第84話 水魔法VS学園騎士団。
「私がフレーミスだ!!罪状は何だ!!言ってみろ!!!」
店を出て強い言葉で迎える。貴族の当主にはこういう時に戦う姿勢が大事だと教わっている。
舌戦という文化らしく、お互いに大声で主張を怒鳴り合ったりする。
「よく現れたな!さっさと杖を捨てて縄につくが良い!!」
「オベイロス王家に認められた伯爵である私が!罪状も述べられずに膝をつくことは断じて無い!!!そこで止まれ!!」
騎士達の前に一際歳をとった騎士の指導役のような人が出てきた。ただ無抵抗に捕まるなんてことはしない。
杖を立てて、床にまっすぐ叩きつける。「交戦も辞さないが話を聞く」その状態に持ち込む。
「ふん!貴様には礼儀作法を教えるギレーネ・バリュデ・エンカテイナー女史に事もあろうに授業拒否のために杖を向けた!賢者であるとされる人間がその魔法力を持って杖を向けるのは殺害の意思があるととれる!!故に貴様を殺人及び脅迫などの重罪犯行として訴えられたのだ!!!」
殺害の意思があるとされるだけでやってもない殺人の罪か……。法の適用は私には理解できないが、酷い言いがかりだ。
大声を上げている騎士に、私を取り囲もうとジリジリ近づいてくる騎士諸君。
もう少し近づいてくれればいいのに……流石に修練場で見せた魔法を警戒してか私の魔法の範囲外で大声を上げてくる。
今の段階でも相手が卑怯であれば魔法を使ってくることもある。貴族同士のやり合いでそういう事例もあるとエール先生には教えてもらった。
だからエール先生がおそらく風を使ってくれているはず。視界の端でクライグくんが店内から石畳に手をついてくれていたから倉庫を作ってくれていたときと同じく私の足元にもなにかしている……だから土や石の攻撃もない。
「私は礼儀作法という曖昧な指導の結果いきなり手を打たれそうになりました!何がどう悪いのか!それに答えずに打とうとするなど教育者としての技能がないにも関わらず人を害しようとするなど意味がわかりません!!杖を向けたのも正当な理由があってのものです!!!しかも彼女は私のことが気に入らないからと私の仲間に理不尽にも棒で打ちました!!!!これになんの正当性があるのか!!!!」
先頭に居る大人の騎士は動じていないがその後ろにいる騎士や騎士見習い達は動揺している。
立てて持っていた杖をはっきりと先頭の男に向ける。
「騎士は権力者を守ることもあるだろう!!!だがその権力者には一欠片も正当性がない!!!私に恥じることがない以上!!私があなた方に膝を折ることも杖を捨てることも決してない!!!!良心のないものだけが向かってくるが良い!!!!!」
「犯罪者が何を言うか!!抵抗の意思あり!!!魔法戦闘開始!!!~~~~~………」
何かを叫んで来ているようだが全く聞こえない。エール先生がなにかしているようだ。
日本にいるときはこんなにも何かを主張することはなかった。主張する必要もなかったし「主張のし過ぎは恥ずかしい」みたいな雰囲気が日本にはあった。
しかし、この国ではそうも行かない。私が膝をついたところで私が悪いことをしたという事実が残るのみ。それは私を信じて支えてくれる人への裏切りとなる。
―――……それよりも、ギレーネへの怒りが湧き上がって仕方ない。
「子供にとって!教師は大きな存在だ!!何が正しいかわからない子に対して教育を掲げて!!!努力しているものに対して出来ないからと傷つけることなど!!!あってはならない!!!!!!」
この考えはこの国においては間違っているかもしれない。
現代日本でも「命の関わるようなことですら厳しくしてはならない」「暴力こそ絶対悪だ」なんて考えの人もいるがそれは間違っていると私は思う。
もしも子供が「どうしても道路に飛び出すような子」だったら……何度言い含めても口で叱っても行動を改めないのなら、動画で危険性を教えて、教師に注意してもらって――――あらゆる手を尽くしてもそれでも治らないというのならげんこつなりしての躾は必要かもしれない。
実際、子供の時分にはなにか「自分のこだわりを持つ子供」というのはいるものだ。同級生に「大人の言うこと聞かない自分かっこいい」という子がいた。……その子は「やってはいけないことをするからこそかっこいい」と最終的に走ってる車に向かってチキンレースのようにぶつかりにいって……想定通りぶつかってしまった。彼は当時を振り返ってなんて馬鹿なことをしたんだと怪我をして学んだようだった。
必要な躾もあるかもしれない。しかし、本人たちの努力も無視し、教師が教えを放棄し、棒で打とうなど、絶対に許されない所業だ。
「私への不満を!!抵抗できない子供に!!私の仲間に向ける!!!卑怯にして下劣!!!そんな者に加担する貴様らも騎士としての品位を貶めているとはわからないのか!!!!!」
これだけ大声で叫んで時間を稼げばお客さん達は逃げ切れただろう。
心当たりがあるのか、下がる騎士科の学生もいる。騎士科には礼儀作法よりもその能力で騎士になるものもいる。ギレーネの悪行に心当たりがあるのだろうか?
剣や杖、弓矢を向けてくるものがいる。ただ向けてくるだけで動こうとはしていない。
事後処理において「どちらが先に手を出したか」という点は取り沙汰されることもある。しかし、皆の前にいる私は、私自身を守ることは出来ても後ろのお店や子供を守ることは出来ない。
――――だから、まずは騎士達の無力化だ。子供も居るが……明らかな本職の騎士から潰す。
一般的に水の魔法は弱い。射程が数メートルと短いし、液体ゆえに殺傷力も乏しい。
桁外れに強いと言われる私でも杖を使ってやっと射程は目測で15メートルほど、横並びに6軒ある店舗に突入しようとする騎士全員を同時に倒すことは出来ない。
だが、私の身柄が最優先のようだし、やりようはある。
バリアを展開、そこから水の腕を生やして……腕を使って私の体ごと突っ込む。
射程距離が短いのなら、その射程距離まで近づけば良い………!
待ち構えている中央に真っ直ぐではなく、水の腕を使ってジグザグに跳躍。すぐに魔法が放たれてくるが当たっても魔力を注いだバリアに大きなダメージはない。
騎士は何かを叫んでいるようだが武器を抜いた以上、聞こえないし止まらない。
騎士達の中央に入り込んで水の腕を使って騎士を掴んで振り回す。
制御は効かないが頭の高さに放水を数本放つ。詠唱なしで戦えるものもいるかもしれないが当たれば大の大人でも吹っ飛ぶ威力がある。呼吸器官に水が入れば詠唱は中断されるだろう。
騎士を複数の水の腕で掴んで玩具のように振り回し、何十人か騎士の中央部隊を倒した。しかし、散らばった騎士を完全に無力化までは出来ていない。
敵も魔法を使ってきているし、5層のバリアの2層まで貫通することもある。風や火、そんな魔法を使うものだから同士討ちも起こっていて、きっとそのほうが大怪我をしているだろうな。
めちゃくちゃ怖いが、水の操作で矢も剣も、人も……バリアと腕で巻き込んで地面に叩き伏せる。放水も狙いは雑かもしれないが遠い敵に向けて当てていく。
杖を使うと操作はしやすくなるがバリアの維持や水の腕、そして放水を同時に使うのに精一杯だ。しかし、質量のある放水は無視できないみたいで相手も警戒してかこちらへの魔法が減った。
「 !! ?!!」
「 !!??? ! 」
「 !!」
「 ! ?!」
なにか言っているが聞こえない。
武器を捨てるものは攻撃しないが高速移動して的を絞らせず、敵の魔法を躱してこのまま――――あぶないっ!!?
大きく岩の弾丸を回避、火や風は広範囲に攻撃してきても意味はないし、貫通力の有りそうな魔法でもバリアの2層までしか届かなかった。しかし岩の弾丸は質量もあるし、逸らすことも困難だった。
岩の弾丸に4層まで削られたが、こちらが動いてなんとか避けることが出来た。弾けるように路地に逃げ……追ってくる騎士共を上から水で沈める。
この国の建築物は基本石や岩のような魔法で出来ている。そして窓に使うガラスは高価だからか路地には窓がないことも多い。この路地にはそういう出口もないし、追ってくる騎士ごと一気に水で路地ごと覆い尽くした。
「 ?! !?」
「 !!!??」
「 !! ?! !」
水流の操作で息もできないだろう。重い甲冑で水中を藻掻いているが武器を持って襲いかかってくる以上、仕方ない。
水流で洗濯機のように振り回しつつ、建物の上に移動する。
上から見渡すとうちの人間も戦っていた。
一度倒した人の中にもそれでも抵抗しようとする人はいて、ミリーやダーマ、それに薬師達が取り押さえていた。
ミリーは凄いな。振り下ろされる剣を片手で掴んで、鎧を大きく凹ませるほどにぶん殴ったぞ?!
40人ほどいた騎士達は全員無力化した。何人か腕や足を折ったりしてしまったがそちらの魔法が直撃していたら私だって大怪我していたのだから許してほしい。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
路地裏の溺れさせた騎士達もちゃんと治療した。口から水を抜き取り、薬師が処置した。めちゃくちゃ臭い薬使ってる……。
「勝利は勝利なんだけど…………どうなるかなぁ」
そもそも主導したっぽいギレーネがいない。学園長とやらが命令したのだとすればここに居ること自体が危険かもしれない。
騎士は概ね正義の団体だがそれはまず権力者を優先して守るような組織であって、市民を守る正義の団体ではない。市民の正義も教訓にはあるがまず第一に上官の命令優先となる。
この学園は騎士志望を育成する機関でもある。たった40人しかいないわけがない……このあとも増援が来る可能性だってあるのだ。
とりあえずこちらに怪我人がいないかの確認と事実関係の確認だ。
薬師の方々が何やらどう見ても拷問器具のようなものや針、それと薬を持ってきているけど拷問は止めるべきだろうか?
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