第115話 事後処理は事後だからこそ困ることもある。
無表情のエルストラさんにスリスリハグハグされて、気分の悪い状態ではあるものの事態は無事に収束したことを知った。匂い嗅がないで。
「怪我は大丈夫ですか!?死んだと聞かされて心配してました……っ!!」
「ぅぐ、く、苦しい」
「苦しい?!ど、何処がですか!!?フリム!答えなさい!!フリム?!フリームッ!!!!!」
―――救護に見せかけたとどめかと思った。もしくは辱め。何を思ったかお服についた赤色、血だと思ったのだろう、怪我を確認するためにお腹の裾をまくろうとして私が「外だから」と抵抗。何を思ったのか服に頭を突っ込んできたりしてめちゃくちゃくすぐったかった。
でもこの様子を見るにやっぱりこの人、立場はともかく味方っぽいんだよなぁ。エール先生と同じようなことしてくるし。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
流石に雲が晴れるほどの大火球で学園はとんでもない騒動になった。
すぐに部屋で寝かされて治療を受け、関係者が集まり事情を知った。
エール先生も空中で吹き飛ばされてダメージがあったらしく隣で寝ている。話を聞くと私が知らない間に色々あったそうだ。インフー先生の魔導具以外にも孤児院でも戦闘が起きていて、王都では暴れてる人もいたそうだ。
「―――本当にすまなかった」
「謝らないでください。インフー先生は一応今回の立役者ってことになってるんですから」
インフー先生は寝込んでいる私のお見舞い……ではなく事後報告のための相談に来た。
インフー先生はあの後孤児院に救出に行ったのだが「私への襲撃は予め私とインフー先生が察知して通じていたことにしよう」と相談していたのだ。孤児院も被害者だし怖い思いもしたはずだ。
インフー先生が私への襲撃に加担したとなれば今後亀裂が生まれることになるし、せっかく仕事がうまく行ってきているのに溝が生まれるのは誰も得をしない。
私も監視者の盗聴を遮るためとは言え水の膜で部屋を覆うのに杖を使って力加減を誤ってインフー先生を倒してしまったことを素直に謝罪した。
「あの、精霊のこともすいません」
「キーリディグレスかい?」
「なんか出てきた精霊が食べちゃって……」
「え”?<いでよ、キーリディグレス>………キーリディグレス?」
「わぁ可愛い」
なんかリヴァイアスの杖をこっそり使えるように練習していくと角と牙の生えたマッコウクジラのようなものが水の中に薄っすらと浮かぶようになった。
会話はできていないが多分杖の中のリヴァイアスだと思うし声に魔力をこめると……なんか出た。そして黒いライオン型の精霊はそれで食べられてしまった。あれで精霊死んだかと思ったがちゃんと出てきた……けど、ちっさい。大型の黒いライオンは子猫みたいになってしまった。
ちょっと和んだが、何があったのかどう事後処理をするのかを話し合わねばならない。
報告を聞いていくと私のいないところでモーモスやエルストラさんが戦っていたそうだ。
「パキス?パキスもいたんですか?」
「あぁ、大分重傷だったが……」
え?いや、そもそもパキスこの学園にいたんだ?敵?裏切ったのか?……と思ったら更生するべく通っていたらしい。
私がプカプカ死んだふりしてる間に色々と修羅場があった。ヒョーカはずっといないかと思ったら大活躍していたそうだし、オルミュロイは敵に回って氷漬けになっていたようだ。かなり意味は分からないが、ひとまず学園の報告のためにも話を聞かねばならない。
「私と別れた後どうしてたんですか?」
「あぁ、大変だった。まさか『竜剣』が敵だとは……」
インフー先生は私と別れてから孤児院に通じる緊急脱出路を逆から侵入。しかし、風の魔法使いに感知され、あっさり追い込まれて孤児院正面玄関にて敵の首魁を含める主力と戦闘開始。裏から潜入したヒョーカと合流したエルストラさんも加わって挟撃。
そこにエール先生も裏から入っていたらしく、建物から現れて加熱魔導具の異常を制作者であるインフー先生も知る。
すぐに冷やすしか無く、エール先生は加熱式魔導具を運搬、銭湯の屋上に貯まった水に入れたは良いものの加熱を止められずに私の元にあれを持ってきて爆発。
あれが爆発しなかったら大事にもせずにもっと簡単に事情を話せるのだが……。以前も王宮での襲撃があったときも爆発してたなぁ。いや、あれは私がやったんだけれども。
「申し訳ないのだが竜剣とレルケフは逃してしまった」
「こちらの被害が少ないほうが大事だから無理に追う必要はありません。問題ないです。それより子供たちは大丈夫でしたか?」
「何人か殴られて怪我はしていたがすぐに良くなるだろう」
竜剣と呼ばれる敵の首魁は正面玄関での戦闘中にあの加熱魔導具が持ってこられた混乱でいなくなってしまったそうだ。そしてレルケフ、ニッコリしながら私に忠誠を誓っていたはずだがそれは嘘だった。パキスとモーモスが致命傷を負わせたはずだが死体はなくなっていた。
