第123話 領主就任?宣戦布告?
「私はリヴァイアスの血族です。ひとまずお話しませんか?」
オロオロしている獣人の皆さん。一応はリヴァイアスとのコンタクトで一定の理解を得られた……のかも知れない。雨も降っているし、ボコられているホーリーさんが可哀想だと思って場所を城に移すことになった。
広間で床の上、絨毯を敷いてくれて……立派なヒゲのナマズっぽい人と青い毛柄の海猫族は既に私を認めてくれたのかなんかオモテナシされている。海の近くに住む猫の種族でこちらの言葉で「海猫族」うーん、前世の鳥のイメージがでてしまう。
「どうぞご遠慮なく、ほっほっほっほ………」
「あ、ありがとうございます」
そのまま種族代表らしき人たちと話をする。
犬の人もロープぐるぐる状態で連れてきてもらった。ついでに宰相が潰した牛の人も……知らない間に処刑されたりしたら怖いし。
宰相は座って話を聞くだけだが壁際の兵士が明らかに宰相の一挙手一投足に気を配っている。というか宰相は警戒されてたくさんの兵士がすごい見張っている。
一応リヴァイアスとの謎の接触によってみんな動揺しているが襲いかかってくるようなことはなく話を聞けた。
みんな主張は激しく「あんたさん誰やねん?」「吐き捨てられていたんだから選ばれてはないだろう」「確かにもっと幻想的にするもののはずだ」「我々は認めてないんだからね!」「あの筋肉の気持ち悪い体毛のないオーガは何なのか?」「王が決まったのだからオベイロスに宣戦布告しましょう」「加護を横取りすんな返せ人クズ」「領地は護っていました」「増えた領地の人数です」「俺等を売る気なんか?」「戦士の育成は充分です」「海からもたまに攻められています」などなど色々言ってくる。
リヴァイアスはリヴァイアサンとかリヴィアタンと海の神とかそういう呼ばれ方も種族によってはしているとか……そこは種族間で違うのでどう呼んでも角は立つがまぁそこは良い。種族で言葉の意味が違うのは仕方ないし。
意識しないで聞くと自然と頭に言葉が入ってきていたのだけど意識すると「わんわんがおーごるるるにゃにゃー」と鳴き声が凄い、動物園の檻の中の気分である。
ここ最近の彼らは海から見に来ていたリヴァイアスによってもしかしたら誰かに加護や縁、寵愛といったものをいただけるのではないかとリヴァイアスが訪れる度に連日連夜昼夜も問わずにヤンヤヤンヤとお祭りをしていた。
そこで雨が降ってくるのは継承の兆候だったのに私達が乱入、加護を私が横取りしたんじゃないかのことだった。それにリヴァイアスに「ぺっ」ってされたのはイメージと違いすぎて認められないという意見も出てきている。
私は母親の祖父祖母の世代がリヴァイアスの縁者であったらしいことを伝え、それを知らないでいたこと、王都のリヴァイアスのお屋敷に入れること、杖はそこで手に入れたことなどを伝えると多分半数には認められたと思う。目と髪の色がリヴァイアス家に多い青色だし。
多くの種族が話そうとしてくるが私の言葉はみんなに伝わるが彼らの言葉は同種族と私にしか伝わらないから厄介だ。
リヴァイアスの判断でこの領地から共通言語を話せる人間の多くが追い出されて激減した。普段から意思疎通に不便しているのは彼らも不便に思っている。……一応共通言語の使える純粋な人間も領地にはいるがこの場にはいない。
外から敵も来ているし、連日連夜のお祭り、お互いへの牽制で彼らはそれなりに疲弊しているようだ。……もしかしたらすぐに私が来なかったのが悪いのかも知れない。ごめんて。
――――私も疲れてきた。それぞれの主義主張を聞いていくだけでも結構な時間がかかる。
私が加護を奪ったとされるアモスさんは最も数は少ない竜人で、力もあるしずっとリヴァイアス家に仕えていた。忠誠心も功績もある。そんな最有力候補の彼が選ばれるんじゃないかと思った瞬間だったからアモスさんを慕う縛られた犬の獣人、ホーリーさんは特にお怒りである。
宰相の耳打ちによるとこういう継承の問題はこの国ではよくあることで、王や宰相はよく待たされたりするらしい。
だが直接乗り込んでいって王様が大精霊を出して土着の精霊と話し合ってくれれば後は精霊がなんとかしてもらえるし、人間間の問題は国王の権威でゴリ押せて殆どの場合には感謝されて帰れる……と。
問題の早期解決にもなるかもしれないが逆に問題を深めただけのような気もする。
それはそれとして獣人の皆さんには―――――オベイロスにはどう宣戦布告するかを相談された。シャルルの前で。
「なんだ?困りごとか?」
「なんでも無いです」
会話をわかっていないシャルルに目を向けてしまった。
彼らの言い分はものすごい過激だ。
1.オベイロスの政争はオベイロスの王家が起こした争いである。
2.責任はオベイロスにあり、リヴァイアスの領主全員はそれで死んだ。
3.オベイロスが悪い。オベイロス国王を討って首をリヴァイアスに捧げるべき。
なんか日本や中国の戦国時代にもあった「仇討ちは次期当主が家臣をまとめるのに必要」という慣習に近い気がする。
何ならオベイロス国を滅ぼそうという意気込みを多くの種族が語ってくれている。
「なにか熱く語ってるようだが?」
「なんでもないです」
なにも本人の前で言わなくてもいいだろう!!?
いや、宰相が共通言語で私達のことを「オベイロス王と正当な領主」とか言っていたはずだが……騒ぎもあったしそもそも共通言語を使える人が少ないから伝わってなかったみたいだ。
シャルルは私の従者みたいな扱いがされているから仕方ないのかも知れない。
「そういうことでしたら新たな姫君を立てましょうぞ!なぁ!皆のもの!!」
「いきなりうるせぇ?!何いってんのいかわかんねぇんだよ!やんのかゴルァ!!!」
「フレーミス様!あのバカを取り押さえたほうがよろしいのでは?」
ひとまずは逃げなくても良さそうだ。疑われてもいるけど後継者としては「精霊様の導くままに従うのみ、異論があるならこの地から出ていくのが正しい」という考えで過半数の種族には認められたっぽいが……やはり訝しがられている気もするが。
「あの者らはどういたしましょう?」
「首を落とすか……そうですな、耳と尻尾を切り落としましょうか?」
「俺は認めねぇかんな!!詐欺師が!」
「他にもまだ怪しい動きのものもいます。身の安全にはご注意を!!」
「彼らに罪はありませんが、問題を大きくしかねないので誰か監視をつけて見張っていてください。傷つけてはいけません」
押さえつけられているホーリーさんは元気にも吠えてきた。
私の知らない内に処刑されないように助けようとしてるんだから今は静かにしてほしいな。
「横取りした加護を返せよ人クズが!!」
「私は加護を横取りしたつもりはありません。返せと言われてもどうやって返すんですか?与えたリヴァイアスに言ってくださいよ……私もこの領地にふさわしい人がいるのなら「私よりもそちらのほうが良いのでは?」とリヴァイアスに尋ねることぐらいなら出来ると思いますが」
文句があるならリヴァイアスに言って欲しい。
私自身加護を与えられた自覚はないし、言葉を伝えられたわけでもなく口に含まれてペッされただけだ。
「種族の代表として仲間で話し合ってください。私を認めるか、私を認められないか、私よりも適した者がいると推薦するか」
そもそも私はこの世界で親から受け継いだものなんて元々なかった。
路地裏で寝て起きて、痛い体を引きずってより良い暮らしをしようと水の魔法と知識だけを使ってきた。
血筋がどうのと言われても知らない……自分で証明できるものもない。
「それは……よろしいので?」
「機会は公平であるべきです。私よりも相応しい者がいるのならリヴァイアスもそう判断することでしょう。全ては精霊のお導きのままに」
彼らの風習でもあり、この世界でよくある言葉で締めくくった。
私の人格はシャルルか闇の精霊様の魔法によって連れてこられて……産まれてきた私達は混じり合って幼少期を過ごした。レルケフに殴られて前世の自分がよく出てきたからか子供らしい親や家族への執着がない。リヴァイアスのことも「家族の親族の問題なんだから!」みたいな意識が私にはないのだ。
自分の人格やアイデンティティも危ういと自分でも思う。
今の自分が「完全に前世の自分の人格か?」と客観的に考えるとそれもない。年下のイケメンに抱っこされて何も感じない女主任なんてやばすぎる。
