第119話 リヴァイアス……領？
「おはよう、果物に塩なんて珍しい組み合わせだったが美味かったぞ」
「馳走になりました」
朝、起きてみると２人とも起きていた。
それよりも驚いたことがある。
「あの……」
「ついつい食べすぎてしまいました。ありがとうございます」
「いや、それは良いんですけど、よく食べ切れましたね」
ガラス瓶が全部空っぽで洗われたようでピカピカである。それよりも……サイのような獣が骨しか残っていない。調味料３瓶全部食べ切られたことよりも驚いてしまった。
どうやって食べたんだろうか？
以前王宮で見たときよりも小さいとは言え子牛ほどの大きさがあったはずなのに２人で食べたの？なんか宰相が脂でテカってる気がする。
食べた量でも驚いたが……調味料を全部食べきったのか？塩レモンはもちろん塩の割合が多いし、あの激辛のタレは一滴で辛かった。そしててりやき風味は砂糖大量であったはず……私は辛いのも甘いのも好きだったが２人で食べきったのなら塩分とか辛さで胃が心配になる。
「さすが料理卿、王宮でもフリムの料理は人気だぞ」
「なんですかそれ？」
初耳である。いつの間にか変な二つ名がつけられていた。
「倉庫で売られているプリンとケーキは人気だし、最近は氷を使った菓子が大人気だからな。叔母上や爺はフリムの新作料理をいつも心待ちにしているみたいだぞ」
「陛下、その言い方では私が食いしん坊のようではないですか」
「お前ほど食う人間は他におらんし間違ってないだろう？」
「まぁ、なんと……昔はもっと素直な良い子だったのに……兄君の足にまとわりついていた頃は………」
「昔の話をするのはずるいぞ」
倉庫で売っているプリンは人気だと聞く。
氷は山ほど作るし、この国は卵が結構な量がとれる上、そこまで加熱する必要もなく、消費期限も長い。
だから商売には良いだろうと思って作ってもらっているが……国のトップである２人が美味しく食べているのならこの国の料理の基準はどうなっているのだろうか？
料理の基本はラキスさんに教えて新たなレシピの開発のやり取りをしている。
果物と砂糖を煮詰めるだけでジャムが出来る。プリンとジャム、そして生クリームとスライスした果物の組み合わせを調べてもらっている。砂糖のクセが強すぎるからそれぞれのバランスを考えたレシピを追求したほうが良いに決まっている。
白いクリームにスライスした果物を加えるだけで凄まじく美味しかった前世のショートケーキ。前世とは売られている品質が違いすぎて困る。
果物はこの国では安価で手に入ってそこそこ美味しいが、当たり外れが結構ある。
産地で味も違うし、同じ果物なのに酸っぱいキウイと甘いキウイぐらい違う。いや、キウイであればちゃんと食べられると分かるが……この世界の果物の場合品質が一定で無いため「青臭さが増しているもの」や「中身が固くて噛み切れない」なんてとてもじゃないが食べられない場合なんかもある。
品種改良と食材流通が安定した日本が懐かしいよ……わずかに形が歪んでるだけで規格外品にするとか、品質を保つ努力があっただろうに。
料理ができて食べ物に詳しい人を家臣の中で探し、白羽の矢が立ったのがパキスの母親であるラキスだ。
彼女はいくつもの国を渡って旅をしてきた踊り子で最終的に賭場で賭け事をしていた主人がやらかして売られた……そして賭場で知識層として働いているうちにドゥッガと結婚したそうだ。
彼女はバーサル様のお屋敷に引き取られて病気療養し、私の水をつかったクラルス先生の薬で完治した。舌が肥えていたことと料理の腕もあって倉庫の調理スペースで働いてもらっている。
ドゥッガは私の筆頭家臣だがレルケフのやらかしによってキエット派閥とエール派閥からものすごいつつかれてしまっているが……彼女の働きも王様から聞けたと家臣には伝えておこう。
「それでは出発します。昼頃には領地につきますが……どうなってることやら」
「確か人はいないんですよね？」
「それは正しくもあり間違っているとも言えましての」
精霊至上主義のこの国では基本的に人間よりも精霊が上である。精霊の領地に人が住まわせてもらっていると言ってもいい。精霊には縄張りがあり、その地は精霊が全てを決める。
人を絶対に入らせないという精霊もいれば何でもオーケーだが精霊本体に触れようとすると噛み殺すとか……精霊次第でいろんなルールがある。たまに精霊同士で争ったりして災害が起きることもしばしば。
そして私の関わるリヴァイアス。魔法を使うとうっすら映るようになったがマッコウクジラに角と牙が生えたような姿の精霊だ……領地ではリヴァイアス家の人間が政争でいなくなってから「人間はその領地にいられなくなった」のだと聞いていた。
「面倒なことになってるみたいでな」
「と言いますと？」
