第39話 賢者で妖精でドラゴンで神なフリムちゃん。


エールさんの献身的な介護生活は続いた。


濃縮青汁のような青臭さの薬液の付いた包帯を嫌な顔ひとつせずに取り替えてくれるしお風呂にも入れてくれる。料理も食べれると言っているのに切り分けて一口ずつ運んでくれる。飲水だけは私が出すが何故か喜ばれる。


エールさんはずっとつきっきりでいてくれて、なんなら初日は添い寝までしてくれた。構いたくて仕方ないというか母性本能が全開となっているのが見て取れる。


欲しいと言えば何でも手に入るし私の荷物も発掘してくれた。崩れ落ちた小屋から錆びきったドゥラッゲン家の短刀に金貨袋、折れた闇属性の杖、防護服、城でもらった贈り物。コップや贈り物はいくつか無くなっていたがとにかく報酬の金貨が袋に入っていてよかった。


素晴らしい対応だ。だが、問題もある。


この国基準でだが貴族の使うおまる……。まさかメイドさんたちに見守られながらするなんていう成人女性にあるまじき事態となるなんて夢にも思わなかった。最悪だ。


いや、うん。重病人がそういうことになるのは現代でもあるあるかもしれない。



だけど恥ずかしすぎるだろォォオオオ!!!??



日に一度は光の魔法を使える人が来て、治癒魔法を使ってくれる。



「<神聖にして優美なる光よ。かの者にやすらぎの光を>」



ぜんっぜんきかない。意味不明なぐらい効くお薬と違って全然である。王宮魔法医師様は首をひねっている。光の精霊の力は純粋で誰が相手でも治癒力を向上させるなどの効果があるようだが私にはあまり効かない。あの王様が王様自身の加護魔法と闇の精霊に頼んだ加護魔法を以前に二重にかけているから光の魔法を受け付けにくいのではないかなんて言う結論が出た。



なにそれと思ったが私が産まれる前に私は実験体となったようだ。



「すまんな。もしかしたら変なものが見えたり聞こえたりするかも知れないが……そうだな、自分が他の人と明らかに違うってことはあるか?」


「水魔法が凄い使えます」


「それは知ってる」



そんな介護生活だが王様も偶にお見舞いに来てくれる。


見に来て………なんかお菓子や果物を置いていく、親分さんと一緒だな。


闇というと夜とか影とかかな?魔導書によれば深淵とか悪魔とか死まで連想させるものだが王様いわく闇の加護は「謎の力」という位置づけらしい。


この国の王様は精霊と人を結ぶ契約魔法が使えるたった一人の人物であるがまず本人が様々な魔法が使えるようになる。面倒を見てくれているエールさんによると歴代の王様には体が火の巨人になった王様もいたりもしたそうだ。


精霊様との魔法は効果が様々で使い手側も困る。契約とやらをしているのだから教えてもらえと思うのだが精霊は基本的に話すことができない。通じ合うものであって言語で語り合えるものはほとんどいない。


王様は精霊と契約したがその中でも何が起きるかわからない不思議な「加護」という魔法がある。基本的に身体に害はなく、むしろ僅かに魔力が上がったり、魔法の操作がしやすくなったり、健康になるものだが……稀におかしな効果を持つものもいる。


火であれば火に近づけばその火力が増大したり、水であれば水が体に張り付いてきたり、風であれば遠くまで覗き見ることができるようになったり、土であれば足の裏から小石が出るようになったものもいるのだとか。最後痛そうだな。



「エール先生、火は良いことじゃないですか?」


「資料によるとお屋敷が燃えて火に近づけなくなったそうです」


「うわぁ」



そして光は浄化や発光、治癒能力の向上などの効果がある。光はすべての原初かつ純粋な力であり、治癒力にも左右するそうだ。


闇は……そもそも闇の精霊が契約することは稀で資料が少ない。寝ると全く違う場所にいたり死者の姿を見るようになったりした事例があるのだとか。



「その加護っていうのはどんな効果なんですか?」


「人によって違うが……人や獣の霊が寄り添ってくれたり助言をくれるそうだ」



死者、死者か……。


もしかしたら現代で死んだ私がいつの間にかフリムちゃんと一体になったのはそういうことなのかも知れないな。


詳しく聞くと闇の加護の効果は守護霊のようなものをつける魔法っぽい。王様の実験によると死んだものの霊が助言をくれるが幽霊が怖い実験対象者は護衛をやめて逃げ帰ったとかでもう使っていないようだ。


