第101話 パキスの見たもの受けたもの。
どうすりゃ良い?路地で生きてきたクソな人生からいきなりオキゾク様だ。
やることもねぇし言われるままに教わる。教育何ぞいらねぇと思ったがじーさんがずっと横にいておしえてくれる。
「教育」ってのは「生きるの役に立つ手段」らしい。
そういうのは殴られたり酒に酔う兄貴に聞けたりするもんだと思ってたがオキゾク様はぜんぜん違う。
わざわざ丁寧に教えてくれる。だがいるかどうかわからないものだった。
教師から逃げるのもいつものことだった。じーさんも初めだけ止めてきたが次からは一緒に逃げた。貴族式の礼だの飯の食い方だの……意味がわかんねぇ。
「じーさん、なんで教育ってのはいるんだ?」
「…………そうだな、色んな答えがあるが」
「俺にもわかるように言ってくれよ。センセー様達は皆違ってたぞ?優雅に食うため?食えれば良い。美しくするため?知るかよ」
「学び方もあるし、色んな答えがあるが………そうさの、儂なりの答えを教えよう」
「………」
かてーきょーしから一緒に逃げるのをバーサルおじに怒られてたりもする。だがこのじーさんは他の大人と違って「あれをやめろ」とか「これをやれ」とは言わない。
俺が聞けば何だって答えてくれる。
「儂は学ぶことによって2つ大事なことを学んだ。……それは『強くなる方法』と『誰にも舐められなくなる方法』だ」
「――――は?」
意味が全く分からなかった。
調度品の見方だの、女が好みそうなヒラヒラした服での動かし方だの、頭の下げ方が強さと舐められない方法だと?
「どういうことだ。じーさん」
「まぁそうだな。儂も人に教えるのは上手いとはいえんが……<土よ>」
じーさんは足元の土を固めて絵を描き始めた。豪華そうな服を着た男の隣に線を引き、貴族のような服を着た男の横にまた線、普通の服を着た男と線、鎖に繋がれた男と馬や犬が一緒に描かれてそれで終わり。
「そこの木の棒とってくれ」
「おう」
「まず、王。よっぽどのことがない限り関わることもないが人の中で一番偉い」
「かてーきょーしからよく聞くやつだな、敬えっていう」
「そうじゃ、まぁそれはええ。次が貴族、その次が平民、最後に奴隷と動物じゃ」
何となくそれはわかる。
「それでドゥッガがいたのがここじゃな」
平民の辺りをコンコンと木の棒でつついたじーさん。
たしかに親父はつえーし貴族相手にだって身ぐるみ剥ぐことはあったがそれでも「貴族には逆らうな」って言っていた。
そのままじーさんに伝える。
「そうじゃな、この線を少しぐらい超えることもある。ドゥッガは平民にしては貴族に近かったがそれでも本物の貴族にはかなわん。この線の中で生まれた者は生涯そのほとんどがずっと変わることはないのじゃ……そしてお前さんは前はこのあたりにいた」
叩かれた場所は奴隷と平民の線の平民に少し近いぐらいだ。
なんとなくだがわかる。
「この線を超えると生き方がぜんぜん違う。強さの基準もな。儂はずっとお前さんといたが、爺の儂でも平民や奴隷の生き方は出来たじゃろ?それは魔法があったからじゃよ」
「よくわかんねぇ」
「……この線は身分を表すものじゃが、平民は素手で戦う。貴族は魔法で戦う。王や公は精霊がいて当然。線の向こう側のものに勝ち目なんてほぼ無いのじゃよ……そしてパキス。お前さんがいるのは今はここじゃ」
トンと叩かれたのは貴族の真ん中あたり。
「以前の生き方が染み付いたお前さんにはこの場所の教育ってのは辛かろうし意味もわからんかもしれんの。だが、教えは平民の剣、貴族にとっての杖、王にとっての精霊……同じようにいつか武器になるかもしれんもんなんじゃ」
魔法とかよくわかんねーが少し使えるようになってはきた。
わからねーのはわかってる。そういうもんだと納得してじーさんから何かを教わる。暇だしな。
「じゃあ、舐められないってのはどういうこったよ?」
「平民の常識で、大きな男が鎧と剣を持ってたらどう思う?」
「やべーって思う」
「それと同じじゃよ。貴族は背の高さや大きな剣で強さを見るものじゃない。礼儀を見ればそれだけ学んで良い教育を受けてきたとわかる。歩き方一つでその「やべー」がわかるのが貴族なんじゃよ」
「嘘だろ!!?」
「儂はお前に嘘はつかんよ。今は何のための学びかわからんじゃろうな。ずっと役に立つかもわからんこともあるじゃろ」
帰り道でじーさんは「思ったままの生き方をできるようにする武器の一つが教育なのかもしれんの」と言っていた。
きょーいく……教育ってもんが役に立つのかわからん。だがきっとそれはいつか役に立つらしい。短剣の振り方や刺し方だってめったに使うもんじゃねぇが誰だって学ぶもんだ。
教育も受けてきたし、世の中ってのがなんとなくわかってきた。
これまでの俺がどれだけのことをやってきたのか、どれだけ人に迷惑をかけてきたのか―――――……フリムにどれだけ敵が多いのか。
爺に引き取られて、しばらくして「お前のためだ」とかいってガッコーに入れられた。
「まだまともな道に戻れるさ、私のために薬を買おうと頑張った優しいあんたなら……気張ってきな」
「………」
――――そんなこと言われたってそもそもどんな場所かも分からねぇんだが。
うじうじしてんのも自分らしくねぇし、分からねぇことは爺に聞こう。
「じーちゃん、俺……どうしたら良い?」
「そうだの……顔を合わせにくいのはわかる」
「そんなんじゃねぇよ」
俺は母さんの言うように優しくはないと思う。使えるもんはなんだって使おうとした。
フリムだってそうだった。
俺なりに教育してやったが、それは俺の都合でフリムのことなんざ考えても居なかった。
フリムは俺を殺しても良い立場になったのに、俺を殺すことも痛めつけることもなかった。しかも母さんだって治すのにも一言くれたからちゃんとした薬も買えたらしい。……何だよそれ。
それがずっと胸でもやもやしてた。
俺の部下だろお前は?そのはずなのに親父が部下になって、意味が分からなかった。
だけど、母さんも、俺も助けられて……何も返せなきゃダセェ、ダサすぎる。
俺が守ってやってるはずのチビに俺が守られて、俺は恩を受けてまともに暮らせるようになった。なのに何も返せねぇ。
だから、まぁなんかあっても俺様がどうにか出来るように見てやろうと思った。
学園に行ったが俺は「ソコー」が悪いからまずは矯正されることになった。
俺みたいなまともに教育を受けていないやつが集められた。
「あぁ、君た「ふざけんな!何だこの待遇は!!死んで償えっ!!!<火よ!風にのりうぐぁっ?!!
肌の浅黒い男が、正面から貴族様を殴り倒した。
あ、今は俺も貴族様だったっけ。
「何をする!この名誉ある「だまりなさい」うぉぐっ?!」
「この下民がっ!!?」
「死ねぇっ「礼儀がなってない」がっ?!」
見るうちに俺以外全員殴り倒された。剣や杖を抜くのが悪い……それにしてもこいつはつえーな。
クソつえー上に魔法を使えるお貴族様。いや、今は俺も土マホーと身体強化は使えるんだが。
「君は向かってこないのかい?」
「………」
「おかしいな、ここに来るものならだいたい襲いかかってくるのだが」
とりあえず逆らわずに様子を見る。じーさんにも学ぶためにはとりあえず言う事を聞くように言われている。
「こ、この!いでぇっ!!?」
這いつくばって杖を取り出したガキがいたが杖を取り上げられていた。
「もう一杖持っていたか、まぁ良い。君たちはこの国の中でも群を抜いて悪さをしてきたという報告が入っている。気に入らなければ壊し、気に入らなければ傷つける。………そんな人間を矯正する役目もこの学園にはある。まずは隷属に近い矯正魔法を受けてもらおう」
「ふざけんな平民風情が!!」
「ここで真人間の生き方、人としてのあり方を学ぶが良い。それが出来なければ君たちは国によって殺されるか、よくて奴隷落ちだ」
「そ、そんなっ!?」
―――そうして、俺は教育を受けることが決まった。
まぁ、俺は自分で学がないとわかっている。学ぶものは何でも学んで、借りは返さなきゃならねぇ。
足りてねぇんだからどんな学び方だって良い。
全員杖は取り上げられ、命令に逆らえば殴られる。
「こんなことが許されるわけがない」
「痛い!やめろよお前!!」
「母上!母上ー!!」
「ぶっころしてやあがっ?!」
命令を聞いて学ぶ。貴族は王を敬い、部下に舐められないようにし、平民を玩具にしない。
平民など貴族の玩具だろうと本気で驚くガキも居るが、平民の作り出すもので貴族は生きる。
「命令して作らせればいいだろうが!」
「その態度だからここでこんな教育を受けていると気がついたほうが良い……そうだな、パキス君、君ならどうする?」
「………奪えばいいじゃねーか」
「そうかい、でもそれを続けているといつかもっと強い人間にやられてそこでおしまいだ」
部屋から出られず教育を受ける。貴族のガキ共とは拳で殴り合っててっぺんをとった。
こいつらは殴り合いに慣れてない。杖無しで勝手に使える身体強化魔法も使えないようだ。全員が全員「俺に従え」なんて言うクズばかり、なんか見てると嫌になる。
大人しくしてるつもりだったのにな、まぁ黙らせてからは静かなもんだ。
――――孤児と同じ服を着て。学校で掃除なんかをしながら学んでいく。飯をまずいまずいと喚くコイツラはよほど良いもん食ってたのか?俺には上等なように思えるが。
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