第18話 パキスの人生、最低の父親。


「本当に俺の子か?」



そんな親父の言葉が耳から離れないでいる。


少しだけだが気持ちもわかる。


父親も母親も酔っ払っていつの間にか出来たのが自分。母親は誰と寝たのか覚えていないなんて言っていたが、馬鹿騒ぎした日に何があったかその場にいたやつに「ドゥッガと寝ていた」と聞いたらしい。つまりは酒に酔ってできた間違いの子である。


母親は母親で「父親なんていないほうが良い」と思っていたようで二人で生きてきたのだけど母は病気になった。で、母の言う通り父親らしき人に会いに行くとこの一言だ。糞が。



「母ちゃんが病気なんだ」


「それで?」


「それでって……!!?あんた父親ならなんとかしろよ?!」


「あー、そう言われてもなぁ、ラキスが自分で金はいらねぇって言ったんだ。何ならお前が自分で稼げ」



母さんには父親なんていらないと言われるのも納得だ。


ムカつくし死んじまえと心から思うが他に稼ぎ方も知らねぇしこのチチオヤのもとで稼ぐことにした。ただ、一緒に住む気はないし好きにさせてもらう。


何人かいるハラチガイの兄貴は色々教えてくれた。喧嘩の仕方、商売敵への嫌がらせ、脅し方に稼ぎ方……そして人の殺し方。


兄貴達には一人に付き何人かは親父が部下をつけてくれて仕事を任せられる、後は好きに生きろって感じだ……が。



「お前にゃまだはえぇよパキス」


「なんでさ」


「部下ってのは使える奴隷とか使えそうなやつとか色々あるんだけどよ、親父は俺らよりも年下を選ぶ。だからパキスにゃまともに使える部下はまだはえぇんだよ」



そんな足手まといいらねぇ。


だが使えそうな部下というのはたまにいる。髪の色や種族で便利そうだとわかる。たまたま拾ったやつが使えそうだとかで見に行くとすぐに分かったから連れてきた。



オドオドして、愚図で、はっきり喋らない。何度も教育したが一向に治らない。



俺でも何回か殴られたら覚えるがこいつは何度殴ったって覚えられないほどの愚図だ。


だが水の魔法は使える。少量だが結構な値段で売れるし、愚図は頭も足りないからいくらでも抜き放題だ。



「無理してない?大丈夫なの?」



母さんはベッドから起きられなくなったがそれでも俺の心配をしてくれる。



「全然!俺にも部下ができたんだ!」


「そうなの、大事にしなさいね?」


「わかってる!」



フリムは本当に愚図だった。嫌がらせをするのにも投げる石が届かないし、逃げるのもおせぇ。正直言って足手まとい。それでも俺の部下で、こいつの魔法で結構稼げていた。


しっかり教育してやってるのに「腹がすいた」だの「動けない」だの言い訳ばかり、大体何回か殴れば動けるのに怠けやがって。


それでも俺の教育が良かったからか出せる水も増えてきて稼ぎは一気に良くなった。……まぁ稼ぎの半分は兄貴達に抜かれるがそれでも残り半分で母さんの治療費にする。もうすぐいい薬が買えそうだ。はずだった。



