第46話 フリムちゃん伯爵の酷い陣営。
なんとか褒美の目録とか爵位をもらって、王様と宰相閣下の筋書き通りに事は運んだ。
それにしてもあのルカリムの少女はいつの間にかいなくなっていたが何がしたかったのだろうか?
エールさんによると彼女はライアーム派閥である実家と行動をともにしているわけではなく、学業に専念するべく王都にいる。だからそのまま名代として式典に参加したりもしているそうな。人質としての側面もあるのかな?
彼女は貴族が立ち並ぶ公衆の面前で私に向かって「本当にルカリムの人間か?」と確認してきた。糾弾のような意味とも考えられたが、彼女の表情からは恨みや蔑み、敵意が見られなかった。
――――……もしかしたら私はあの人と面識があったりしたのかな?親分さんに拾われたのが去年らしいし、生まれてからそれまでの空白の期間にルカリムの人間なら私を見たり話したことがあるのかも知れない。
「おめでとうございます。フリム伯爵」
「ありがとうドゥッガ、貴方のおかげです」
いきなり伯爵とかやばすぎだと思ったが本家ルカリム家は上級侯爵だし子爵では人を集める旗頭にはなれないという政治的な観点からであった。
王宮に部屋をもらってから「貴方様の派閥に」とか「ぜひ家臣に!」とか挨拶を超えて恭順を示す人が後を絶たず、王様たちの想定していた通りに人は集まってきた。良きにせよ悪きにせよ………。
陣営に人が集まるのはいい。彼らも「もう戦争を起こしたくはない」という考えの人や「他国からの侵略があるというのに国内で戦っては意味がない」など……いろんな思惑がある。「有能だけど派閥的に微妙な人」とかうちに来て「将来の出世を見越して」などと集まってきているのは大変によろしい。
そもそもどう見ても王様か宰相の計略であるというのは貴族たちにはわかっているし、この国において水の魔法を使えるというのは貴族にとって重要な役割もあってコネクションを作りたいのだと感じる。
新たな水の名家候補となれば無視することは出来ない。今コネクションを作っておけば毒殺の可能性を減らせる水魔法使いを今後派遣されやすくなるかも知れないのだから。
ただ、表向きは忠誠を誓うと申し出てきてくれた人でも裏では敵と繋がっているという可能性はあるし、確実にそういう人もいるはず。推定5歳のフリムちゃんなど操ってみせるわガハハというクソ貴族も絶対いる。
親分さんもドゥッガ・ドラッゲン男爵として貴族入りして大忙しだ。うちに来た貴族のまとめ役として走り回っている。
国からキエット・マークデンバイヤーというおじいちゃんとバグバル・ マークデンバイヤーというお孫さんが紹介された。
キエットおじいちゃんは水の名家だったレーム家の家宰をしていた人でバグバルさんは王様のもとで文官をしていた経歴がある。
「おぉ、二人の面影がありますな……ほんの………ほんに………よくぞ生きていてくださった。この歳になると涙もろくなっていけませんな」
「じーさんこれ使うと良い」
腰が90度曲がったおじいさんにハンカチを差し出したお孫さん。仲は良さそうだ。
「うむ。フレーミス様、この老骨使っていただけませんかな?もう長くないとは言え、多少は役に立つでしょう」
「俺も、いきなりじーさんが倒れたら迷惑をかけるし手伝う。俺は話すの苦手だけど役には立てるはず」
「ぜひよろしくお願いします」
キエットおじいちゃんは総白髪で見た目110歳とかありそう。両親と面識があったらしい。バグバルさんは18歳ぐらいだろうか?おじいちゃんが倒れないように立ち位置を少しずつ調整している。
二人はレームとタナナ、そしてルカリムと縁が近かった人達を王都から集めてきた。
戦闘能力よわよわな水の名家は他の属性の名家と違って仲が悪いということもないそうだ。大家にもなれる格のあった名家の生き残りは三家ともルカリム家が吸収、ルカリム家が水の代表としてとりまとめているが……王位を諦めていないライアーム派閥についているしそちらにはついていけないと考えている人は多くいる。
王都以外にいる3家の関係者には通達が行くだろうしこれからうちの陣営の人はまだまだ増えるだろう……実家の当主さん怒ってるかなぁ。
ずっと私と一緒にいたということになっている親分さんが筆頭家臣だが新ルカリム家には新たに来た貴族たちの力は欠かせない。だが流石の親分さんでも結構苦労しているようだ。親分さんも「貴族の部下」の動かし方は初めてだしね……それでも潤沢な資金や下働きはほぼドゥッガ一家から出ているから間違いなく一番役に立っているのは親分さんだ。