大分治ってきて……考えることが増えた。



褒美をもらうことは決定しているがその後が問題なのだ。


ドゥッガ一味に戻るか、ルカリム家に帰るか、それともこの三人の誰かに保護してもらうか、はたまた旅にでも出るか。


この四択、一番マシなのはドゥッガ一味に戻ることのように思う。が、私が邪魔をしてしまった人によってプロの魔法使いが襲いかかってきたら賭場の人はもちろん私も危ない。


暗殺の邪魔を思いっきりしてしまったし暗殺者を送ったと思われる前王兄殿下を支援している実家(仮)からすると私の存在は危険視される。多分事故死か毒殺待ったなし。


三人の誰かに保護……毒殺防護壁はいやー!!?っていうかこの王宮の中でも戦争みたいになってたらしいし保護されても命の保証がない!!


この国荒れまくってるし旅に出る……だめだな。数年前の王位継承で外国が攻め込もうとしたみたいだし、そもそもこの国よりも環境が良いという保証はない。


思いついた最後の選択肢。私フリムちゃん、下町でお掃除の仕事するの!……………………………………死ぬわ。政敵の王族と実家とドゥッガ親分さんに殺されるわそんなもん。


ドゥッガ一味からしたら私は既にファミリーの一員だからね。



城の中では私の話で持ちきりである。



暗殺者を見抜いて何十人もこの国の害を排除し、平民の身分にまで落ちたというのに王を恨むこともなく命がけで助け、天才料理人ロライを唸らせる美食を作り、四大属性を扱える賢者。


美しき蒼き髪の少女。名だたる歴戦の勇士達をたった一人で倒した大英雄。


噂が噂を呼んでおじいさんであるとか。掃除の妖精だったとか。筋肉の塊だったとか。精霊王の加護を得たとかマーヨニーズ神だとか竜の化身だとか意味不明な噂が広がっている。マヨの神は絶対ロライ料理長のせいである。



「なんで四属性なんですか?私は水しか使えませんよ?」


「噂は過剰に広まるからな」



更に数日が経って、メイドさんたちからフリム情報が沈静化どころか加速していることを知った。


水はそのままだが火は王様が見た。風は水の卵で吹っ飛んで風の使い手の二属性と思われた。土は石像掃除後に割れや欠けも直ってメチャクチャ綺麗になってたからそう思われたのかもしれない。………バーサル様が直してたな。


他にもど派手な音は雷の属性であったとか、何処かの戦闘の痕跡が氷があった。巨大な火柱を見た。火の精霊王がお怒りだなどと無茶苦茶な噂話がされている。


ちなみに噂では謎の少女は200人近く倒したらしい。私の爆炎魔法で………どうしてこぉなった!?



「二つ名もよりどりみどりだぞ」



爆炎のフリム、清流のフリム、四属性のフリム、錬成のフリム、卵風のフリム、石像のフリム、忠義のフリム、美姫フリム、妖精フリム、賢者フリム、ドラゴンフリム、トイレフリム、マヨネーズ神フリム、破壊神フリム………なんだろう。王宮の人って暇なのかな?トイレフリムってなんだよ。全部嫌だけどトイレだけは絶対に阻止してやる。


王様がその噂のボンキュッボンの女の子の服を公衆の面前ではだけさせてた?……ナイスバデーではないがボロボロだったもんね私の服。



―――――……私はきっともう平穏には生きられないなぁ。小屋の生活が懐かしいよ。



「美味しいお肉ですよー、あーん」


「あーん」



美人なメイドさんたちにキャイキャイお世話されるこの生活も捨てがたいぞ!?

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