第44話 王宮への呼び出し。


なんとか火事を止めることは出来たがやらかしてしまった。せっかく私がいない間に更にしっかり作り込まれていた洗濯設備なのに一部使えなくなってしまって申し訳ない。


それと赤い鎧の騎士団がドドドとやってきたがフォーブリン様によってなんとかなったが……なぜかそのまま居座られて部屋を出られなかった。


反社会団体っぽい賭場にお国の騎士様がいるというのはなんだか微妙な気分だったが仕方ない。深夜にトイレに行こうとしたらドアの横にいたのはビビった……ついてこないで。


昼になってマーキアーさんには駄目になった設備のことを謝った。すぐに謝罪は受け入れてもらえたが干されたシーツの前で謝ってるとなんか寝小便したような気がしてなんか恥ずかしい。



「俺は俺の目的のためにもお前を支援するが……俺に礼儀作法を求めるなよ?」


「もちろんです、親分さん!」


「……これからはドゥッガと呼べ。お前は俺の主になるんだからな」


「ドゥッ……無理です。ちょっとずつ直すんでまだ許してください親分さん」



言ったら殴られないか?というか歳上の人を名前で呼び捨てって難しい。



「俺も少しずつ言葉は直すが礼儀作法はだいっきらいだったからなぁ……この歳で礼儀作法を学び直すことになるとはな」


「礼儀作法ってどんな事するんですか?」


「俺もバーサーもフォーブも揃って逃げてた」


「なるほど」



親分さんは私を支援することが決まった。


前よりも親分さんとの距離が縮まった気がする。


フォーブリン様のことを知りたかったので聞いてみると教えてくれた。2歳上のフォーブリン様は隣の屋敷に住んでいた。子供の頃からやんちゃだった3人は一緒に礼儀作法を学ぶことになったがフォーブリン様に倣って授業放棄して下町で遊び回っていたのだとか。駄目な兄貴分である。



私と親分さんが仲良く話しているだけでも賭場の他の部下はぎょっとしているのにドゥッガと呼ぶと他の部下さん達は目玉が飛び出るほどに驚いている。



エールさんが来て数日後の式典に向けて段取りを教えてくれた。マナーを教わったりもするが宇宙の言語を聞いているようで全く頭に入らない。


膝やお尻の角度に目を伏せるタイミングとか……ちょっと何言ってるかわかんないです。途中の待機では23歩の距離で待つとか………大人と子供じゃ歩幅が違いません?


マナーを学んで数日後に一国の最高機関の式典を完璧にこなすことなんて出来るわけがない。付け焼き刃にしかならないし今のうちに色々とお話を考えておく。



私は日本で生きていた頃の記憶からいきなりフリムと一体化したがフリム自身の過去はあまり覚えてはいない。確かにキラキラした屋敷にいたような気もするがそれよりも路地裏生活の方が鮮明に覚えている。


幽霊的な私が人格の殆どをしめているなんて言えない。言えば悪魔祓いとかで殺されかねない。………ただ、私は自分が子供の体になったからか、子供の感情に大人の理性が一体化して振り回されているような気がする。自分でも自分の行動を振り返るとあれ?っておかしく思うこともある。


ちゃんと言えない話は隠してこの国の人も納得するカバーストーリーを構築しておかねばならない。


なにかの事故で倒れた私はそれ以前のことを殆ど覚えておらず、親分さんに拾われて養育される。青い髪を見れば水の力が強いことがあることはわかっていたからこの理由はおかしなものではないだろう………まぁそれだけなんだけど親分さんにポイって追い出される可能性もあったから「後援が決まった」という報告をエールさん経由で王様に伝えて貰う必要もある。王様との共通認識の確認のようなものだ。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「良く来た!フレーミス・タナナ・レーム・ルカリム!!」


