第45話 ルカリム家のご令嬢。
あれだけ大きな声で話していた貴族たちが静かになった。きっと私達の様子をうかがっているのだ。
出てきたのは二人、ルカリムを名乗るご令嬢とその後ろに男の人が一人。
年齢は私の倍ほどか?10から12に見える。……この年頃は成長に差があるから8から15ぐらいに考えておこう。なにせ日本じゃないから人種の差もあるかも知れない。
ドレスもアクセサリーも、日本ではど派手なものなのに自然に着こなしていて……何より所作が堂に入っている。これが本物の御令嬢か。
「………」
「………」
お互い無言で向い合う。
私としては不思議な気持ちでこの人を見ているがこの人が何を考えているのかわからない。本家本元のルカリム家は派閥とは敵対していると聞くけど……エコストラ・ローズ・ルカリムさん?がまさか話しかけてくるなんて思いもしなかった。
背が違いすぎて首が痛い。
「貴女はルカリムを名乗りましたが何か証拠はあるのでしょうか?」
「証拠……私はフリムと名乗っていましたがシャルル様に出自を聞かされました」
「本当にルカリムであれば何か渡されませんでしたか?その歳であれば証の1つや2つは身につけられて然るべきですが」
「幼き頃に路地裏に倒れていたそうです。そういった証は持ち合わせておりません」
このあたりは正直に答えても良いように言われているが明らかに周りから怪訝な表情にしている人がいる。
これはもしかしてこの子に詐欺師扱いされている?王位継承権の争いで家は減ったと聞いているしルカリムの人間が知らないルカリムの人間なんてどう考えても眉唾ものだ。
彼女は少し悲しそうな目で私を見てきた。幼女が路地に転がっていたなんて凄惨な事件だろう。もしくは政敵として私を担ぎ上げられただけの可哀想なスケープゴートにでも見えているのかな。
「では、本当に何の証も持たぬということですか?」
「―――そうだ。フリムは何も持たぬ」
ズザザと音を立てて私とルカリムの人達に王様、それと王様付きの人以外が皆、膝をついていく。
王様が助け舟に来たようだ。
「王位継承の騒乱で市井に落ちた一人だ。しかし俺が証明することが出来る」
「シャルトル王、発言してもよろしくて?」
「許す」
彼女は会話の中心だったからか膝はつかずに深めの目礼をしていたがピンと背を伸ばして王様と向き合った。
私は突っ立ったまま流れを見守る。虫の構えになるべきか迷ったが堂々としておこう。
「彼女がルカリムであるのならこれはルカリム家の問題であります。王といえども家門のことに口を挟むのはいかがなものかと」
「いくらルカリム家のものであろうと無礼であろう!」
王様の横にいた騎士の一人が厳しい口調で一歩詰め寄った。
しかし彼女は顔色一つ変えず、その護衛のことを見ることもなく王と向かい続けている。
彼女の後ろの護衛らしき男性は何も言わずにほんの半歩だけ前に出た。
「よい、確かにそれは貴族として一族の者としては当然であろう。……しかし、そうだな。ルカリム家が取りこぼした一人がたまたま俺の元に来て、それが俺にしか分からぬというのだから貴殿らの心配はよく分かる」
「――――どのように証を立てるというのですか?」
「こうする。<ルーラ、俺とお前が加護を与えたものに闇の衣を着せろ>」
小さな黒い髪の女の子が王様の横に現れ、私の周りをくるくると回った。
ふと下を見ると首から下を真っ黒なモヤモヤに包まれていた。これ汚れたりする?汚れとれる?
焦る私にルーラと呼ばれた私よりも小さな女性が私の顔を覗き込むように見てきて―――空気に溶けて消えた。
「俺の最も信頼する側近であった水の名家のオルダース・タナナ・ルカリムとフラーナ・レームは良い関係だったようだな。俺とフラーナが毒で倒れた後、腹の子のためにと王家の加護を求められた」
もはやこの会場で音を立てるものはいない。話題のフリムちゃんのことを知りたくて仕方ないのだろう。
打ち合わせではこの後に褒美を貰う前に出自とかを話すつもりだったはずだが、このまま行くつもりかな?
王様に視線を向けるとニコリと笑いかけてくる王様。
「諸兄の知る通り、闇の加護は他の属性と違って何が起こるかわからん。俺とルーラ両方の加護を試すこととなった」
手を広げてぐるりと貴族たちに聞こえるように話す王様。
「生まれるかも分からぬ状態だったそうだが生きて欲しいとな。親の愛というやつだろう………知ってのとおりその後二人は死んだ。俺もまさか子を残せていたとは思っても見なかったぞ」
私の安全のために話してくれている陛下だが少し苦しそうだ。
パパ上とママ上とは仕事以上に仲が良かったりしたのかな?
「っ!!?―――し、しかし、精霊様と陛下の加護であれば暗殺者騒動から数日の間にでも行えたでしょう?ルカリム家のものという証とはなりません」
……あ、たしかに!?
胎児の状態で行われたのかつい先日行われたのか。その部分を証明することは出来ない。
「そういう考え方もあるか。しかしフリムの力はあまりにも特異。詳しい歳は分からぬが5つか6つのフリムはあろうことか『纏わりつく炎鞭』『這い寄る闇影』『風舞』『剛剣』を含む六人をたった一人で打ち倒した。それも俺を守りながらでなぞ――――どう考えても普通ではありえない」
側にまで寄ってきた王様が私の頭を撫でた。
成人女性の私としては微妙な気もするがこれぐらいの子がいたら頭撫でたくなる人は多いよね。分かるよ……だけど髪の毛整えてもらってるのにグシャグチャしないで。
「しかも『爆炎』などという二つ名がついたように水属性で火を使うなどというとんでもないことをした。これはルーラの加護かもしれんな」
おぉ、まともな二つ名で紹介してくれた。
エールさんにもらってた報告書では毎日色々増えてたもんね。マヨネーズのフリムとか派生しててマヨネーズ肉のフリムとか意味が分からなかった。特にトイレの精霊フリムについては論外だったのでまだマシな紹介が助かる。
もやもやと私の体にまとわりついていた闇が消え、王様と私が向かい合う。
「―――良くぞ生きていたな。それに卑劣な暗殺者共からこの身を守ってくれたこと、感謝する」
私の前に膝を折って、視線を合わせて今度はそっと撫でてきた。
「これをもってフリムがルカリムである証とする!フレーミス・タナナ・レーム・ルカリムにシャルトル・ヴァイノア・リアー・ルーナ・オベイロスが伯爵位及び褒美を授ける!!」
僅かにざわつく会場、すぐに立ち上がった王様が宣言した。
――――私はより厳しい道を進むことになるだろう。だがこれで絶対的に何も出来ずに殺されるようなことはなくなる。……そう、信じたいな。
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