第118話 肉に付ける調味料?


「陛下、そろそろ焼けてます」


「中まで火が通ってないのではないか?」


「大きな肉は焼けた表面を削いで食べるのです」


「わかった」



馬車は空を飛び続けることは出来ず、一定期間ごとで少し休む必要があるのだけど地上を走っていると小さめのサイのような動物が突っ込んできた。


宰相が倒した……拳で。


そろそろ夜になるしとキャンプが決まった。岩の洞窟でシャルルがワクワクとキャンプの用意を始めて肉を焼いている。


この青年をずっと私は「イケメン」で「王」と認識していた。王様なんて前世の基準では一生関わることなんてありえないから「雲の上の人」とか「きっとなにか偉いことでもしてるのだろう」とフィルターがかかっていたのかも知れない。


しかし、接していくうちにどんどん親戚の兄ちゃんのように思って……今では普通の青年に思える。


杖や剣を持っているのは普通には思えないがそうではなく、年相応にキャンプを楽しもうとしているようだ。……家紋入りの短剣使っても良いの?



「フリム、切り分けてやるからそんなに見なくても良い」


「はい」



食いしん坊に見られているのだろうか?大きな肉を焼くシャルルがドヤ顔である。


こってり脂がのって新鮮なお肉。エール先生にもらった食材用の袋から調味料を出してつけて食べる。


うむ、美味しいな。



「それは?」


「焼肉のタレ……お肉を焼いて食べるのに作ってみた品です」


「ふーん?」



チラリチラリと王様と宰相閣下がこちらを見てくる。



「分けてもいいですけど試作品ですよ?」


「構わん!」



料理を作るのにやはり食材を知るというのは大切だ。


日本食なら料理の「さ・し・す・せ・そ」は基本であるがそういうのは国によって異なる。


唐辛子やマサラが基本な国もあればオリーブオイルとレモンにバターの国だってある。日本から見た偏見かもしれないが。


柑橘類の種類は一杯あったし酸味の効かせた塩レモン的ななにか、実験で作った焼肉のタレ、てりやき風味のタレの3種類をとりあえず出してみた。


エール先生は用意が良いのかそういうものも王宮に持ち込んでいたようだが使っていいかは微妙である。



「まず私が試すので待ってください」


「毒見か?」


「違いま―――いや、ある意味そうですね」



毒かと聞かれるとこれは調味料であるが毒の可能性もある。



「ほう?」


「だって作ったのが私ですから調味料が傷んでいるかがわかるのも私のはずですよ」



そもそも食品とは人間が食べられるものであるが現代日本の調味料なんてものは色合いや保存、味のためにいろんな物が入ってるはずだ。


日本の料理の基本、砂糖、塩、酢、醤油、味噌。どれもなかなか腐るものではない。これらがすぐに傷むのならおそらく保存や輸送の観点から「料理の基本」にはなり得なかっただろう。


長期保存する食べ物にはルールがある。加熱し、雑菌を減らし、菌の繁殖しやすい水分を飛ばす。砂糖や塩、酢を多くするのも大事なポイントだ。だからジャムはそうそう腐るものではない。


もちろん瓶もアルコールや煮沸することが大事なのだが……。新開発してもらった分厚くて重い透明なガラス瓶に入った調味料を焚き火で照らして異常はないか見ながら一つずつ開けていく。


蓋をねじ閉める形にしたかったのだが残念なことに蓋もガラスである。紐で結んで密封している。フィレーが樹脂の研究もしていてゴムらしきものがあったから試してみたのだけど少し漏れてるな……うーむ、ここも要改善だな。



先に開けてみた塩レモンに近いものには塩が基本でレモンに近い柑橘を絞って染み込ませ、果肉も少し刻んで入れている。いくつかのスパイスも混ぜてさっぱりと心地よい味にしたのだけど……保存性が気になる。ちょっと火で炙った金属製スプーンですくって手の甲に載せて舐めてみる。