流石に漏らしたかもしれないと思えば焦りはするが抱き上げられても抵抗感は……僅かにしか無い。
「一度皆さんで話し合ってください。疲れているでしょうし私も私で困惑しています。時間が必要だと思います……そのうちリヴァイアスが砂浜にまた来るかも知れませんしね」
私の安全の為ならここの獣人の方を全員を部下にしてシャルルを支援するのが正しいかも知れない。
王と宰相としてはこの領地を継いでオベイロスを支援してほしいのだと考えられるが、それをしたらもしかしたらこの領地の人間に負担をかけないといけないのかもしれない。
領地に人はいない可能性もあったのに既に上層部はそれなりに纏まっている上にオベイロスを敵視して王国を名乗っているなんて大誤算である。
急に自身の進退も込みで考えないといけないことが増えて――――色々と頭の中がぐるぐるしてしまう。
このリヴァイアスに関わりのある杖もあくまで杖、私の一部のように馴染むし魔法を増幅してくれる便利アイテムではあるけど……元々私のものじゃなかったし執着はない。いや、思うことはあるかな…………これで本当に苦労したからかもしれない。振り返るだけで後ろの壁に杖が激突したり、お風呂やトイレのドアは何度も破壊された。
今でこそ杖は壁に当たらないようにしてくれるし人を避けるけど、めちゃくちゃ邪魔だったもんなぁ……しかし、決して厄介払いではない。正当なものが持つべきなのである。手放すことになったとしても断じて厄介払いではないのだ。
まぁ、元々どれも私の持つものではなかったのだから、無くてもそれは仕方のないものなのだ。
――――ちょっとだけ、ほんの少しだけど……顔も知らない両親に申し訳ない気もするが。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そんなわけで少し時間も出来たし、私達は城下町に出ることにした。
元々のお祭り騒ぎにオーガが現れたからか一時は騒然となったがそのオーガは種族の代表とともに城に入ったことで落ち着いたようだ。
今は空も晴れていて人々の顔が明るい。
「どうするつもりだ?」
「少し城下を見て回ろうと思います。……すいません、私が領地を継いで国を支援したほうがオベイロスには都合がいいでしょうけど………勝手なことをしました」
「いや、無理に領地を、いや、王位を継ごうとすればどこかで無理が起きる。お前がどんな選択肢をしようとも俺はお前を見捨てることはない」
流石に少しは怒られるか、それとも見捨てられてもおかしくはないとも思ったがシャルルは落ち着いたものだった。
「爵位も杖もなくなっちゃうかも知れませんよ?そうしたら私はちょっと魔法の使えるだけの人になるかも知れません」
「そこまで考えなくてもいい。本来、子供が国の情勢を考えて行動すること自体間違っているのだ。……すまんな、俺の力不足だ」
頭を掴むようにぐしぐしと撫でられた。
撫でることに関してはまだまだ不器用である。
「全部失っても何なら俺が後宮に籍だけ置いてやるぞ、娘でも良い」
「それは微妙なんで嫌です」
この男なりの誠意なんだろう。
本人も「なりたくて王位を継いだわけではないのが本心だ」と言っていたし、私にはわからないなにかがあって……思うところもあるのだと思う。
「儂の娘でもいいのですぞ?」
「それもちょっと……」
「なんじゃ、娘も乗り気だったのに、もったいないのぉ」
話し合ってる内に小さくなってくれた宰相閣下。
ずっと筋肉モンスターじゃなくてよかった。中年の見た目になって何処かから服をもらって普通の中年となった。娘いるのか、さぞかしマッチョなのだろう。
私は私でどうすれば良いのか、どうしたいのか。
ちょっとは考えていたが想定と違いすぎた。少しの領民がいて、困っているのなら。謎の雨が止むのなら領主という立場を引き受けても良い程度に考えていたが………答えが出るかはわからないが今のうちに考えることにしよう。
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