しかし、ミュードの怪我、パキスがいた。それにモーモス……この状況、そうだな。
……………レルケフは親分さんの息子だけど裏切りに気がついたパキスとミュードが私への被害を阻止するために奔走したということに出来るだろう。孤児院には口止めをインフー先生からしてもらう。
そう言えば……今回賊を引き入れて匿っていたギレーネ。ラディアーノのことを考えるとどうしようかと思ったがギレーネは私の襲撃に参加しようとしたがラディアーノがギレーネの元に向かい襲撃を止めていた。
しかし、隷属の設定をゆるくしているとは言え、流石に禁止事項があるようでギレーネを止めている途中でラディアーノは瀕死となって倒れた。ギレーネも流石に自分の旦那が命がけで止めてきたのを見捨てられずに襲撃への参加はしなかった。
んー……ギレーネは学園の被害を止めるためにも工作していたことに、出来るかな?フィレー新学園長との兼ね合いもある。だが、神殿にも手引した人がいると聞いた。その人の情報の提供をしてもらった上で………身柄をもっと厳しい場所に移すことにしよう。神殿への強襲をヒョーカに任せる。
親分さんも駆けつけてくれたのですぐに部屋に通す。
「レルケフが、すまねぇっ……!!」
「パキスとミュードともよく話しあってください。なんで裏切ったのかは調査中です」
「あぁ……」
オルミュロイとマーキアーとタラリネも大怪我をしていた。オルミュロイはレルケフに命令されてマーキアーと戦闘。首に一撃入れられて氷漬けになったとか。マーキアーとタラリネの関係が心配である。
フィレー学園長もラディアーノもギレーネのことで謝りに来ていたが私は被害者だからと騒ぎ立てても何の生産性もないことを理解している。
もちろんこちらの事情は余すことなくフィレー新学園長にも事情を話している。表向きには『私が被害者で学園滅亡の危機になりました』というよりも『学園の危機に協力して事にあたりました』の方がまだ建設的だから口裏を合わせる必要がある。
ギレーネについては「裏で拷問してから殺そう」という意見も出てきたが流石に学園側のことを考えるとそうも行かない。ギレーネは私やシャルルの配慮を踏みにじっているからその意見は理解できるけど。
そこで人と関わりの無くなる独房を私の屋敷に作ってそこで暮らしてもらうことになった。罰が軽すぎる気がしないでもないが表向きでは悪さをしたわけではなく「学園に被害をもたらす賊への対処に協力した」わけだから神殿にいるよりは待遇がよく見えるかもしれない。
まぁクラルス先生やユース老先生には事情を話しておこう。
あとはあの魔導具の破損だが――――
「壊して怒られるのはいつものことだ」
「もう研究やめてもらえませんか?危険すぎますよ」
「いや今回は正しい使われ方がしなかっただけだ!耐久性は正しい使われ方がしないと評価できないものであの魔導具に関して俺は悪くな……その、各々方?なぜ杖を取り出した?」
「「「お前が悪い!!!」」」
まぁ、あの魔導具は「火の研究棟で直そうとして失敗した」ことになりそうだ。
賊が孤児院にいたことはエルストラさんの仲間が見ていて誤魔化しようがないがエルストラさんならライアーム派閥のしでかしたことだし真実が広まるのはよくないはずだ。
事件に関わった人がどれだけいたのか正確に把握できないのが痛いがある程度口止めしてごり押そう。情報伝達が曖昧だからこそ、それでどうにかなるはずだ。
学園中が大事になっているし、事後報告はしないといけないがもみ消すためには事態の共通認識は予めしておくべきだ。
なぜいたのかが全くわからないパキスやモーモスについての報告もあがってきているがパキスは重傷で、モーモスはなぜか女装していたとかは本当に意味がわからない。
この世界の情報は人から人が基本だから多分情報がおかしい。パキスにいたっては「私に仕えるために正々堂々と努力を積み重ねていた」とか……………私の知ってるパキスじゃない。別人の報告と間違えてない?
後日、敵の残党は王都にもいたらしいがヒョーカが襲撃、全員対処が終わったそうだ。ヒョーカって王様のところから私の護衛に来ていた人だけど実はものすごく仕事していたらしい。今度会ったら褒めておこう。
そして『竜剣』という外国から来た敵の首魁は死体で見つかった。火傷もすごかったことからインフー先生との戦闘が原因かと思ったが彼は真新しい火傷で体から煙を上げているところを発見されたらしい。――――もう一人、悩みのタネだったレルケフはどこにも死体が見つからなかった。
背中の痛みもだいぶ良くなってきて……勘の鋭いフリムちゃんはそろそろ呼ばれるなと思ったら、やはりお呼び出しがかかった。うむ「報告に来い」というシャルルからだった。はぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます