第113話 どんぶらこどんぶらこ。
エール先生に声が伝わっているのはかは不安だったが……インフー先生と計画を練る。
私が目標であるなら、私が死んだふりをすればインフー先生は鉄砲玉としてもう価値はなくなる。相打ちを演出すれば、インフー先生は敵にとって用済みだ。
インフー先生の短剣を根本で折って私のお腹に刺さってるように見せかける。マジックで使うぴょこぴょこするようなナイフがあればよかったけど、まぁ仕方がない。
インフー先生のお腹にも「わかりやすい私からの攻撃」ということで大きな氷のつららを過冷却水でお腹側と背中側で作り、貫通しているように見せる。
もちろん監視者にバレないように少しずつ戦闘音を鳴しながら監視を誤魔化して準備した。
「少しぐらい血を流してる方が良いだろう」
「あ、これ使ってください」
折った短剣の刃を使ってお腹の皮膚を切ろうとしていたので止めた。クラルス先生と相談してもらった染料がある。他の色は凍らせて溶けないようにし、赤を少し私とインフー先生の服に塗る。口元にも少しだけ。
「時間はどれだけ稼げるかわかりませんがその間に……」
「あぁ、孤児院の子供たちは任せてくれ―――俺の責任だ」
そうして私は死んだふりをして―――
「何だこの水の量は!?相打ちか?流れちまったぞ!!?おい!インフー!!」
「………く、薬はないか?」
「くそっ!?死んでやがれ!おい!死体が水で流れちまったぞ!追え!」
「こいつはどうする?薬はあるが」
「ほっとけ!もう用はない!!ルカリムの首がないと俺らの首が落ちるぞ!!追うんだ!!」
―――水に流されている。
杖は元々後ろに浮かんでいたし私の近くにあってもおかしくはないはずだ。水の腕で一応掴んでおく。
水の中だと水の腕って見えないしいいよね。水も消火用の水も流れているけど私の水が中心だし操作しやすい。あまりにも水が濁れば操作しにくくもなるけどそれでも水を出し続ければほとんど問題ない。
水を操れるということはその操っている範囲をある程度把握できるということ、敵の人数が完璧にわかるわけでは無いがそれでもなんとなく何人いるか把握できる……杖を使えるようになって出来ることは増えたように思う。
背中も痛いしプカプカ流れていると敵らしき人もいた。ちょっと加速してそのまま流れる。
火の研究棟の最終地点はすり鉢状になっている。
中央の空を飛べる魔法陣は不思議と水で濡れていないがすり鉢のようになっているから水が渦を巻いているし、私もその中で一緒に流れる。
真ん中の魔法陣に触れればプカプカ浮いて狙われるかもしれないから水の中をぐるぐる回る。
何人かいた敵が追いかけて来ていたがすり鉢状になっている場所の手前で止まった。
「だれか水を止めろ」
「ふざけるな雨も降ってるし止められるわけがないだろう!!?」
「水路はどこに繋がってる!?先回りするぞ!!」
洗濯機の中で洗われる衣類のようにゆったりぐるぐる回る。
浮き沈みもして全員いなくならないようにおちょくる。彼らからすれば中央の魔法陣は円柱状にその部分だけぽっかり水が当たらないようになっている謎の意味不明超危険施設だ。しかも水も魔法陣を中心に渦潮のようになっていて手出しできないはず。
頑張って水に入らないように縁から私の死体を回収しようと頑張っているが難しそうだ。
「底は見えてんだ、これぐらいよゆ――うぁっ?!!」
「何やってんだ気合い入れろ!」
「気合で棒の長さは伸びねぇよ!手伝がボボボ???!!」
入ってこようとした一人を水で巻き取って溺れさせる。
見つけられる限りで3人、もっといるかも知れない。
一人が私の上を飛んで私を捕まえようと頑張っている。
風魔法で飛び、たまに水面に浮かぶ私に対して棒で引っ掛けようとしていたようだが……甘いな、そんな棒で釣られるほどフリムちゃんは小さい魚じゃないのだよ………!!調子に乗ったら背中が痛んだ。
「よし引っ掛けた!そっちに―――うおっ!!?」
私を棒で引っ掛けた風魔法使いを水で逆に引きずり込む。水の腕を口に突っ込んで溺れさせる。
もしかしたらこの人も何も言わなくても魔法が出せるかも知れないが彼を覆う水は私が掌握しているし抵抗はさせない。
インフー先生大丈夫かな?余裕でずっと水の中にいるけどちょっと予定とは異なる。予定ではもっと敵の手下がわーわーとこちらに来るかもと思ったが全然人が来ない。
私が目立てば目立つほど、インフー先生の敵は減り孤児院やうちの従業員の安全度は増す……はず。しかし増えたのは一人だけ、もしかしたらこのすり鉢状の下の排水溝らしきものの先に人員を回している?
私が目標のはずなのに、人が増えないのはインフー先生が戦っているということなのだろうか?いや、もしかしたらエール先生が数を減らしている?
この水場にいれば私は負ける気がしない。全員倒してしまいたいが、適度に時間を稼ぐことにする。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
すり鉢状になっている空間の上、ポッカリと穴が空いたそこから雨が降っているがその縁に人がいた。
水の中でどんな人がいるのかよく見えなかったが魔力の圧がして……ゾッとした。
敵か味方か、どんな人か分からないが……無表情で死んだふりをしたまま沈んで水の膜を口元に集めてたまに呼吸する。怖いので少しの間沈んでおくことにしよう。
―――バッシャァァアアァァッ!!!!!
「フリム様……、なんてお姿に!!インフー………よくもっ!!」
……この膨らみ!エール先生だ!!
敵はもういないようだが、エール先生に引き上げられてしまった。敵がいないならもう水の中にいなくて良いのかな?
あれ?エール先生はインフー先生との作戦は聞いてなかったのかな?私を抱き上げ、大きく涙を流しているエール先生。
「あ、エール先生。大丈夫です生きてますよ」
「ふぁっ??!も、もう!心配させないでください!!」
「あだだだだ!!!??」
一瞬飛び上がって少し私を離しそうになったエール先生。思い切り抱きしめられた。
アホライオンと戦って壁に叩きつけられた背中がすごく痛かった。
お腹も服をまくられてめっちゃ見られた、そうだった。赤い染料で血を流しながら死体を演出してたんだった。
すぐ横で監視らしき敵は倒れていた。
「本当に心配したんですから……でもご無事で良かったです」
「心配かけてゴメンナサイ………背中痛いので離して」
おでこを合わせて鼻と鼻を当てられて頭を撫でられている。―――これは飼い猫とか飼い犬にするやつではなかろうか?心配させたのは確実に私だし黙って受け入れる。あ、沈めてた風魔法使いを一応浮き上がらせておこう。
エール先生に聞くと戦闘開始後に私とインフー先生の話を少し聞いていたそうだけど、すぐに事情を察して周りの監視を駆逐していたそうだ。
敵が全力で逃げていたので時間がかかっていて私とインフー先生の悪巧みについてについては聞いていなかったと。
だからこっちは人が少なかったわけか。狙いが私だったらもっと人は多くていいはずだしね。
「エール先生は大丈夫ですか?」
「ムチがちぎれた程度です。被害はありません」
「豪華なやつ買いましょうね!」
「ふふっ、ありがとうございます」
かなり背中が痛いが、痩せ我慢である。
―――これ以上心配させればきっと空が見えているここだろうと全裸に剥かれて薬と包帯でぐるぐる巻きにされてしまうから……。
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