第21話 貴族の仕事終わった!しかし監禁された。


「よくやったな!これは報酬だ!」


「ありがとうございます」



ご機嫌なバーサル様とミュードさんの報酬の受け渡しを眺めている。


あれ?おかしいな?ミュードさんが前に出てうやうやしくバーサル様から小袋を頂いているがそういう役目は自分がすることではないだろうか?


ミュードが親分さんからのお目付け役と考えるなら正しいんだけどさ。



「それとフリム、お前にはこいつもやろう」


「なんでしょうか?」


「水の魔導書だ。倉庫の整理をしてたら写本がでてきたからな、一冊やろう」


「ありがとうございます!!」



親分さんからもらったものとは別の魔導書だ。


これは素直に嬉しいが一度「そんなそんな受け取れません」と謙遜して返したほうが良かったかも知れない。


だが、素直に受け取ったほうが揉めずに済むように思う。



「これで自分を磨くと良い。切れるかどうかはともかく錆びた剣などみっともないからな」


「これからも親分さんや貴族様のお役に立てるように頑張ります!」


「うむ、励めよ」



なにかの表現だろうけど、なんとなく意味はわかる。うむ、お屋敷の外の床や階段、トイレ、そしてメインの像は掃除できたしバーサル様も満足そうだ。


マフィアとズブズブの公務員の兄弟なんてどうかとも思うがこの仕事は私の生存のためにはとても良かったんじゃなかろうか?


貴族様の屋敷を出て賭場に戻るべく移動する。先導するミュード兄貴さんが何を考えているかわからないがおそらく仕事でもらった金は大金だろうし、自分が持っていればそれはそれで精神的に不安だから良い。


大金を落としたりぶちまけたり盗まれたりしてしまったらと考えると……震えそうである。いくら入ってるかはわからないけど。



「フリムちゃん、その魔導書渡してくれるかな?」


「え?はい」


「ごめんねー、これも運が悪かったと思ってくれ。親父には何も言うんじゃないよ?」



やられた。報酬全部奪うつもりだこの兄貴さん!?


ちらりと腰のナイフを見せつけられて―――脅されている。



「私には聞かれれば話すしか出来ませんよ?」


「まぁそうだよね?後で怒られるのはわかってるけど、いうこと聞いてよ」


「ミュードのあんちゃん、これはどういったことで?」



マーキアーが私の前に出てくれた。ローガンさんは異常事態だというのに何故か動かない。兄妹は一歩後ろに下がっている。



「<動かず、口も開くな。これは命令だ>」



全員が動けなくなった。


私は奴隷ではないが、奴隷がビタリと動けなくなった以上――――……もう守ってくれる人はいない。



「<そのままそこの家に入って家から出ることを禁じる。声も出してはならない>」


「っ………!!?」



マーキアーさんは抵抗しようとしているのか首がしまって、そのまま倒れてしまった。



「無駄なことを……。ごめんねフリムちゃん」



路地裏の家、誰の家なのか、入って良いのかは分からないがそのまま押されて入っていく。


マーキアーさんもローガンさんに家の中に担いで入れられ……ドアは閉じられた。


しかも、何か木の音がする。閂か何かをかけられてしまったようだ。


誘拐?誘拐か?!


というかローガンさんが何もミュードさんの行動に対してなにも抵抗せずにいたってことはこの人もしかしてミュードさんの仲間?



ローガンさんとは私の足で一歩の距離。


ローガンさんからすればその剛腕で私を殴り殺せる距離。



「ヒッ!?」



暗い部屋で、何を考えているかわからない。


怖くなって手で頭を覆うようにしてしゃがみ込むと、後ろから覆いかぶさるように抱きしめられた。タラリネだ。そしてその前には兄であるオルミュロイがローガンさんに向かっていった。



「…………」


「…………」



何が起きているのか分からなくて、肉を打つ音が一度だけ響き、静かになった。



―――心臓が嫌に脈打つ。



どうなって、何が起きているのだろうか?


肩を揺さぶられて顔を上げると無表情のオルミュロイさんが眼の前にいて……ローガンさんは頬を殴られて赤くはなっているが直立不動でピンピンしていた。


これは一体どういうことだろうか?


私に向かって、すぐに頭を下げるローガンさんだけど……。



「い、意味がわからないんですけど!?」



声が大きくなってしまった。


全然、全く、全部意味がわからない。報酬を奪われたことも、ローガンさんは知っていたかのように動いていることも、この家に監禁されたことも。


信頼していたローガンさんにこんな事されて、少し泣きそうだ。



「………」



それでも何も言わないローガンさん、いや、喋れないのか?



「喋ってください、命令です」


「………」



頭を上げて首輪を指さしてくるローガンさん。はじめに「動くな」と言われてから動いているがあれは一時的なものだったようだが、喋れないのは継続しているようだ。私の命令では喋れないのか……。


とても苦い顔をしているローガンさんだがそのまま立ってこちらへどうぞとボディランゲージしてくれる。


明かりは窓枠から僅かに差す光しかないし、暗くていまいちわからない。


机にはパンやスープもあるが気密性の悪そうな窓には鉄の枠がはめられていて、この家自体が人を逃さないような作りになっている。


叫べばきっと外には通じるだろうけど。それはローガンさんにとってよろしくはないだろうし、通じたところでここから解放されるとは限らない。



食べ物はあるし、ローガンさんには私に危害を加える気はないようだが……とにかく、閉じ込められたことだけは理解した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る