし、おそらく逮捕権の有しない地にいるのだから捕まえたりは出来ないと思うが……この領地に入ってきたのなら容赦は出来ない。指名手配扱いとなる。
隣の領地にその大切な人がいて――――さらにうちが抑えることが出来たのなら実現はあり得る。
男は真っ青になってガクガク震えている。
「何でもする!なんでも!!そもそも俺は従者の家系で船数隻の指揮のために呼ばれただけだ!!?な、なんで、俺が??!家族だけはっ!頼む!そういうのはもっと上の……」
手を上げてそれ以上喋らないように促した。
自分の外道っぷりで気分が悪い。
「もう一つの道があります。治療の被検体になっていただきます。その場合、試験的な治療を受けてもらいますが志願するというのであれば減刑はしましょう。家族への指名手配も結果と貴方の態度では考えることにします」
「な、ならっ!!」
「ただし!その治療の結果、貴方は死亡、または命の危険のある強い副作用も考えられます。治療の経過を見るために長くこの領地にいて貰う可能性もあります。食事に困ることはありません……そんなところですかね。ただ、別に怪我人は貴方だけではありませんし、返事はすぐにしなくても―――」
「志願します!!!」
「そんなにすぐ決めてしまっても良いんですか?」
必死過ぎて怖い。いや、こんな酷い脅しを言われれば仕方がないだろうが。
「両手もなくしてしまったこの身では帰っても厄介者にされるかもしれない。自分で選べるなら最後ぐらい家族の役に立てることをしたいんだ」
「わかりました。貴方は志願ということで処理します」
「ありがとうっ!ありがとう!!」
彼は身分もあって、杖も持っていた。つまりその家族は魔法が使えるかもしれない。
もしも彼の家族が我が領地を攻撃しようと計画するなら……それはどうしても容赦が出来ない。感謝の言葉でなんか心が痛む……これから実験で彼がどうなるかわからないというのに………。
彼のように片腕は古傷で失い、もう片腕を失ったばかりの方は他にはいない。それも魔力持ちだ。
実験の成果というのは数千、数万回結果を見ていかないといけない。それも様々な条件を変えた実験の結果も繰り返して精度をあげられたものこそ、信頼性がある。
各種実験の要項は決まったしすぐに実験は開始される。非人道的かもしれないがこのままでは彼は拷問の末に苦しんで殺されることが決まっている。
残虐かもしれないがこの領地を攻め落とそうとしていたのだし、この国の量刑としても当然らしい。非人道的な気もするけど未遂とは言えもしも成功していたら何千人も死んでいたかもしれないって考えるとなぁ。
プゥロも裏切った結果、拷問後日の当たる場所で干されている。全身の怪我に効くのかという実験にはちょうどいいだろう。
言葉を話せるようになる儀式とやらには素材が必要らしいのでニャールルさんに任せた。
残念ながら混乱の激しいこの領地では安全上の理由からまだ隷属の魔法は解かないほうがいいそうなので監禁してしまったが改めてシャルルに頼むことにしよう。
―――――さて、結果が出せるように私は頑張ることにしましょうか。……ただ、インフー先生のように良いものを作ろうとしても駄目になる可能性はある。
体がどこまで回復するかは分からないが痛みがない程度に整ってくれたらと思う。――――が、期待せずにはいられない。「魔法なんだから手足が生えたって良いじゃないか……」って。
無理かもしれない。例えば手足が少し生えたって栄養失調や、その部位が脆くなって使い物にならない可能性だって十分にある。
骨延長術だって行った結果その骨が駄目になるなんて話も聞いたことがあるぐらいだ。もしかしたら悪化する。もしくは全然効果がない可能性だってある。
しかし、400年生きて体をコントロールできるオーガ……じゃない、宰相がいるんだから、治る可能性はある。それにそもそも治療目的だし、治療の可能性がすごく高い実験だから滅多なことにはならないと思いたい。
水の中の魔力をより多く残せるように、力をただただ込めていく。
ただ水を出すだけならいくらでも出来そうだが、こんなことをしたことがなかったので難しい。操作のために力を込めるようなことはこれまでにもあったが魔力の濃度を上げる作業なんてしたことがない。
魔力を込めても限界値があるのかこれ以上は無理な気がするが……なんとなく出来る気もする。
半日かけてようやくほんの僅かに光る水を用意できたので志願者の皆さんに飲んでもらう。爪や牙、剣や槍で傷つけられた彼らの治療は最低限だし、効果が出るものかは分からないが少しずつ飲んでもらった。
………この水、爆発、しないよね?宰相、もうちょっと前に出てください。
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