第127話 闇と光の中で見たもの?


俺がフリムの横に居たほうが良いのではないのか?


襲撃に対して前線に出るフリム。闇の魔法はそれ自体が攻撃力に欠けるが俺と爺が近くにいればおおよそどんな問題でも防ぐことが出来るはずだ。範囲は狭くとも闇で見えなくすることは出来るのだから。


最近はふっくら重くなってきたとはいえ、小さなフリム程度なら俺が抱き上げればそのまま移動できる。


だけどフリムがそうしなかったのは……俺の「王」という立場を危惧したのか?



――――あんなに小さな子にすら気を使われている。しかし俺が行けば邪魔になる可能性もあるから無理に行くこともできん。



仕方なくだが部屋から外の様子をうかがっていたが、これはこれで出来ることも多い。



「爺、そこで待機していろ」


「はっ」


「<ルーラ、俺の視覚を強化してくれ>」



外からだからこそ見えるものは多い。それも夜ならなおのこと……上から見てみると種族内でしか会話の出来ない彼らは慌てながらも行動している。


亜人の表情は毛深くてわかりにくいが笑顔で嘘を吐く宮中のゴミに比べてなんとわかりやすいことか。


正面から今にも飛んで行きそうな竜人。寡黙だったはずなのにおそらく共用語で後ろから命じている亀人。うまく配置されてその場を守る犬人。浜辺で陣地を築いて船を移動させている狐人。松明を持って空の上を旋回している鳥人。武器を運ぶ牛人。



――――……他にも多種多様な種族が思い思いの行動をしている。



多くのものが見えてくる。全員が全員まともに動けているわけではない。慌てふためいているだけの者、喧嘩している者もいる。………練度、やる気、統率者の有無。……海の中にもなにかの種族がいるな。


本当に、いくつも見えてくるものがある。



あぁ、あれだな。



「爺、あれだ。見えるか?」


「はい。いかがします?」



フリムに全部任せたほうがいいかもしれないが、見つけてしまったのなら見逃すことは出来ないよな?



「殺さずに連れてこい」


「はっ、陛下もお気をつけください」



寝込みを襲われたのならともかく、万全の準備をしているし爺が戻って来るまでなら絶対に大丈夫だ。



「……いつでも使えるようにしておく。だがすぐ戻ってこい」


「風の精霊にも負けぬ働きをしましょうぞ!!」



いや、うん。本当に驚くほど早く問題は解消された。


跳んで行った爺が捕獲し、本当に風の精霊のように戻ってきた。そこいらの風魔法使いではあれほど重さのありそうな者をこうも簡単に連れてくることは出来ないだろう。



フリムの方も心配だったが――――その心配もすぐになくなった。



海を、そのまますくい上げた。



「――――桁外れですな」


「そうだな」



ここまでの規模の魔法をあっさり使うものはそうそういない。


リヴァイアスの口に含まれた時は驚いたが……これを見るに認められたということだろうか?



「のびているこの輩はいかがしましょう?」


「食うなよ爺」


「――――味は悪く無さそうですの」


「食うなよ!!?」


「冗談ですじゃ」



今なら食いかねない。


まぁこいつは後で刑を執行するにしても情報を吐き出してもらわないといけない。


叫ばれてこちらが敵扱いされるのも面倒だし縛っておこう。


フリムの方はほとんど危なげがなかった。少し怪我をしたようだが味方を立派に指揮し、敵に何もさせずに制圧していった。




朝になると多分フリムに呼ばれた。というか絨毯に載せられて連れて行かれた。


爺も大きくなっていたが力の有りそうな者に運ばれて……浜辺で倒れたフリムのもとに連れてこられた。



「フリム!大丈夫か!?」



上で見ていたがフラフラしていたのが急にパタリと倒れたのだ。



「「「シャァアアアっ!!!!」」」



近づこうとすると猫どもにこれ以上近づくなと言わんばかりに威嚇してきた。


呼ばれたのは薬がないとかそういうことではないのか?



「なんだ?呼んでおいて何をさせたい?フリムは無事なのか?」


「「ウォロロロロ」」



何を言ってるのかわからんが警戒されてるようだ……無視してフリムを見てみるとほんのりとだが呼吸しているのが見て取れる。


腕の怪我で毒でも入ったのなら一大事なのだが……無理矢理にでもこいつらを突破するべきか。



「ほっほ、どうやら姫君は疲れたようですの」


「貴様は喋れるのか?」



爺ではなく亀人、上から見て他の種族にも指示をしていたな。



「なかなかに喉を疲れさせますがな。名をイリニ・ククレクク・ラオー・テロスと申します。テロスとお呼びくださいませ。尊き方よ」


「………」



一応爺が俺のことを国王と言っていた。当然少なからず俺の身分を知るものもいるだろう。


この者は言葉が通じるようだが何を言いたいのだろうか?一応腰の剣をいつでも抜けるように意識しておく。



「儂はかつてリヴァイアス家に仕えておりました」


「ふん、それで?」



狙いがわからない。辺りでは多くの種族がフリムの心配をしているのか絨毯の周りを快適にしようと柱と布で日を遮っている。


場所によっては精霊に捧げる祭壇にも見えなくもないが……。



「姫君は裏切りを心配して人を寄せ付けないように、そしてシャルルという人物を呼んでいました。お間違い無いですかな?」


「うむ。シャルトル・ヴァイノア・リアー・ルーナ・オベイロスである。シャルルとはフリムに呼ばせている愛称である。――――貴様に許したわけではない」


「失礼いたしました。この首一つでお許し願えますかな?」


「フリムは流血を望まん。その首はフリムの言葉を民に伝える喉であるのだから大切にせよ」



警戒は続けるが……飄々と命をかけてこちらを見通そうとして来る老人は厄介だな。



「おぉありがたく……フレーミス様は人を近づけないように、かつシャルトル様をお呼びしました。その場でお待ちいただけますかな?」


「まぁ、仕方ないな……それよりもフリムは無事なのか?」


「どうでしょうか。リヴァイアサンの御力を使えていたようですが見たところ幼い身のようですし………いえ、きっと大丈夫でしょう」


「そうか」



これだから厄介なのだ……精霊というやつは。


王家の精霊が仲介する精霊契約でも大人が子供に、大人が老人になることはある。それだけならまだしも体が岩や木になるものもいる。


地方の精霊の中でも力の強いものは人と何かしらの縁を結ぶが命をかけて行うものもいる。人という器に精霊の力が大きすぎるのだ。


学者は精霊が人を作り変えるなんて言うが……リヴァイアスがどこまでの契約をしたのかはわからん。が、幼いフリムには厳しいかもしれんな。


いや、リヴァイアス家のものが戦闘で前に出て死ぬ以外でこういった死の記録はなかったから大丈夫なはず。しかし、学校を卒業して体の大きくなったものでも契約の負担は大きい。となれば………。



「………ミャ……サシミー…………」


「まぁ……大丈夫そうだな」



顔を見れば幸せそうに寝言を言っているし大丈夫だろう。火の精霊のように体が傷つきやすいわけではないしな。


それに此奴なりに頑張っていたのは見ていた。他の誰にもできない偉業だろう。――――……今はよく寝ると良い。


こちらの問題はできるだけ終わらせておくから。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




自分の考えを改める必要があるな……さっさと起きろ。


ナマズのプゥロは混乱に乗じて浜辺の小屋に火をつけようとしていた。苛烈な拷問の結果、彼の里は隣の領地にあって、里の者が人質になっていた……内通者はこいつであった。


面倒なのは襲撃の主犯が隣の領主ではなく、そこと繋がりのある他国だ。


リヴァイアス家は海と面して交易が盛んである。しかもその地を守る精霊が契約する一族が全滅。もしも精霊に気に入られてこの地を掌握できれば……そう考えた者は多いのかこの地は狙われているようだ。


すぐに軍を編成するように俺の手紙を王都に届けてもらう。領主の不在にこんな国を揺るがす計略をかける領主などいらん。今なら俺がいるという大義名分もある。何なら攻め落とした後にリヴァイアスに併合してしまえば良い。



リヴァイアスの力による全滅を見越してか……旗艦は火を灯さずに離れていたようで敵の指揮官はいない。



それにしてもこの地のものは俺よりもフリムが大事なようで遠慮がない。ほんの一歩近づこうとしただけでチビ猫共は唸ってくるし……いや、俺、フリムの主なのにな………。


近付くな見るな嗅ぐなと言わんばかりにフリムには薄手の布がかけられていく。眠りについて動けない領主のために、そして新たな襲撃を考えてか……フリムのいるのは浜辺の絨毯の上だったはずなのに今も改修工事が進められてそれなりに立派な神殿と化している。


風通しは良くしてあるが屋根もしっかりしている。貢物というかお供えも大量に積まれている。


フリムの働きを見てかこの場にいるものはとても心配しているのがすぐに分かるが俺のことは「なんだ?こいつ?」と言わんばかりに警戒されている。


それはいいがフリムは寝すぎている。強い加護で1月眠るものもいるし文献によると200年もの間眠っていたものもいる。普通は数日ですむのだが……いや、ここでずっと待つのは流石に王都が心配になる。


薄く肌触りの良い生地をつかってフリムに何重にもかけられた布団。今フリムがどうなっているのか、チビ猫共のせいで見えないが様子がおかしい。



……なんか大きくなってる気がする。



精霊と何らかの縁があれば不思議なことが起きるものだ。空になにもないのに花が降ってきたり、祭壇から火が吹き上がったり、丘が生まれたり……水ならどうなる?


もしも水が体から出ていたとして、あの薄手の衣が水を通さないのなら?


膨らんだ布の塊の中で溺れているんじゃないか?


フリムを見てうろたえる猫どもを無視してフリムにかけられた布団をはぐ。



「大丈夫か?フリ――――ム?」



幸い溺れているわけではなかった。しかし、全く予想外のものが目に入った。



「なんですか?おはようございます……んー、よくね「「「「ん”に”ゃ”ぁ”あ”あ”あ”あ”あ”」」」」



猫共にはボコられたがこれは俺が悪い。爺もこれは助けてくれないようだ。


猫どもから逃げて見直すと……いつもと同じフリムであった。



「フリム!こいつら止めろ!!寝るんじゃないっ!!フリーームッ!!!??」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る