瓶詰めして結構時間が経っているが酸味と塩味にほんのりスパイスが効いて良い味をしている。


お肉の強い脂っぽさをさっぱりとしてくれて……これは美味である。



「おい?」



焼肉のタレの激辛っぽいものは色々混ぜていくうちに出来た。基本が唐辛子のようなスパイスである。保存性の良さそうな辛味の強いものを塩と酒で漬け、それをすりつぶした。泡盛に唐辛子をつけたものが沖縄にあったし中国ではよくある調味料の作り方だから思いつきで作った。


肉片にほんのりつけて食べてみると……本当に辛い。保存性を重視したわけだがタレのベースが激辛でたった一口すっと汗がでる。辛さは美味しくもあるが酒精が少し残っているし辛すぎる………要改善だな。



「ごくり」



最後のてりやき風味、水を飲んでから試す。正直腐っているとしたらこいつだ。


醤油は見つからなかったが醤油に近いものは見つかった。


塩の鉱脈に近いと植物は枯れやすいのだけどその中でも育つ大きな麦、しかも火の精霊の領域だからか暖かい気候で育ったこれは挽いただけで醤油に近いものが出来上がる。


濃いたまり醤油の味、どろどろしたこれは現地民も僅かにしか食べない調味料だ。これを食べて……ちょっとポロッと来た。――――久々の醤油の味、現代日本では当たり前にどこにでもあった醤油……しかし、この味は旬を通り過ぎると味はエグみを増して酷く悪臭を放つそうだ。


だから加熱して砂糖マシマシの照り焼きのタレを作ったのだけど……砂糖の癖が強い。腐ってはいなさそうだけど「ほんのりフルーティ」どころか果物の風味満点の激甘になってしまっている。手の甲で舐めた時はまぁ悪くないかと思ったが、お肉に載せると濃い脂の味とは喧嘩してしまっている。



「どうだ?」



待ちきれないといったシャルルの表情。そもそも食べさせないほうが良いと思うんだけどな。



「どれも腐ってはいなさそうですが実験ですし、食べないほうが良いかと」


「いいや!俺は食べるぞ!!」


「じゃあせめて1種類ずつにしてください。体に合う合わないはありますし」


「ぐぬぬ……おすすめはどれだ?」


「陛下、ここは私めが先に試して見ますので陛下は数日後に……」



宰相は私のお屋敷でタルトを食べていたときも多分体の体積以上に食べていたし健啖家だ。


大量の食材がどこに入るのだろうと不思議である。



「お前が食いたいだけだろう!フリムも食べれているのだ!俺も食べるぞ!どれが美味かった!?」


「塩レモン風味……じゃない酸味の効いた果物と塩の味です。こっちのが辛めで、こちらは甘めですがお肉とは合わなかったです」



すぐに瓶を取って肉にかけて食べたシャルル。



「これは良いな。脂のコクと酸味に強い塩の味。クドさがなくなって――――いくらでも食べられそうだ!」


「陛下、私めにも!」



おいしそうに食べてもらえるのなら私は良い、多分痛んではいなさそうだし痛まないうちに食べるのも大事なはずだ。他の調味料の確認をして普通にもらったお肉で満足である。


塩レモン風味は正直上手く行ったと思う。保存性がまだまだ懸念されるが味は良い。それよりもタレとてりやき風味はもっと改善したいな。



――――現代日本のスーパーで売っていた調味料が懐かしくてたまらない。苦労して作っても腐らせたりうまく行かないを繰り返し試行錯誤を何度もして、ようやく出来たこれらも私的には「そこそこ」の味であって、数百円で売っていた調味料には遠く及ばない。



きっと日本のメーカーによって研究されて試行錯誤されて作られた調味料とは比べようもないほど保存性は良くないだろう。



「おい!爺!とりすぎだぞ!!なくなるだろうが!」


「よく食べるからとったのです!ちゃんと食べますから!」


「食べ過ぎだぞ!!」



喜んでもらえるのは嬉しいが、やはりたまにはこうやって前世を思い出してしまうなぁ。



―――焚き火の暖かさを感じながらちょっとノスタルジックに浸ってしまった。

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