「いつものようにフリムとお呼びください」


「そうだな。俺のこともシャルルと呼ぶと良い」



王様のもとに呼び出されて暗殺者撃退の褒美を受け取ることになった。


ざわつく貴族の皆様。私が直答するなんて思っても見なかったはずだ。



「ルカリム?ルカリム家にあんな年頃の令嬢がいたか?」

「無礼な」

「いや、タナナにレームとはシャルトル王のかつての側近ではなかったか?」

「そんなまさか……」

「また名を騙るものではないか?」



それと予想以上に名前に反応している。


掃除の時は一度も来たことがなかった。高い天井に高級そうな玉座。高そうな服を着た貴族たちにカラフルな鎧の騎士達。


私一人のためにこれだけの人が立ち並んでいると申し訳ない気持ちと……やはり緊張する。



「無礼ではないか!これだから野の魔法使いは嫌なのだ!!」



早速私の礼儀を注意された。神経質そうな人だ。


直答は王様に許されるまで頭を伏せて待つというのは知っていた。



「無礼なのは貴様だ。それに今日は俺の命を救ってくれたフリムに褒美をやるために呼んだのだ………俺に恥をかかせる気か?」


「ぜ、絶世の美女と呼ばれたフリム!!?まさかこんな子供が?!」


「俺が小さなフリムを子犬のように可愛いと言ったのがおかしく伝わったのだろうな……まぁ良い。下がれ」


「……はっ」



すぐに神経質そうな貴族さんは貴族たちが立ち並ぶ列に戻った。


これは仕込みだ。誰かが無作為に文句を言えば何が起こるかわからないしコントロールが効かないからと打ち合わせどおりの注意。


それにしても絶世の美女?フリムちゃんは顔立ちは可愛いと思うが美女と言うには若すぎるだろう。



「すまんなフリムよ。俺は褒美をやるために呼んだというのに気分を害したか?」


「いえ、私は魔法の研鑽ばかりで礼儀作法を知りませんので」


「うむ。俺はフリムの全ての無礼を許そう。お前がいなければ俺の命はなかったからな。それでお前が連れてきたそちらの男は何だ?」



これで王様への無礼講が許された。まともな礼儀作法をマスターしようとすれば何年かかるって話だしね。それにこの国では礼儀作法が出来ていたほうがもちろん良いがそれよりも魔法の強さが貴族としては大切なようだ。


フォーブリン様とかバーサル様も喋り方が偶に荒くて私の思う「貴族」っていうよりも「裏社会の荒くれ者」の方が近い時があるしね。


貴族たちの目が親分さんに向けられる。いつもの「平民にしてはちょっといい服」ではなく何やら「商人に見えなくもないような高そうな服」を着ている。でもやっぱり顔とか傷ついてるしマフィアっぽいな。



「私を養育していたドゥッガ様です」


「何処のものだ?」


「調べはついております」



王様の横にいた人にドゥッガ様について読み上げられる。ドゥラッゲン家の人間であったこと、双子故に家を追い出されて商人として身を立てたこと、土の魔法が使えない云々は言わないのね。


バーサル様は土の魔法を使えるが親分さんは使えない。それは分家ではあるが土の名家のドゥラッゲン家でも後継者問題に大きく関係する。


兄弟や姉妹で追い出されるということはあるようで少し貴族たちの目がゆるくなった気がする。顔に傷もあるから苦労が見えたのかも知れない。



「うむ、良く来た。褒美は宴の後にとらせよう!楽しんでいくと良い!!」




―――――……ここまでは予定通りだったが問題はここからだ。



今までのは玄関先での挨拶のようなものでこれから宴があって、その後に褒美がもらえる。


エールさんが横についてくれているが予想どおりに予想以上に話しかけられることになった。


「×××・×××・×××××です!この度は陛下を―――」

「いや、良くやった!その歳で良く研鑽したものだ。おっと挨拶が遅れたな××・×××××――――」

「わたくし、×××公爵の××××××――――」

「××××××××・×××子爵です。お見知りおきを、小さな姫君」

「××××・××××××・××である!良ければうちの子息の×××××××××・×××××・××の嫁に――――」「××××××××××××」



名前が、長いっ!!!??私営業じゃなくて研究職で名前覚えるの苦手なんだけど?!田中とか佐藤とか鈴木とかわかりやすいのにしてくれ!!


名前が全然覚えられずに耳から耳に抜けていく。いや目の前で名乗られても何言ってるかわからない。婿の紹介とかすんなし。



「フレーミス・タナナ・レーム・ルカリムです。水の魔法が得意です」



表向きニッコリと、笑顔のために顔の筋肉を使って挨拶だけはしていく。長い名前もなんとか覚えた。


水の魔法を使えるものは重宝されるそうだし平民の商人が主なら問題ないとでも思っているのか勧誘もしてくる。親分さんの前で堂々と。


今日はそういう場ではないし、控えるようにエールさんが言ってくれているが流石に挨拶は止められない。



「ふん。ルカリム家といえばライアーム家を支持しているではないか」

「一体王は何を考えているのやら」

「やはり騙されているのではないか?」

「貴殿はあの力を感じぬのか……」

「竜だ何だの言われていたがまだ幼い少女」

「マヨニーズの神と聞いたことがあるぞ」

「しかしタナナとレームとはな」

「いやいや水の名家は仲が良かったし王が立つ前にそういう護衛がいたはずだ」

「なら、いやしかし………」



辺りの視線もキツイ。


そろそろなにか食べて褒美を受け取るようにとエールさんが美味しそうな料理を取ってきてくれた。


……この貴族の中には私を殺そうとしてくる人もいるかも知れない。


暗殺者がいっぱいいたのは誰かの手引があったはずだし、その前の不審者達もそうだ。流石に緊張して味もしないがそれでも食べたというポーズのために胃に詰め込む。


挨拶合戦は嫌な思いだったがいきなり攻撃されたりするようなこともなく、なんとか宴は終えられそうだ。後は王様に……。


ざわりと人が割れて誰かが来た。



「ご挨拶してもよろしいでしょうか?わたくし、エルストラ・コーズ・ルカリムと申します」


「フレーミス・タナナ・レーム・ルカリムです」



――――私と同じく青い髪の少女がやってきた。

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