「領民全員が追い出されたわけではない。魚人などの水の民、何代もリヴァイアスの領地にいた人種はそのままいる……かも知れない」
へーという顔をするとシャルルにジト目で見られた。
どことなく「お前の領地のことだろう」という意思が伝わってくる気がする。
「今ではまともに入ることもままならないが……精霊によって追い出された人もかなりの数に登るようだ」
揺れる馬車で首がガクガクになりそうになりながら資料を見る。
王都からとんでもない距離を飛んできたと思う。しかし飛空時間に制限があり、地上を走れば当然酷い振動に襲われる。
領民の半数はリヴァイアスによって強制退去させられている。王都にも難民が来ていたそうだし、海産物の取引は完全にストップしてしまっている。
リヴァイアスの当主がいなくなってもそのまま住もうとした人はいたが領地に入ろうとすれば「空から滝のように雨が降ってくる」、「海に近づけば引きずり込まれそうになったからでていった」という記録が何千件もあった。
雨などの影響を受けていない人もいたことから、まだ領内に残っている人はいるかもしれないが……今となっては完全に無人の領地の可能性もある。あれか、王都の屋敷と一緒でまた意味の分からない謎のギミックを解かないといけないのか？ゴスボフさんいたりする？？台所の食品から生まれたクリーチャーがいないといいんだけど………。
それと当時、海の幸が東のリヴァイアスから王都に届かなくなったことをライアーム派が「これは精霊のお導きだ」として盛り上がったことも資料に載っている。
「中がどうなってるかさっぱりわからんがルーラと爺、そしてフリムがいるのだからなんとかなるだろう」
王家の精霊がいればある程度の精霊とは対話できるようだ。
上位の精霊と契約していれば土着の精霊とは争わなくてもいいこともあるが……下手に刺激すれば地図が書き換えられるような精霊同士の戦いが起きることもある。
しかし王家の精霊は特別だし、このメンツならリヴァイアスに雨の止め方とかも交渉できるかも知れない……と。
馬車の下で人里のようなものが見えたがスルーして先に進んでいく。宰相は来たことがあるのか迷いもせずに馬車を飛ばしている。
王都周辺で雨も続いていたことも考えると普通の馬車では土の道で立ち往生していたと考えられる。雨も収まって晴れてきたが後方の空を見ると雨雲が見える……なんかごめんて。
領都らしき場所についたが…………あれ？オベイロスよりも発展してないかな？地図によると巨大な壁が海岸線の都市と海を大きく六角形で囲んでいる。遠くからでも見えるお城も大きくて立派である。海ごと結構な距離を巨大な壁で囲っているが……前世にはないものでちょっとワクワクしている。
門の周りには人間よりも亜人寄りの人種が増えてきて無人ではないことに安心した。
ゴーストタウンで全ての台所に腐ったクリーチャーが生まれていないことは本当に良い。……コップから植物が生えているのはもう見たくない。
門は開いたままでとくに警備もなく大通りを進むと結構栄えていて活気がある。
大通りは横に馬車数台並列させることが出来るほど広く、露店も多くあり、人々が何かを売っている。スパイシーな香辛料の香りの方向を見ると何かを焼いていた。
王都と違って純粋な人よりもツノや鱗の生えた人が多い。エラが首に見える人もいる。
「これは……」
「想定とは違いますけど人がいっぱいいますね、お祭りかな？」
大通りの真ん中で、人に見られながら進んでいたのだけど馬車が止まった。
立派なトカゲというか恐竜に乗った……猫だ………猫の獣人？猫が鎧を着てるように見える。そんな人が馬車の横につけてきた。
身長は私よりも大きいと思う。鎧で全部は見えないが青い毛並みに白色の虎柄、人に耳や毛が生えた獣人ではなく猫が二足歩行している。モフりたい。
「にゃー、んなぁおぉ、にゃにゃー」
「すまんがわからん」
「んにゃ、ここに外の人が来るとは驚いたにゃー。何用かにゃ？」
「オベイロス王家から来た。この領地がどうなっているか知りたくてな」
「なるほどにゃー、しかしここは領地ではにゃーにゃー」
「というと？」
「リヴァイアス王都にゃ。今この地に他国の人間がいるのはよろしくにゃーにゃー。城に案内するからついて来るにゃー」
「わかった」
かわいい顔だが言ってることはえげつない気がする。この国の王様に向かって領地ではなく王都だって独立宣言したように聞こえた気がする。……すごく目と耳を塞ぎたくなる。というか塞いだ。
――――リヴァイアスのことを何も知らないし三人だけで雨をなんとかしなければいけない状況よりはマシかも知れないが……酷く面倒な予感がする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます