第126話 裏切りと負傷者?


「……リム、起きるんだ」


「ヒョウィ?!」


「様子がおかしい。起きるんだ」



深夜に耳元に呟かれる声、揺らされて起こされ「すわシャルルか!!?」と内心パニックになった。


目をつぶってシャルルを少し現代日本での常識と照らし合わせて考えてみた。王様や権力者って世継ぎを残すのに何人とも結婚したり年上や年下との恋愛もあるあるだなと分析してしまった。


権力者だからなのか時代がそうさせるのか……性癖はネジ曲がって性別関係なく手を出したりも「武家の嗜み」だっけ?まさか宰相と………駄目だそれ以上は考えてはイケナーイ。



落ち着いて何が起こっているか状況を確認する。



外を見ると海からの襲撃、おそろいの服を着た軍隊。このタイミング……。



「偶然?」


「いえ、これは内通者が居ますな、見なされ」



宰相に言われて見てみると船の先に人魚が縛り付けられている。―――酷い真似をする。



「風の魔法使い。いえ、足の早い亜人がいるのじゃから領地の外に軍を予め用意していたのなら時間があいますじゃ」



この地では今か今かとリヴァイアスとの契約が期待されていた。


契約直後は人間は変わることがある。フィレーはギレーネの姉であるが見た目幼女だし、髪の色や体型が変わることもある。歴史上では王族が山をまたいで超えるほどの火の巨人になったこともあるそうだ。


多分この年齢不詳の宰相もそうだろう、400歳を超えているのに若返ったりオーガみたいになるとかおかしい。


そして契約直後は体が変化することもあるし力を振るえないことがあるとエール先生から学んだ。精霊も人と縁を得たタイミングでなにかすることもある。


人ではなく領地で果物が取れやすくなったりなどの変化はよくあるそうだが……もしもリヴァイアスが外からの侵入を止めることをやめたのなら?



リヴァイアスの契約のタイミングに合わせて「領主の弱体化の可能性があること」「領地に入れる可能性があること」そして「獣人同士で意思疎通のとれていない内部事情」などの情報を誰かが漏らしていると考えられる。


――――領の外に待機していた兵士が攻め込んできたのだから可能性は充分だ。


誰かが裏切っているのはほぼ確定した。怪しいと言われた狐の人たちかどうかは定かではないが、とにかく対処しないといけない。



「私は大丈夫なので宰相はシャルルについて下がっていてください」


「わかりました。御武運を」


「無理はするなよ」



ニャールルさん達海猫族は力がない種族だと聞いたが、状況も状況なので彼らだけを近くにいてもらい杖を振るう。



「<水よ>」



城壁から下の海まで何メートルあるだろうか?この距離だと水を動かすにしても一度出さなきゃと思ったが……全部を動かせた。



「えっ?」



水が、海水がどこまでも自分の体の一部のようだ。


試しにほんの少し持ち上げただけ、そのつもりが船団をまとめて持ち上げられた。



「「「にゃー!!!??」」」

「何だこれは……何だこれは!!?」

「リヴァイアサンが来てくださったのか!!」

「おぉ精霊よ!」



こちらの亜人、獣人の人からすると私は怪しいだろう。


まともに戦えばきっと被害が出る。―――だから一気に終わらせる。



水玉に船団を包み込み、互いにぶつからないように混ぜる。中からも兵士もでてくるが空中で水玉から壁の内側の海に落下させる。船に繋がれた人魚と……もしかしたら中にいるかも知れない人には我慢してもらおう。人質にされたりオルミュロイのように主に命じられてしまうと止めるのが難しくなり、きっと双方に被害が出る。


命じられそうな人間を全員、訳もわからない状態のまま倒してしまう方がいい。


城壁の上に船をひっくり返して斜めに置き、船首に括り付けられた人魚を寝かしていく。水の力で船首を折ろうと思ったが無理矢理に壊すと人魚たちを巻き込みかねない。


船から大部分の人は落としたはずだがまだ中に敵はいる。突入していく獣人達。


私は乗り込んでいく彼らを見送り人魚の前に出る。船から攻撃がとんでくればすぐに人魚を守れるように。


上半身は人間で下半身が魚、全員がそういうわけでは無い。全身に鱗があって人によってはふくらはぎからヒレがはえている人もいる。ナマズのプゥロは体まるごと魚に近かったが……。


人魚は水で押さえつけて、海猫族の人達によって首輪か鎖、どちらでも良いが手早く外してもらう。



頭上に持ち上げている大きな水玉の中の船は揺らしているがまだまだ船内から人が降ってくる。


急ぎで少し下がって船を置いていこう。ただ鎖か首輪が外せるかが重要になってくる。



―――外せないなら人員を置かないと彼女らが人質になるかもしれない。



「えっ?つっ!?」



押さえつけていたはずの人魚が私に襲いかかってきた。


腕を少し引っ掻かれただけで問題はない。すぐにニャールルさんたちがのしかかって取り押さえてくれた。



「にゃー!!」


「大丈夫です。彼女は悪くありません!誰か船をおろしていくのでこの場で彼女らを保護するように!!次の船をおろします!!下がってください!!!」



ピリリと傷むが服が破れた程度だ。いや、ちょっと切ったな、赤く袖が染まっていっているが大したことはない。


それより敵とは言え船の全員を溺死させるのは流石に酷だ。周りの獣人の兵の方には一度下がってもらい、船を下ろして兵士を突入させる。人魚の保護も忘れずに伝えてを5度ほど行い、残りの何十隻かは砂浜におろした。



「はい、次はそっちのグループの人達!中に人がいるかわかりませんが敵は捕まえて奴隷は救出!人魚の人たちは助けてください!はい次ぃ!!」



領兵は浜辺には既にすごい数が集まっていたので船を下ろしていく。ここまで広範囲を操作したことがなかったし制御が心配だったがこの土地の水はどこまでも使いやすい。


結局朝まで叫び続けて、ほとんど被害はなく戦闘は終わった。



「ニャールルさん、誰が裏切っているかわからないのでできるだけ人を近づけないようにしてください」


「なぁお」



大体の指示を出すと種族の偉い人たちがそれぞれ動いてくれる。近寄って色々話してきそうだが私が限界だ。


こんなに広範囲を操ったのは初めてだからか、一晩中叫びまわって喉もちょっと痛い。アドレナリンでもでていたのか夜から朝まで動き続けるなんて思っても見なかった。


ちょっと朝日が眩くてくらくらしてしまう。



「そうだ、そう。シャルル、シャルルを呼んでください。隷属の魔法をどうにか出来るかもしれません。宰相……オーガと一緒にいます」


「「にゃー!」」



隷属の魔法は闇属性の魔法だ。


私には鎖を外すことは出来ても隷属の魔法をどうにかすることは出来ない。


無理やり戦わされそうになっていた奴隷が船には積み込まれていて、上役の人を見つけて動かないように命じてもらったがそれぞれに上役がいるのか、攻撃したくないのにしなければならないともがいている人もいる。


しかし、闇の精霊と契約しているシャルルならどうにか出来るはずだ。専門外でも王都の側にどうにかできる人を手配してくれるはず。



「それと、それと……なんだろ、何をしなきゃいけないんだ?えと、そうだ、水飲んでください敵味方両方。出すんで。私出すんで。……私も飲みます」



疲れた人も多いだろうし、海ではしゃいだら水分が必要なはずだ。


特に犬ちゃんや猫ちゃんは塩分が駄目だった?気がする。


船の中に入っていた水樽らしきものが浮かんでいたのでまとめて持ち上げて中身出してちょっと洗って水を入れていく。


怪我してる人もいるだろうしいつもよりも力を込めて……私がとりあえず飲む、毒じゃないし喉も乾いてる。



「ドーゾ、皆さんで飲んでください。おいしーよ」



もう戦闘は終わった。



何人か流されてしまった可能性もあるし種族間で誰も流されていないか、怪我人はいないか確認してもらって、敵司令官を探している。


船をひっくり返して人を落としたが人のみならず物資が沈んだので浜辺に運ばれて積み上げられている。


明らかに敵兵の方々には怖い兵士の人たちが取り囲んでひん剥いて……いや武装解除して縛っているし、もう大丈夫だ。


安心して砂浜にいると耳鳴りがした。


それは私の体調が悪くなっていたのか、寝る気はまったくなかったのにいつの間にか私は眠ってしまっていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る