第102話 パキスとモーモスとギレーネ。


学校でどんな事をしているのか、学校とは何のためにあるのか……学校で貴族としてどんな事を学んでいくのか。


貴族はその杖を持って平民を守り、平民は税を納める。


平民がいなければ貴族は貴族ではない。だから平民は我が子のように守らなければならない。無茶ばかりしてるとその平民や自分の部下に毒を盛られてそこでおしまい。



「………」



色黒野郎が言うには仲間や部下、平民や子供は大切にしねぇといけねぇらしい。



―――そういうものなのかと。ただ学んでいると……ある日フリムを見た。



何人か俺等を教える奴はいるが俺は色黒が気に入った。火の研究塔の近くの草を一人で抜いていると色黒が連れて行かれたからついていくことになった。


水の怪獣を出し、大人であっても破壊できないらしい的を簡単に壊していた。遠くにいるのにここまで冷たさが伝わってきた。


力があるやつがなんだって好きにしても良いと思っていたが……だったらあの力を俺は向けられていたのかもしれないのか?


なんて俺はちっぽけだったんだろう。


俺なんか必要か?俺は借りを返せずにこんなとこにいても良いのか?………そのうち、また見に行く機会があって、俺とそう歳もかわらない『旋風』とかいう肉団子が向かっていった。


肉団子は見た目と違って速かった……それでいて、凄まじかった。


風は俺の天敵だと教わっている。相手は速く動けて飛べる。


速く動けるのは俺も同じだがどこでも飛べるのはつえぇ。


肉団子は飛んだり、風を打ち込んだり、俺では絶対避けらんねぇ短剣での突撃。



―――――フリムはその場所から一歩も動かずに、ボコボコにして屈服させていた。



もう俺の力なんていらねぇんじゃねぇかと思ったが……肉団子が俺等のもとに来た。



「モーモス・ユージリ・バーバクガス・ゴカッツ・ニンニーグ・ボーレーアスだ。よろしく頼む」


「侍従のミュード・ドラッゲンです」



兄貴を引き連れて………。



「この場では貴様が君臨してるようだな。よろしく頼むぞ」


「あ”ん?何様だテメー?」


「これだから矯正送りにされる子弟は……」


「テメーも同じだろうが? バ ー カ ァ !!」



ちょっと大声で茶化してみた。


フリムにボコボコにされて、こいつは屈服していた。


こいつに勝てなきゃフリムの役に立つなんて夢のまた夢だからな。



「なんっ」


「おらぁっ!」



真っ赤になって杖を取り出そうとした肉団子。


だが、この距離、殴ったほうがはえぇっ!!



「うぐっ?!……これがドゥラッゲンのパキスだったのか?こんな乱暴な愚者が?」


「うっせぇ!ここで杖出せば殴り合っても当然なんだよダボが!杖じゃなくて拳でやれよ卑怯もんが!」


「ひ、卑怯!?」


「そうだろうが?杖を使っちゃいけねぇ相手に杖でやろうとする。あぁなんて卑怯なんだろうねぇ」


「き、貴様!それ以上は許さんぞ!!」


「ぐっ!?やんのかてめぇ!!」



この肉団子、杖なしでも思ったよりも速く動ける。


ボコボコにしてやったがなかなかにこの肉団子もやるもんだった。―――――この日は引き分けた。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





「おい、肉団子」


「モーモスだ!このわからず屋が!!!」


「どうでもいいんだよそんなもん。――――フリムはどうしてる?」



俺は俺なりに進んでいる。力も魔法も勉強も。


だが、あいつとの差が全然わかんねぇ。俺なんぞいなくても仲間は増やして、人に慕われている。


このままじゃ  どころじゃない。恩を着せる?何も出来ねぇよ。



「は?そう言えば貴様もドゥラッゲンだったな?ミュードとはぜんぜん違うな……」


「肉団子」


「 モ ー モ ス だ !!全く……。フレーミス様はご健勝であられる。気になるのか?」



こいつはフリムを裏切るような、嫌な素振りは何一つしない。



「………チッ!」



「………聞いておいて何だその態度は!?この痩せガキがっ!」



なかなかに早く動くこの肉団子とは殴り合いが当たり前になった。


他の殴り合いに慣れてない雑魚共よりも杖無しでも素早く動けるこの肉団子はなかなか手ごわい。重みが違う。


一度雑魚どもに襲われそうになったが……短剣は取り上げられていて杖が使えない制約をかけられてるのに無理に魔法を使おうとするから俺が殴るよりも大怪我になってしまった。


いきなり目と鼻から血が出たのは驚いたが。



「なんでこんなことに……パキス!いや<全員!立って反省していなさい!!>」


「……!!?」



奴隷や隷属、制約の魔法は頑張れば逆らえる。命がけだがそこまでして俺を攻撃したかったのか……殴り合いまでなら何も言われないのにな、馬鹿め。


フリムが肉団子を従えられているのは肉団子が良い待遇を受けているからか?


この肉団子はフリムの敵だったと聞く。ならいつ裏切ってもおかしくないし――――……こいつはよく見極めないといけない。


今のところ、真剣に役に立とうとしているようには見える。


俺もこの肉団子とは違う方法でフリムを   やりたいと思っている。まだ顔を合わせることは出来ないが………。


肉団子は肉団子で平民との接し方や労い方をここで学んでいき、俺は俺で肉団子の……貴族としての従い方を知る。



「さっさと聞かせろ肉団子。あいつはどうしてる?」


「モーモスだ。ふふっ、そうか、お前は名前も覚えられないのか?」


「あ”ぁ”ん”」



今日は俺が負けた。糞が。――――まぁ次は俺がボコボコにする。



神殿の草むしり、こんなの平民の仕事だろうと愚痴を言っているが神殿での仕事は身分関係なく奴隷も平民も貴族もする。お貴族様は日の当たる表をやりたがるが俺たちは裏、それも日陰。


俺は他の奴らよりも草むしりを率先している。俺が路地裏で生きてこれたのは周囲をよく観察していたからだ。……フリムがいた時は一人だけで動くよりも周りを気にしてたっけ。



肉団子も草むしりをすすんでやっていたが……まぁこんな雑用してる間に殴られても仕方ねぇし誰もやらねぇような場所を一人でやる。向かってくるならこういう場所でやり合ったほうが邪魔も入らねぇしな。



「なんで!なんでなのよっ!!!??なんで私が……」



変な声が聞こえた。借金取りにでも追われたような女の声がする。


ちらりと窓を覗くと、婆がいた。



「私は間違っていない、間違っているのは………」



他に気配はない。一人でキレてるようだった。


あんなのには関わってもろくなことがねぇ、立ち去ろうとすると気逃せない言葉が聞こえた。



「そうよっ!!こんな事になったのはあの子が……フレーミスが悪いのよ!!!」



……なに?


そう言えばこの学園の偉いババアが逆恨みでフリムを攻撃して、逆にしてやられたんだったな。


ブツブツなんか言ってるババアが何をいってるか少し気になった。




「―――――こんな場所に、私は居ていい人間じゃない」




周りはフリムのことを「何でもうまくこなす」「聖女」「賢者」だの御大層に言っているが――――




「――――――なんだよ。あいつだって間違えてんじゃねーか」




よく何を言ってるかあわからないが、嫌なものを聞いちまった。それから人気のない神殿の草むしりの仕事は俺がやるようにしていた。


路地裏では裏切りなんか当たり前だった。親切にして刺されるような間抜けもいた。


フリムは俺や肉団子のような敵だった人間を殺さないようにしているがそれで「正解」というわけじゃなさそうだ。


とはいえ神殿の噂も耳を少し強化すれば聞ける。もしかしたらこの婆もこの神殿から出られなくなって、色黒みてーなやつがいりゃ……やり直せるかも知れない。


なにかやらかすなら俺がぶっ殺そうと思っていたが、様子を見ないといけない。というか俺が見たい。肉団子も婆もどうするつもりなのかを。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





「君は変わってるね。ここで教育を受ける子弟は大抵傲慢で、貴族としていつか問題を起こすから入れられる。始めから学ぼうとする姿勢の人間はこっちよりも普通に学ぶことが多いが……家では冷遇されて学べなかっただけかい?」



色黒教育野郎。ここの子供たちに好かれてる子供好きの変なやつだ。


理由は分からないが呼び出しを受けた。



「……貴族になったのは最近なので教育を受ける機会がなかったんだ……です。なので貴族としての生き方を知らず、ここに来ました」


「………ふむ、君の父親はドゥッガ・ドラッゲン、後見人はダワシ……ドゥラッゲンの強者か。賢者フリムとは面識があるのかい?」


「あぁ、元部下です。それがなにか?」



敬語はまだ使うのが難しい。だが俺でもわかってきた。敬語や立ち振舞を学ぶことで相手の強さが分かる場合もある。


同時に相手も話し方一つで「まともに話せる相手だ」と思わせられればそれで情報を引き出せるかもしれない。


まぁ部下って言っちまったけど俺が部下って思われてるのかも知れないな。



「いや、先程まで来ていてね。彼女は素晴らしいよ……自分のことだけじゃなくて孤児院のことまで考えてくれる」


「………」


「よかったら彼女が始める新しい事業、銭湯や洗濯、氷室の仕事に参加してみないかい?もうしばらく学べば君はここを出て普通の学生となる。その時彼女と孤児たちのつなぎ役となってもらいたい。どうかな?」


「今は無理だ」


「どうして?」


「神殿で、自分を見つめ直してるところだからだ……です」



神殿で耳を澄ませてよく聞いた言葉。ちょっと敬語は失敗したが伝わったらしい。


色黒野郎は少し嬉しそうにしている。


これは嘘だし、いつも嘘をいうだけならなんとも思わないはずなのに……何故か少し胸が痛む。



「そうか」



言うべきか?婆が怪しいって……いや、婆だって今改心しようとしているかもしれない。証拠ってのもなしじゃな。


肉団子も今のところはフリムに忠誠を誓ってるみたいだが、いつボロがでるか見張らなきゃいけねぇ。そっちで仕事をするべきか?


………いや、まだ俺はあいつに合わせる顔もない。ここで失敗はできない。



「彼女は素晴らしい主だ。このまま励むと良い」


「………」


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