第130話 超魔力水?う、うーん?
「グガガガガ!!!??」
超魔力水。新しく使える魔法って楽しくて練習にはもってこいだ。
初めは何でも使うのが難しいし効果もしょぼい。だけど練習すればそれなりに使えるようになってくる。
「ハー……ハー………」
ただ、この魔法。なんか駄目な気がする。
「ハハハハハハハハハ」
「クヒヒヒヒヒヒヒヒ」
「ふふ……ふふふふ………」
「あの、やめませんか?」
わかっていても、口に出てしまった。
「いかん!!止めるなんてとんでもない!!!」
「そうですぞ!!こんな素晴ら……ッシイ!のにぃぃ!!!」
「ふふっご冗談を……止めるわけにはいきませんわ」
「私はやめたいです。切実に………いや、まぁ、その、無理はしないようにね?」
「「「ありがとうございますぅ!!」」」
なんだかなぁ………。
――――人体実験は初めこそ緊張感があった。
そもそも魔法で出す水は急速な回復ができるものではなく、常飲することで体の調子を整える程度のはずだ。だから安全であるとは考えられていたがどんな副作用があるかはわからなかった。
しかし『光の魔法によって怪我が治癒する』『宰相が水の魔法でムキムキになれる』のなら勝算はあった。
初めは痛みに呻く彼らを見ていられなかった。しかし、たった数時間。飲ませ、集中して作った魔力水に漬ければ腕が切れていた場所よりも確実に伸びていた。
いつ止めるかは本人達に任せている。こんな試みはそれまでにはなかったし……危険そうならすぐに手を引くのが正しいはず。しかし、この世界では光の神殿の魔法では切られたばかりの腕を繋げることは出来るが生やすことは出来ない。
一応「どこまで治るかはわからない」「いつでもやめても良い」「やめた場合、再び治療するかは不明」「治療後どんな副作用が起きるかわからない」「どこまで治るかも不明」などと説明はしたのだが……それが悪かったのかもしれない。
腕がなくなればあった頃の便利さを思い出すだろうし、治療の実験とは言え希望が持てる。両腕がないチャークさん、全身ズタボロのプゥロ、そして竜人のジュリオンさんは実験開始後の激しい痛みに耐えて………なんかおかしくなった。
ジュリオンさんはこの領地の兵士で竜人アモスさんの姉である。
実験後に行う事を考えていたのだけど、彼女は政争のゴタゴタでプゥロ以上にズタボロだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「その方は?」
「にゃー」
怪我人を連れてきたと言われた。絨毯の上にいたことでかろうじて人とわかった……大きく、それでいて草が体中に包帯で張り付けられていたりしてとんでもなく青臭い。
アモスさんが後ろからついてきて心配そうにしている。状態を見るために包帯を外していくがとにかく酷い。角は折れているし翼は両方ない。片目に片足、片腕……残ったもう片手にも指が足りていない。全身傷だらけで生きていることも不思議なぐらいだ。
尻尾を見るにこの人も竜人だろうか?とにかく大きい。
「この人は?」
「アモスの姉、ジュリオンですのぉ」
アモスは完璧にドラゴンに近く鱗が出ているが、彼女は鱗も薄いしどちらかと言うと人に近い。土気色の顔で、意識が朦朧としているようだ。
他にも耳や尻尾を切られた人も領地には多くいる。アモスからすれば………明らかにいたぶられた人が近くで生活していると、やった相手を、人を恨んでも仕方ないのかもしれない。
「なぁおっ!」
「なるほど……ジュリオンさん、治療は実験前です。効果はわかりませんがどうしますか?私は貴女の選択を尊重します」
「……おねが………しま………す」
「――――全力を尽くします。しかし、体に合う合わないはありますし、いつでも止めるので遠慮なく言ってください」
顔や骨格は人間に近く、胸も大きい彼女は角と腕と足に鱗が生え、翼と尻尾もある竜人だ。
ただ、皮膚の殆どが火傷でボロボロで翼はもがれて、片腕に片足もなく、お腹には穴があってうまく塞がっていなくて、顎も砕けていた。……もはや虫の息だったので実験段階ではあるものの本人の希望もあって実験に参加した。
テロスという亀の人曰く、アモスはこの姉がどうなるかを気にしていたようだ。……そうだよね、もしも家族が兵士として戦ってきたのにその家族を新しい主となる人が無体に扱うのなら私だったら絶対に頭は下げられない。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
どこまで治るかわからない。最悪シャルルが呼んでくれている兵の医療班に繋ぐまで手を尽くせば良いと思っていた。
彼女は今までこの領地では最高の治療を受けていたがもうこれ以上もちそうになかった。
治るのには痛みがあったのか、初めは耳が痛くなるほどの絶叫や悶絶の声が響いていた。……しかし、いつからか彼らは笑うように、心底おかしそうに笑って――――爆笑している。奇声や叫び、偶に変な声も漏れ出ている。
すごく手を止めたい。
いや、現実逃避せずに彼らを顔以外つけている特製の容器に注ぐ魔力水へ意識を集中する。
初めは傷口にかける程度だったのだけど3人とも基本がぼろぼろだったから体ごとつけたほうが手っ取り早かった。
容器を土魔法が使えるものに作ってもらい、水で満たされたその中に人をつけて溺れないようにロープで体を縛って吊るす。
実験では「水瓶に魔力水を入れた場合」と「空中で作った魔力水」なら水瓶にいれた場合の方が光る時間は長かったから多分魔力水垂れ流しよりは効率は良いのだと思う。
口元の高さでいくつも穴を空けた水瓶、光る部分が回復の肝かもしれないので蓋もする。
動けない彼らはもちろん排泄もするが魔力水は注ぎ続けているし……水の知覚でわかるのですぐに排出する。
軽傷者への実験は問題なかったが重傷者の彼らは残ってしまった。血で濁った水も透明になってきたが……なんだろうこれ。
「「「ヒヒヒヒヒ!」」」
「もう何だ、この人たち……」
中身は見れないが水瓶の中では治療は進んでいるようだった。
質問をすると笑ってはいるが患部はとても痛いらしい、なのに笑って嬉しそうにしている……なんかやばい性癖を開拓している可能性はある。
「たーさせてもいー?」
「存分に食べさせてやってください」
心配するアモスさんにはとてもこの痴態は見せられないので何人かでふんじばって連れて行ってもらった。
アモスは治療の開始時には海猫族の絨毯の上にいた彼女の後ろで死ぬほど心配そうにしていた。治療で上がる声にビクつきながらも扉の向こうで祈っていたのには悪いと思うが………偶に「気持ちい~」なんて漏らす姉の痴態は絶対に見せられない。私はチベットスナギツネとかマヌルネコのムスッとした表情になっていると思う。
手伝ってくれる言葉の話せるワーくんはテロスさんいわく狐の獣人にはその種族の中で数人、稀に闇の精霊に好かれる子が生まれるそうで、彼らは部族の中でも尊重されるため立場が強いのだとか。
彼らの仕事は被験者の口に料理を流し込むことだ。
単純に共通語が出来るのと荒っぽく無さそうだから採用した。宰相と同じく、治療中の彼らはものすごく食べる。水に漬かって、水を飲み、そして食べる。この3つが揃ってものすごい回復力が生まれるようだ。
竜人の彼女は虫の息だったが顎が骨ごと砕けていたためまだ柔らかい食事だ。特に肉が良いらしいが医食同源だったかな?胃が悪いなら胃を食べる。そんな感じで多分足りない栄養を補っているのだと思う。もしくは肉が好きなのかも?
なのでアメリカンな料理でよくあるように肉を焼いてほぐし、その肉汁と何時間も煮込む。ほぐした肉は肉汁の旨味とスパイシーさが入り混じって凄まじく美味しい。旨味の塊のようなそれはよくサンドイッチやバーガーに挟んで使われる。
この領地で使われているのが何の肉かは知らないけどちゃんとアメリカンなプルドポーク、現地人がデブリと呼ぶものに近くなった。
日本人的な感性では病人や怪我人には消化に良いおかゆとかが良いんじゃないかと考えてしまう……普段ならごくごく肉と肉汁を飲むなんて絶対体に悪いと思うけど種族差とかあるしなぁ。
野菜や他の食べ物もどんどん食べてもらうが柔らかくてスパイシーなプルドポークが気に入ったようだ。何の肉かはわからないけど。
「儂も」
「病人の分です。こちらはもう大丈夫そうなので宰相はシャルルのいる部屋に水持って行ってください、食べ物も好きに食べてもいいので……。海老がよくとれたようです」
「ほっほっほ!」
領民たちは私のことを歓迎してくれていて様々なものを持ってきてくれる。中でも大きな海老は食べごたえがある、大きさは5メートルぐらいで美味しそうというよりもハサミが恐ろしかった。だが、茹でられたその身がブリッブリでマヨネーズとレモン的な果物を絞ってかければもう最高にウマウマであった。
本当なら、もっと別の作業をしたいのだけど……テロスさんによれば翻訳のための儀式に使う水も魔力水のようなものを歴代の当主は作っていた。そこになにかの薬草を入れて私が杖をいれてかき混ぜればそれで獣人たちが話せるようになる水が作れるらしい。その水を使って当日祭りで取れた材料で作ったスープにして領民皆で飲む。
魔力水を作るのになれておけばもしかしたら使えるかもと優先したのだけどこの3人の様子を見るに……なんか怖い。
いや、人が治ることは尊いはずだ。やる価値はあるはずなのだ……。なのに。
「クキャキャキャキャキャ!」
「ホコココココ」
「アーハッハッハッハッハ!!!」
思ってたのと違う。こう、痛みに苦しめてしまうかもとか、もしくは魔法は魔法でも神聖っぽい雰囲気が出てキラーンって一瞬で回復したりとかさ……。
それに前例も前例だけにもしかしたらこの大型水瓶が割れて筋肉の塊みたいなのが出てくる可能性もある。ちょっと、いや、かなり怖い。集中して練習しないといけないのに、やる気がゴリゴリ削られていく。
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