第128話 リヴァイアスへの忠誠?


朝起きると……なんか全裸だった――――破れた服の上に寝ていた。



多分暑苦しくて勝手に脱いじゃうあれだ。多分水しぶきもあったりしてベタベタして気持ち悪かったから脱いでしまったのだろう。無意識だったけど無理やり脱いだのか戦闘で傷ついていたのか伸びきって着れないし、なんかきちゃない気がする。


シャルルには驚いたが絹のような薄い布がいくつもかけられていたのでまぁ問題ない。見られたとしてもどうせ寸胴だし欲情するものでもないはずだ。


いつの間にか寝ていたが幼女ボデーに徹夜や労働はきつかったのかもしれないな。


とりあえずシャルルを追い出して別の服を着る。


なんか神々しい服が用意されているが……まぁ他に着るものもないし仕方ないか、どうやって着るんだ?


服を着るのに1人で格闘して数分。やっと着れたのでシャルルを呼んでどうなったか聞く。



「3日寝てたぞ」


「え?」


「3日だ、体に不調はないか?」


「ないと思います?」



思った以上に寝ていた。


肩を回してみても肩こり一つないし、人魚の人の爪で腕を怪我していたような気もするがどっちの腕だったかもわからない。うん、問題ない。



「まぁいい、お前が寝ていた間に色々あったのだ」



私が寝ていた原因はリヴァイアスであるそうで……まぁ仕方ない。うむ、精霊のお導きのままにってやつだ。


それはともかく、戦闘後リヴァイアスの力でないと説明がつかない私の水の操作を見たことによって獣人の方々は私を立てることに決めたそうだ。



「裏切っていたのは誰だったんでしょうか?」


「魚人の……プゥロ?だったかな?襲撃の最中、浜で火をつけようとしていてわかりやすかったぞ」


「あぁ、あの怪しかった人」



なんか胡散臭かったんだよね、あのナマズの人。声に嘘が混じって聞こえたというか。


それより大問題がある。


私が寝ていて、人を近づけずに、シャルルを呼んで……シャルルはそこそこ近くにいながら私に接触できずに結構な時間を待たされていた。王様呼びつけて3日放置………それもそれで大問題だが敵の方がもっと大きな問題だ。


隣の領主がうちを攻めてきていてその裏には他国の影があり、しかも司令官クラスは船団よりもかなり遠くにいて拿捕できていなかった。


しかも……だ、隣の領の兵士が捕まった以上、他国に協力を要請する可能性がある。もしくは陸続きで攻め込んでくるかもしれない。



「でも、船もないのに?」


「船に載せられる兵力には限界がある。どれほど余力があるかはわからんが、急ぎこの領地を掌握する必要がある」


「しかし、私がそこまで認められているのでしょうか?」


「………外を見ればわかる」



外に出てみると思わぬ景色が広がっていた。


人が浜辺も海を覆い尽くしてこちらを見ている。多くの種族の人が……あれ?捕まえた兵士さん達もそのまま?3日間繋がれてその場にいたんですか?




――――――――………………私はそっと布を戻した。




「えぇ……?」


「どうする?」


「…………行ってきます」



ちらりと外を確認してから顔を出すとなんかジャジャーンと楽器が鳴った。ヲイバカヤメテ!!?


口元がヒク突きそうになるのをぐっとこらえて皆の前に出る。上がる歓声、なんだこれ?私の後ろに偉い人いるんじゃない?ほら総理大臣とか……王様ならいたっけ?でも出てきてないしな。


何を話すかも決めていないが杖を手に取って勇気を出して話す。



「<みなさん!寝ていてすいません!>」



喉に魔力をこめ、大声で……浜辺を埋め尽くす人の海の端々に伝われという気概を持って伝える。謝罪が思わずでちゃう辺り日本人だな私。……でも「私は無事です!解散!!」と出さなかった辺り私偉い。



「<怪我人はいませんか?>」



もう少しいい言葉があるだろう私……?!


違うな、少し深呼吸して必要なことを聞こう。



「<種族代表の方々、私を認めるのか?それとも別の方を代表に立てるのか!教えてください!!>」



頭を下げた相手に正しく言葉を伝える方法なんて私は知らない。


――――……各種族の長らしき彼らが前に出てきた。さぁどう来るか。



「「「永久にこの海に在りしリヴァイアサン!」」」



ちょっと驚いた。大声で何かを唄うように私に何かを言ってきている。



「「「我ら矮小なる存在を守り育みし偉大にして絶対なるリヴァイアサン!!」」」



言語はわんわんニャーニャーと聞こえるのに、多くの種族が揃って伝えてくる。


リヴァイアサン、リヴァイアスへの信仰とも言うのだろうか?地方で信仰は様々だが現代であっても強く祈り、大切にしている人は確かにいる。



「「「リヴァイアサンの縁を結びし姫君に従いましょう!!絶対の忠誠を!」」」



「わーらをみちびーてくださいまーせ」



黒い狐人の人が微妙な共通語で話してきたが言いたいことは正しく伝わった。


彼らの言葉には一切の嘘がないことも不思議とわかる。――――なら私も覚悟を決めないといけないな。



「<わかりました!その忠誠を受け取りましょう!!>」



わっと声が上がった。


しばらく叫ぶように歓喜の声を上げてくれているが手のひら彼らに向けて向け、一度静かになってもらう。…………「君たちが静かになるまで5分かかりましたね」とか言いたい、時間はわからないけど腕がつかれたよ。


彼らの様子は「熱狂」と言ってもいいだろう。それだけリヴァイアスはこの地で信仰されていて、そしてその代行者いや契約者と呼べる主の不在は不安だったのだろう。


見通しのわからぬ未来は苦しいものだとよく知っている。



――――……しかし、まだだ、まだ納得していなさそうなものがいる。族長らの後ろに一人立って、こちらを伺っている者がいる。



「<アモスに問う、私は主に不適でしょうか?>」



竜人アモス、私が来るまでのリヴァイアスとの契約の最有力候補で、この土地の有力者だ。


彼だけは頭を下げることもなく静かにこちらを見ていた。



「フレーミス様こそ、この地、この海の主としてあるべきでしょう。主とするにこの上ない僥倖であろう」


「<では何故?>」



周りにも響くように声に魔力をのせて話す。威嚇用ではない。



「ただ、リヴァイアスの契約者が不在の間、この地では傷ついたものがいる。不当に苦しめられたものがいる。それらの処遇を見なければ認めることは出来ぬ!!」


「兄貴!駄目だって!あの力を見ただろ!?殺されちまうって!!」



大きなアモスの後ろにいて気が付かなかったが犬人のホーリーがいた。


よくわからんが言ってやってくれ、そして今にも「決闘しよう」とか言い出しそうなそいつを止めてくれ。


あ、わんわんとグルルゥでは通じてないか、駄目だった。



「勝てはしないだろうな、だが、勝つか負けるかではない。新たなこの地の主が力なきものをどうするか、力ある主が何を成すかを見届けないとならん――――事によってはこの槍を向けることとなるだろうッ!!!」



他の種族には通じていないが槍の石突を浜に叩きつけて、ゴルルァと鳴いた。



「<貴方の言い分はわかりました。私に何を望みますか?>」



ちょっと強めに喉に魔力を込めて話す。魔力の無駄な気もするがそのほうが演説には有利な場合があると習った。


他の種族が彼に向かって武器を抜いた。


今にも攻撃しそうだが止めるためにも問答を続けることで静止する。



「1つ!裏切り者と言われて閉じこめられた人を如何するか!」



強い言葉で問われたが、プゥロのことだろうか?



「2つ!主なき間に傷ついて戦えないものを如何するか!」



私が寝ている間に怪我人がそんなに出ていたのだろうか?なんか伝わってくる言葉の真意が違うように感じる気がする。



「3つ!戦となるこの地で主として如何するか!」



それは答えられそう。これまで攻められてきたのになぁなぁで済ませちゃ駄目だろってことだよね。


オベイロス国内のことだしシャルルと相談しないといけない話だね。



「4つ!真にこの地の領主ならば言祝ぎの儀式を行えるか!」



知らない、なにそれ?



「如何するか見定めさせてもらおう!!」



しっかり言いたいことは言ったというアモスさんだが、ノータイムで返す。



「<タイム!じゃない!まって!多分全部初耳だから!皆武器おろして!話し合お?ね!?>」



無知は罪という言葉が前世にあったような気がするが……これは私が悪いのかはわからない。


言語が通じてないからかアモスの行動に武器を持ってアモスを取り囲み始めたしとにかく止めることにした。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




アモスさんが言うことを各種族の長とシャルルに翻訳して伝えると種族の長たちは明らかに動揺した。



「にゃー………うなぁお、なー、にゃー」


「チビ猫はなんと言っている?」


「人が半分以上リヴァイアスに追い出されて人族は信用がなくなった。他領から奴隷商が隷属で亜人を従えて襲撃してくる。誰かの手引があるはずだけど誰が裏切ったかわからず、純粋な人間は高い壁に囲まれた街に閉じ込められているそうです」


「亜人による人の封じ込めか、言いにくいのもわからんでもないが」



きっとギスギスして最終的にそうなったんだろうなぁ……その判断は仕方ないと思うし私がどうこう言えるものじゃないんだけど。…………彼らからしたら私の不興を買うとでも思ってるのだろうか?


まぁもしかしたら本当に裏切っている人もいたのかもしれないから調べた後に解放してもらおう。



「えっと次、怪我人とは?戦闘で怪我人が出たんですか?」


「領主様方亡き後、いえ、その前からこの領は荒れていて今も多くの負傷兵がいます。きっとアモスはそういった彼らをどうするかを知りたいのでしょう」



この世界では奴隷制度があって、さらに「領民は領主のもの」という考えもある。


となれば私が怪我をした人を売るんじゃないかと心配しているのかもしれない。



「なるほど、その次は……シャルルと相談するとして、最後の言祝ぎの儀式ってのはなんですか?」


「この地に住まうものは同じ言葉を使うためには年に一度御領主様の特別な水を飲まないといけないのです」


「なるほど……いきなり彼が何を言っていたのかわかりませんでしたがなんとなく理解しました。まず怪我人についてですが全員治すために努力しましょう」


「売らないので?」



この亀の人も心配していたのかな?


あ、よく聞けばこの人、共通語を話してる。



「売るわけ無いでしょう、大事な民ですよ?それもこの地のために尽くしたであろう方にそんな事はできませんよ」


「………」


「人間たちについては、私は別に種族で差別はしません。彼らの処遇は知りませんが裏切り者がいないかを確認の後に解放の方針で……後はシャルルと話し合うので怪我人についての情報を集めてください。あ、それと敵兵と隷属の魔法をかけられた相手についてもシャルルと話し合います。もしかしたら他領からの侵略があるかもしれないので全方向の領の境界線手前までに斥候を出してください。わかりましたか?」


「「「はい!」」」



皆にやってほしいと願われているのなら、やるしか無い。やるしか無いのならベストを尽くす。――――こういうのは柄じゃないとはわかっているが、それでも私で役に立てることがあるならやろう。


寝る前に船にくくりつけられていた人魚の隷属をシャルルになんとかしてもらおうとしてそのために呼んでいたはずだったのだが、シャルルは連れてこられただけでそこまで通じていなかったので改めてお願いしよう。…………わー、絶対怒られるやつだー。

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