第122話 リヴァイアスへの挨拶?(ぱくり)
「なんだ貴様ら!」
「衛兵!誰か!!子供がオーガに捕まってるわ!!?」
「ママー!!」
「大事な祭り事の最中だぞ!!!??」
にゃーにゃーぶもーぶもーわんわんぎゃおーと耳を貫く。
宰相に玩具の人形のように握られたまま砂浜までジャンプしたけどめちゃくちゃ怖かった。全身汗だらけでチビったわけじゃないはずなのにわからないぐらい汗をかいた。
というか牛の獣人が襲いかかってきたのに……もしもここの人が襲いかかってきたのなら危なすぎる。
なのに騒ぎの中心に行くとか意味がわからない。
しかしそれよりも――――――私が出す水の中に映るリヴァイアスよりも巨大なリヴァイアスが浜辺に打ち上げられている。
「この国の王!オベイロス国王とこの領地の正統後継者たるリヴァイアスの姫君が参ったぞ!!迎える礼儀を知らんのか!!!」
宰相が大きな声で叫び、うやうやしく私達の横で私達に向かって頭を下げた。
浜辺の中でも偉そうな人たちはその言葉に反応して動かなくなったが、騒ぎは収まらずパニック状態になってしまっている。
シャルルに抱かれたままだがもしも漏らしていたらとゾッとして……砂浜におろすように軽く胸を叩くと下ろしてくれた。が、立てない。杖は砂で刺さっていくし、腰が少し抜けたというかへたり込んでしまった。
周りは大騒ぎになっている。兵士は武器を向けるかで迷っているようだ。それぞれの種族の中でも偉そうな人たちが前に出てきて……一番強そうな竜っぽい人は槍を持ったままこちらを見ている。
不思議な膠着状態だったが、すぐにその均衡は破られた。
「<キュアッ>」
この場で一番大きなリヴァイアスがふわりと浮いてこちらに来た。打ち上げられていたわけではなかったようだ。
クジラの中でも四角い頭のマッコウクジラに大きなツノと本来のクジラには無さそうな牙が生えているリヴァイアス。本物のマッコウクジラを見たことがないから分からないが多分体表の色は違う。
「あ、あの、この間は……じゃない。いつもありがとうございます?」
「<キュアっ!>」
飛び降りる直前に大きく一鳴きしていたというのに今は耳をくすぐるほどしか鳴かない。
眼の前に自分を簡単に押しつぶしそうなほど大きな生き物がいるのに、恐怖などは感じない。不思議とかわいいなと感じている。
そうして、リヴァイアスはそのまま……杖をぱくりと食べた。
………
………………
………………………
「え”?」
お風呂やトイレにまでついてきていた意味不明な杖。私の力を何倍にも引き出す事のできる。今では便利な道具なのに……いや、正確には私のものかはわからないが今となっては私の大事な杖だ。
もしも、なくなればここから逃げるのにだって困るかも知れない。というか食べちゃ駄目だろう。生き物が杖をなんて。
少しの葛藤、周りの人も固唾を飲んでリヴァイアスの動向を見ていた。
口をモゴモゴと動かしたリヴァイアスは唐突に杖を吐き出した。トスッと私の目の前、砂浜に刺さった杖。若干ばっちぃ気もするが何なのだろうか?リヴァイアスは精霊だし、汚いものではないかも知れないが……まぁ受け取る。
片手でそれを持つと体を動かせなくなった。
杖がゆっくり浮いて、私の体ごと浮く……えっ、ちょ!!?
今度は私ごとパクリと食べられてしまった。
――――――
え?は?え?驚く暇もなくほんの一瞬モゴモゴされたと思ったらぺっと吐かれた。
気が付けば杖を持って砂浜に座っている私、海の方に泳いでいくリヴァイアス。城壁が沖に続いているしどうするのだろうと思ったがこちらをちらりと一目見て一鳴きして――――壁を貫通して行ってしまった。
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
浜辺に残った私達、偉そうな獣人たちとシャルルと顔を見合わして……無言である。
装飾品や良さげな服に、お付きの人がいるから偉いとわかるが見た目は皆動物に近い。知性はあるはずだけど動物園の檻の中のようでこんなにも注目されるのはちょっと怖い。
「……………何なんでしょうねこれ?」
「新たなリヴァイアスの領主!フレーミス様の誕生ですじゃ!!」
大きな声をした筋肉の塊……じゃない、宰相が横で宣言した。
巨大でムッキムキなのはそのままだが元の落ち着いたおじいちゃんに戻らないかな?健食なおじいちゃんとか見てて和んでいたのに今では「壁などタックルで壊せますよ?何言ってるんですか?力こそパワーです」とでもマッスルポーズで言いそうだ。
「―――――…………ふ、ふっざけんな!!?海神様の加護を兄貴から横取りしやがって!!クソ人間が!!!!ぶっ殺してやる!!!!!」
犬の獣人がグルルルと唸って身を低く爪をこちらに向けている。
宰相はまだ距離があるからか、それとも私に抑えさせようとしているのか動きはない。
「待ってください!私は争う気はありません!!」
立ち上がって彼と向き合う。
「この雨!今にも兄貴が海王になりそうだったのに!!なんてことしやがる!!人ガキがっ!!!」
「<水よ!>」
雨が何の関係があるのだろうか?ほんの少し暖かい雨が降ってきているが……。
向かってくる男を取り押さえようかと思ったのだけどその場にいた少し偉そうな人たちがその前に取り押さえてくれた。
「ゴボッ何しやがる!!?」
犬の獣人を鳥の獣人が真上から強襲し、狐の獣人が彼の前に出て来て土下座した。
「新たな海王様に無礼だ、ホーリー」
「犬が無礼を働きました!すいません!!」
「バカ鳥にバカ狐が!何いってんのかわかんねぇんだよ!!?兄貴のことを思うなら!?クッソはなしやが「どっせい!!」「ふぐぅ」ウォン??!」
「この犬がっ!」
大きな甲羅の亀の人が後ろから猛烈に走ってきて犬の人を轢き潰した。鳥の人と狐の人もろともに。
怒り心頭な犬の人が暴れるが四人でつかみ合い揉み合いになっている。多勢に無勢か……キャンキャンと犬の人の鳴き声が聞こえる。
止めたほうが良いかも知れないが割って入るとかえって危ないかも知れないしなぁ。
襲いかかってきても宰相がどうにかしてくれそうだけど水の玉を浮かせて待機する。それにしても「加護の横取り」とか言われてもな……リヴァイアスに言ってくれ。もうどっかに行っちゃったけど。
「<静まれ、バカ者共>」
グォンと鳴いた竜の人が犬、鳥、狐、亀の人の後ろで声をかけると喧嘩は収まった。
竜の人は手にもっていた槍を浜に突き刺して彼らを無視してこちらに歩いてきて、私の目の前であぐらをかいた。
「えっと、はじめまして、フレーミス・タナナ・レーム・ルカリムです。オベイロス王都で伯爵をしています」
「アモス・ヤム・ナ・ハー。リヴァイアスの家臣だ。此奴らに手出しはさせんからお話を聞かせてもらってもいいかな?伯爵よ」
「はい」
竜の人は初めて見るが一目で風格と威厳のある人だとわかる。竜の人はみんなこうなのだろうか?グォォンと良い声で鳴くものだ。
「フリムよ、なんと言っている?」
「お話しましょうって」
「俺にはグォンとしか聞こえないんだが?」
「私にもそう聞こえま……あれ?なんで伝わってるんだろう?」
私にはニャールルの言葉はにゃんにゃん言ってるだけで意味がわかった。ニャールルさんは出迎えてくれたときには普通に話せていたはずだが……しかし、今はいろんな鳴き声のはずが自然と頭に入ってくる。
「リヴァイアスの加護だな……これも精霊の導きというものか」
「そういうものなんですか?私には皆さんの声が不思議とわかるんですが」
「あぁ、俺は話すのは苦手だし人の共通言語を聞き取ることは出来るがそれぞれの種族の言葉はさっぱりわからん。ホーリー……そこの星犬族の者がおそらく無礼を言ったのだろう………やつに代わって謝る。すまんな」
竜人の人に謝られてもなぁ……。
「兄貴!何頭下げてんだよ!!人ガキ!!!テメェ兄貴になにかしたら許さねぇかんな!!?その貧相な骨を噛み砕いて動けなくしてからその喉食いちぎってやる!!!はぁなぁせぇっ!!!!」
「きっと無礼なことを言っているのだろう―――重ね重ねすまん」
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