第22話 あっさり解放されたフリムちゃんは人気者。


奴隷のみんなは話せない状態であった。


ローガンさんが申し訳無さそうにしていて、何かを命じられたことがわかる。


本人の意志ではないのなら……。



「ローガンさんは私がここを出ようとすれば危害を加えますか?」


「………」



ローガンさんに質問するとオルミュロイが私の前に出た。


固まって動けないタラリネ、気絶したままのマーキアー、私の前に出て私を守ってくれるような素振りをしてくれているオルミュロイ……少なくとも3人には特殊な命令は出ていないようだ。


しかし、ローガンさんは首を横に振るだけである。なにか事情があるのか?


流石に叫んだりして外にいるかも知れないミュードの部下に見つかるのは不味いが………ドアを開けようとしたり窓を開けようとしてもローガンさんは邪魔しなかった。



「えっと、私を殺すためにここに連れてきたんですか?」


「………」



これも違うようだ。ミュードが私を殺したかったのならミュードとローガンさんで一瞬でできたはずだ。


ミュードも少し苦い顔をしていたし……なんだろう、他の兄貴分さんに命令でもされて、私の安全のために匿っている………とかかな?


パキスにも恨まれていたのなら他の人に恨まれていてもおかしくはない。なにせフリムちゃんは親分さんに気に入られてものすごい出世している。


心配だと思いながらもご飯はあるし、緊張感をもちながらマーキアーさんの看病をしていると……半日もすれば解放された。



「悪かったな、ガキどもが」


「すいません」

「………」



「どういうことですか?」



普段部屋からもなかなか出ない、賭場からはほぼ絶対に出ない親分さんが直接来た。


ミュードは殴られたのか頬になにか貼ってあるしパキスはなんか痩せた?


聞いてみるとミュードとパキスは仲がよく、ミュードはパキスの母親であるラキスのことも慕っていた。


ラキスの病は高額な薬があれば治るものだがラキスと親分さんは昔喧嘩したとかで確執があった。ラキスは治療費を出してもらうのも言い出しづらく、親分さんは金は用意していても本人が来るまでは手助けしないようにしていた。


そしてパキスがやらかし、折檻の後……あろうことかパキスは親分さんの金を勝手に使おうとしたが……それは不味い。不味すぎる。部下の手前それは許されない。子供だからって許されることではない。仕置を受けてボロボロのパキスが行動に移そうとしていたところをミュードが知って阻止。


そこでミュードはこれまで貯めていた自分の金と貴族様から私への報酬を合わせて薬代にしてきたそうだ。魔導書は薬代に足りなかった時の保険。


それで、まぁ帰ってこなかった私を……いや私の水を待っていた親分さんがミュードを呼びつけて事が発覚、こんな事になったと………。


組織的に下のものの報酬はちょっとくすねるぐらいは普通にありだが親分さんに忠実な私はきっと全部親分さん渡してしまう。パキスとは揉めていたから素直に言っても金は渡さない可能性があった。


ローガンさんもパキスと私の関係は知っていたためこれ以上こじれる前にここらで和解したほうが良いと考えてミュードに加担したようだ。



「いつ刺されるかわからないのはとても危険ですから」


「それでも言ってほしかったです」


「すいません」



どうやら薬は魔導書を売れるほど高いものではなかったらしくすぐに返って来た。まだ中身を読む前だったからかなり嬉しい。



「ほら、パキスも謝っとけ」


「………」


「元部下だからって刺そうとしたのはいくらなんでもやりすぎだ。フリムの魔法がなきゃラキスさんの薬代は稼げなかったろ?」


「……………悪かったよ」


「もう刺そうとしないでくださいね」


「チッ」



パキスはちゃんと反省しているのかどうかはわからない。


ラキスという母親のことは初耳だし、追い詰められていたとしても私に向かって逆恨みする精神もわからない……。水売りしてる時に100枚以上稼いでいた銅貨を理由をつけて全部持って行っていたけど親分さんのところに私が所属したからそれで稼ぎがなくなって焦ったのかな?いや理不尽。


ただドゥッガ親分は勝手なことをする部下には気絶するまで殴ることはよくあるが今回はなんとも言えない渋い表情である。



「好きなもの買ってやる。それで許せ……何かあるか?」


「じゃあ杖がほしいです!」



一冊目の本に書いてあった杖、魔法使いはみんな持っていて魔法を操作しやすくしたり威力を上げるものである。


少なくとも挿絵に載っていた高名な魔法使いはみんな杖を持っていた。



「杖か、またたっけぇもんをねだりやがる」



値段のことは書いていなかったがもしかして物凄く高価なものだったのだろうか?今からでも謝って取り消すべきかな?



「まぁ良い、それで役に立ちやがれ」


「はいっ」



それと、多分貴族様の報酬以上に親分さんからお金ももらった。


金貨3枚、掃除では貴族様が大盤振る舞いで銀貨が入っていたらしいがきっとそれよりも多い。ラキスさんの薬代に用意していたやつだと思う。



「これまでの働きもあるし、賭場も上々、まぁなんだ?褒美だ」


「ありがとうございますっ!!」



これまで金勘定という性質上、私がお金を持っていたら盗んだとか言われてしまえば証明のしようもなかったし給料はゼロだった。衣食住は無料だから良かったがそれでももらった何枚かの下着や服だけではそろそろ限界だったしこれでなにか服が買える!と内心考えていたのだが、その心配はなかった。



「フリムちゃんこれ上げる!ありがとね!」

「フリムちゃん来たの!!?これ!これ持っていきな!!」

「お姉さん方から預かってきました!」



いつも通りの仕事、金を数えて、親分さん用と賭場と外に売りに出す水を入れて、次は普通の売られていく奴隷の檻を掃除しようとしたら娼館とオークション会場と……この短期間でなんでか既に汚くなってる賭場のトイレの掃除をしていたら従業員や働くお姉さん方から服の生地や小さなドレス、装飾品や化粧品、様々な日用品までもらえるようになった。


娼館もオークション会場も賭場も、良い思いもすれば悪い思いもする場所で……賭けで負ければトイレをわざと汚していくような輩はけっこういるようだ。


それにまともな洗剤無しでの掃除には限界がある。高圧洗浄魔法は一時的なものかも知れないがそれでも汚れが一掃されるのは物凄く喜ばれた。


こっちのトイレは基本ボットン式だし長年使ってるからかトイレは入った瞬間に目にしみるぐらい臭い。普通の清掃直後ですらそれなのだから一度リセットできる魔法はよりありがたいのだと思う。


しかも私の仕事は金勘定と水売りが基本であって掃除は親分さんの命令ではない。だから「またやってほしい」という期待と感謝を込めてかお礼の品々が止まらない。今のうちにできるだけ稼いでおきたいな。


私の頭が入るサイズの胸当てとかどう使えと言うのだろうか………?不用品も混じっているし、そろそろ部屋が埋まりそう……どうにかしないといけないな。



親分さんは杖をくれると言っていたが高価なものだし伝手であるっぽいバーサル様は式典がどうとかで忙しいようで時間がかかりそうだ。


その式典とやらの影響か王都には人も増えて、ドゥッガ一味は大繁盛である。

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