第114話 たーまやー。
私は座らせてもらって死んだふりを続行、沈めていた風魔法使いを縛って起こした。
「げふっ!げほっ……ゴフ!ごほっごほっ………はぁはぁ、くそ。負けたのか」
「貴様らは誰の命令で来た?」
沈めていた風魔法使いだが生きていたようだ。
――――― ……エール先生による尋問が決まった。
「ごほっ……言うわけねぇだろうが」
「お前もお仲間のように拷問された後に死にたいのね?」
「はぁ?何言って―――」
溺れさせた2人を引き上げ、染料の残りを使って血だらけに見せている。
エール先生は縛られた男の顔からナイフを滑らせてられていく……柄を指で摘んで体の上を引き摺るだけ、切れないまでも刃先が体を伝っていくのは相当の恐怖だろう。
「見える?私の大事な主がこうして殺されてるのよ。これぐらいしないと気がすまないわ……大丈夫、私にはわからないけど玉を切り取っても半分ぐらいは生きてることがあるそうよ」
「へっあっ………?!」
冷静なエール先生の声色によって、私を引っ掛けようとした風魔法使いはもう怯えきっている。
いつでもエール先生はナイフを突き立てることが出来る。
「―――――貴方はどうなのかしらね?」
顔からお腹を過ぎて、股の上で止まったナイフ。
一気に真っ青になった風魔法使いがガタガタ震えている。
「まっ!ごほっごほっ!待ってくれ!俺がやったわけじゃなゴフッ!……い!!」
「でもお仲間なんでしょう?手足を7つに裂いて生きたまま獣の餌にしようかしら?」
「何でも話す!隷属しても良いンンッ!!俺は風の魔法使ゴフッ…いで役に立つ人間だ!!それに俺はオルゴとは別で雇われた傭兵だ!この国の事情なんて知らねぇよ!!?」
水を吐きながら頑張って話そうとする私をフィッシュしようとしていた風魔法使い。
ナイフを逆手に持ってほんのり食い込ませたエール先生。私も怖い。
「あら、風の魔法使いなんですね?私と同じ……主が死んだ以上、失態を埋める働きをするだけの部下がいれば心強いわ」
「オフオフッ!俺は使える男だ!どんな汚れ仕事だってこなすぜ!!コホッ!」
溺れた直後だからか咳き込みながらも男はエール先生に媚びでいる。
少しナイフの先を食い込ませたエール先生。ズボンに阻まれているのか少し刺さっているのか知らないが男の恐怖は尋常なものではないだろう。
「でも―――これから失態を叱責される私としては貴方が苦しんで死んだほうが溜飲が下がるのだけど」
「何でも話す!服従する!!」
べらべら話し始めた男。こいつらは他国の傭兵でライアーム前王兄殿下に雇われ、本家ルカリムの手助けも合って王都で私を殺そうと計画。
目標は王の派閥の重鎮を殺すことでも良かったのだが現状私が一番狙いやすかったそうだ。
敵の首魁はオルゴという貴族崩れの傭兵で魔法剣で戦う。ただ一般的な学校かと思ったら異常なほど警備が分厚いし、何者かの襲撃で人数が半分以下になってしまった。
正面から強襲しても人数はギリギリと考え、危険らしい魔導具を使って子供を人質に学園の強者インフーを刺客にした。
普通の学校には教師はいても「魔法使い」も「騎士」もほとんどいない。人数を連れてこれなかったが内部の伝手をつかってギレーネの居る軟禁場所を使って襲撃の機会を伺っていた。
途中レルケフという男を裏切らせてこちら側につけ、銭湯から魔導具を奪っていたとか。不味いな、想定外だ。加熱用の魔導具持っていったのは確実にあの人だ……親分さんになんて言おうか。
エール先生もうちの陣営から裏切ったのはレルケフだけか聞いた。他にも学園に連れて生きている私の派閥に来た部下や親分さんの賭場時代の部下も来ていたはずだ。どこまで裏切っているのかの把握は必要である。
しかし、私の支持者は私に近い位置に配置されたことでやる気充分だし、レルケフに近いモルガとケディンも銭湯で働いているがレルケフが「あまりにもアホなので使えない」と言っていたようだ……モルガは私を賭場に案内した時に途中で酔っ払って寝てたもんなぁ。
……インフー先生もあの魔導具を奪われたのなら学園ごと人質に取られたようなものか。
今は王都の警備が揺らいでいてその隙をついたと……ん?そう言えばシャルルが騎士団の締め付けをするとか言っていたような?あれ?その発端って私が襲撃された………のが原因のような……………考えないようにしよう、襲ってくる方が悪い。
「こ、こ、これで全部話した!奴隷にだって、何だってなる!だから!!」
「どうします?フリム様?」
「厳重な隷属をかけて働いてもらいましょう」
「生きてる!!?」
「ではそれまで眠っていてもらいましょう」
エール先生によって薬を口元に押し付けられた男は体をビクつかせてからぐったりした。
このあとどうするか、エール先生によればこの大雨も相まって学園側はそもそも気がついていないようだ。
騎士科の人に通報するのが早い気もするけど人質がいても突入するような脳筋がくれば被害が心配だ。私よりも学園に詳しく、先に自由になったインフー先生が状況を判断して動いているはずだ。
この場所は水の使える私に有利だし私はここにいて、エール先生に孤児院を偵察しに行ってもらおう。
「絶対無理はしないでくださいよ」
「フリム様こそ……では行ってきます!」
また水に沈んで操作する。お腹の剣は本当に刺さっていないかエール先生が触っているうちに外れるようになったのでもうつけない。
水が濁って使いにくくなっているし新たに水を追加する。結構な範囲でも水を出せば水を出した分だけ知覚できるのは便利だがまだ慣れてなくてちょっと酔いそうだ。
新たな発見だ。水の中にいて濁っていなければきっと100m先でも水を介して知覚できる。
そうして何が起きても対処できるように水を増やして……少し寒かったし温度も上げてぬくぬくのんびりと泳いでいるとエール先生がやってきた。あの石板状の加熱魔導具を吊り下げて……。
「フリム様!今にも爆発しそうです!冷やしてください!!」
「えぇ?!」
水の中に大きな板が入るとボシュと嫌な音がして一気に周囲が沸騰する。熱いお湯は排水口に、新たに冷たい水を出すが―――止められない、それどころかどんどん熱く、赤くなってる?
すり鉢状の中心、水の阻まれた底の魔法陣を踏む。
地下のすり鉢の中で爆発でもされれば危険すぎる。
魔導具の効果か空に大きく浮かんでいく私、杖を持って浮きながら魔法を使う。
「<水よ!巻き上がれ!!>」
溜まった水を下から巻き上げ、結構な高さで水の塊を作り、魔導具を冷やす。
この魔導具が壊れたら学園が吹っ飛ぶ可能性があるとクラルス先生もエール先生も本気で心配していた。
あのまま私もいる状態で爆発されれば私が危ない。私があの場から退避しても空飛ぶ魔導具が加熱魔導具を射出してどこか訳の分からない場所で爆発したら学園ごと危ない。
―――だから即席だが水の塔を作って水の腕で持ち、空中で冷やしていく。
だが――――
過冷却で押し込もうとしているのに、私の冷却以上に加熱されていく……!!!??
「<水よ!!空高く射出して!!!!>」
最後の抵抗として光り始めて今にも爆発しそうなそれを杖を使って全力で上空に飛ばした。
私に馴染んだ杖を使った上での全力。どこかに落ちれば危ない気もしたがこの杖を使えばどれだけの範囲だって関係なく使える気がする。……というか今一番あれに近いのは私だし、どうみても爆発しそうな魔導具と距離を取らないといけない。
空の上の私よりも上に、ぐんぐん水に押されて上に登っていく真っ赤になった板。
キュカッと変な音がした。――そして空が全て燃えているかのように爆発した。
水の柱の中を浮かびながら「たーまやー」とか「大玉花火より大きな爆発だな」なんて馬鹿な考えが一瞬よぎったが……すぐにそんな呑気な事が考えられないぐらいふっとばされた。水の柱からはじき出されて空中で玩具のように吹き飛ばされている私。
どちらが地面でどちらが空かもわからない。幸い杖は手放さなかったし全力で水を出して水のバリアで体を包んでいく。
落ちるの怖すぎる!?
自分がどちらを向いているのか、高さも方向もわからなくなったがどうやら限界まで力を込めた水のバリアでなんとか無事に着地できたようだ。……けど、ゴロゴロ転がっていく。どこが地面かもわからず水のバリアは破れてははり直すを繰り返すが止まる気配がない。
何かにぶつかって減速した。水のバリアの感覚では止まった用に感じるが―――地面が空から降ってくる。平衡感覚がおかしくなっていてグワングワンしていると水のバリアがうまく作れず崩壊した。
視界の端で私と同じ髪の色の子が走り寄ってきて……抱きしめられた。
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