親分さんには息子が7人いるらしいが2人を残して使えないと嘆いている。彼ら息子たちは基本放任主義で荒くれ者ばかりだ。誰にでもキレ散らかしそうな元上司ことパキスくんは勿論戦力外。まだちょっとだけ礼儀を知るミュードさんは後ろで雑用、とてもこき使われている。もう一人使えそうなお兄さんがいるらしいけど商人として王都にいないそうな。
貴族も素直に命令を聞く人だけではない。出自の怪しい私や親分さんを疎ましく思っている人もいる。少し調べれば親分さんが裏社会の人間だということは知られているし……やはり私達は貴族の血統であっても「一度野に放たれた野蛮人」で「成り上がり者」と言った評価をしている人もいるのか彼ら貴族の価値観では面白くないようだ。
王様は行儀指導としてエールさんをつけてくれたのと、ヒョーカ・カジャールという騎士も紹介してくれた。
「よろしくお願いします」
「……………」
「ヒョーカ・カジャール、挨拶なさい」
「……………はい?…はい……どうも」
エールさんは相変わらず美人さんだが騎士さんは初めて見る人だ。髪は真っ白な長髪で細身、ひげは生えていないが顔つきは男、年頃は20代なかばだろうか?何処を見てるかわからないしぼーっとしている。
挨拶したのだけどヒョーカさんは横をボーッと見ていて、注意されてやっと返事をした。
「こう見えて能力はあるんです。能力は……」
資料によると氷属性の騎士であり、戦闘力もしっかりしているのだが浮世離れしたような部分があるそうだ。上司との折り合いが悪くてここに派遣されて来たそうな……上司から「暑いから涼しくしろ」って言われて部屋ごと氷漬けにしたなどの記載されている。
王宮では王の視線が気になる人が来にくいだろうし、褒美で頂いたお屋敷を使うことが決まった。
「ドゥッガ」
「はい」
「案内、ヨろしくお願いしますネ」
「わかりました」
親分さんを信頼しているというアピールのためにも新しく来た人の前で親分さんに声をかける。まだ私も親分さんも何処かぎこちないがそれは仕方ないだろう。強面のマフィアのボスに命令するとか多分一生ないと思ってたんだけどな。
与えられたいくつかのお屋敷は何処も訳ありである。内戦状態となった際に全財産没収されたり骨肉の争いがあったとかで王都では屋敷が余っているようだ。
今しなければいけない第一目標は与えられたお屋敷の何処かでお披露目パーティを開くことなのだが――――……まずはチェックと掃除である。
お屋敷に住んだらその途端に暗殺者集団が出てくるなんてなれば目も当てられない。人を送り込んで徹底的に調査してもらう。いくつかのグループに分けてダブルチェック・トリプルチェックしていけば見逃しは減るし、働くうちに働く仲間がどんな人間かを見ることも出来る。
親分さんは貴族の様子を人を使って監視しているし、指示に物凄く忙しそうにしている。
掃除と暗殺者撃退によって王様と貴族からの贈り物はもらっていたが……爵位を貰ってからの貴族の贈り物は桁が違う。魔導具や立派な馬や奴隷も含まれていて……ローガンさんとオルミュロイとマーキアーにも来てもらった。
ローガンさんは奴隷の管理。オルミュロイは馬や馬車の管理。マーキアーは私の側仕えである。
タラリネは服飾・洗濯部門の総括部長に昇格。事業の流れは把握しているしオルミュロイと引き離したくなかったからすぐにでも来てもらいたいが流石に全員引き抜くと服飾事業が大打撃となってしまう。
魔法で縛られた奴隷は基本的に裏切ることがないし、貴族にとって奴隷は便利な道具。好意から来る贈り物だとはわかっていてもやっぱりどこかやるせないな。
本当ならマーキアーたちも奴隷から解放してあげたいが……。
「あたしみたいなのにこんないい仕事させてもらって良いのかい?こんな立派な獲物まで持たせちまって」
立派な鎧や立派な剣を渡すとマーキアーさんは少し目を輝かせて喜んでくれた。
「マーキアーさんを私は信頼しています。私を助けてくれますか?」
「勿論さ!」
戦闘ができる女性というのは珍しいし、姉御肌なこの人を私は気に入っている。
周りの空気を読むことが出来るフリムちゃんはマーキアーさんが私を気にかけてくれていると知っている。危なさそうな街の移動も私を守れる位置を歩いてくれたし、洗濯の作業で私が危ないかもしれないという過酸化水素を使おうとしたときも普通の水を汲んでくれて実験用の桶からすぐに引き離せるような位置で見守ってくれていた。
まだ私の陣営は危ういが――――……協力してくれる人がいるというのは心強い。
「私水入れてきますね!」
「一人でいこうとするんじゃないよ」
チェックの終わったお屋敷、まだここに住むと決まった訳では無いが働いている人もいるし……まずは水を入れよう。
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