「親父がフリムを気に入ったらしい。残念だったな」


「クソがぁっ!」



愚図は愚図なりに長い時間教育してきて、やっと魔法もまともに出せるようになってきたっていうのに、親父にとられた。


薬も続けて飲まなきゃならないってのに一番安いのになって、少しは動けるようになってきていた母さんがまた寝込むようになった。



「ごめんね」


「気にすんな、ねてろって」


「部下の人との仕事、うまく行ってないの?」


「……あー、どんくさい愚図で失敗ばっかだからなぁ」


「仕方ないわね、大切にしてあげな」


「わかってるって」


「ドゥッガには大切にしてもらってる?」


「もちろん」


「ドゥッガは、お父さんはどうしてる?元気?」


「いつも通りだよ、もう寝てなって」




こんな嘘をつかなきゃいけなくて親父にもフリムにもムカついてたまらなかった。ただ親父は反抗するのなら息子だろうと容赦しないと聞くし、どうしようもなかった。


だから別のシマの屋台を襲った。



「おら!金出せや愚図が!!」


「な、何しやがる?!こんな事してニッグが黙ってねぇぞ!??」


「うるせぇ!死ね!!」


「あがっ?!」



頭を蹴り飛ばすと爺は静かになった。今のうちに稼ぎを全部持っていく……しけてんなぁ。



「パキス、あぁいうのはよくないからやめろ、な?」


「あぁいうクソは襲ってもいいって兄貴達が言ってたじゃねぇか?」


「店畳むほど襲っちまったら搾り取れねぇだろ?ニッグのとことやり合うのも俺等だ。わかってんのか?」


「日和ってんのか?弱気だなぶっとばァグッ?!!」



蹴られた。クソいてぇ。



「お前がどこのクズを襲ってもいいがそれで俺等に手間かかってんだよ!ちったぁ考えろよ愚図が!!」


「ごほっ、ごほっ……だから稼ぎを渡してんだろうが?!仕事だろ!!」


「限度ってもんがあんだよパキス!反省!しやがれ!!」


「……!……っ!!」



糞だな、俺がやりすぎたらしく、教育されちまった……。こんな日は母さんのもとには戻れない。


何が悪かった?元はと言えば何が……。



………


………………


………………………



―――――……全部あいつが居なくなってから悪いことばかりだ。



金も稼げなくなった!薬も買えなくなった!仕事もとられた!!



母さんは悪くなっちまって、どうすることも出来ねぇ。糞が!!



なのにフリムは水を出すだけで売りに行かせる部下もいる。なのに俺には金を支払わねぇ。どうしようもねぇ屑だ。


……一度分からせる必要がある。今は親父の近くで働いてるなら稼ぎもあるだろうし、金を搾り取れるだろ。


フリムは俺が育てた水魔法で稼いでいる。なら稼いだ金は俺のもんだ。



ある日、親父に呼ばれた。母さんのことかと思った。流石に薬代ぐらいは出してくれるか?


だが、そうはならなかった。甘い、甘すぎるクソッタレな考えで、反吐が出そうだった。



「流石にお前一人に行かせるとまずいからな、ローガンとオルミュロイとパキスをつける。―――……大丈夫か?」



ローガンと言えば強さで奴隷から奴隷頭になった使えるやつで。兄貴達よりも強い。オルミュロイはクソ強い。リザードマンの血を引く負けなしの奴隷………そんな部下をフリムはつけてもらえる。しかも俺が部下?ハァ??



「目がグルグルします」


「吐いてから仕事にいけ、悪かったな」



――――……具合の悪そうなフリムを、あのクソ親父が、気を遣っている。あまりのことに目眩がする。湧き上がる怒りを抑えろ。フリムを殺したって金が入ってくるわけじゃねぇ、分からせるなら親父がいないところでしないといけない。



「パキス、フリムの言う事を聞いてちゃんと守れよ?」


「……………ウス」



ふざけんなクソがとは言えず、ぐっとこらえた。ここで暴れたってなんにもならねぇ。



「ご主人様、よろしいでしょうか?」


「なんだ?ローガン」


「掃除となればきっと女性しか立ち入れぬ場所もすることとなるでしょう。我々ではフリム様の近くにいられないこともあるのではないでしょうか?」



フリム、様?



「おぉ、そうだなローガン!気が利くな相変わらず!」


「いえ」


「じゃあ二人ほど見繕って連れてけ」



それほど親父はフリムが大事かよ?ムカつきすぎて死にそうだ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





―――――だからちょっとナイフで刺して、金を出させようとしただけなのに。




「なぁ、なんであんな事した?」


「クソ親父が」


「フリムは俺の役に立ってる、なのになんで殺そうとした?」


「ぺっ」



顔につばを吐きつけてやって少しは気が晴れたが洗いざらい吐くことになった。拳で。


痛くても痛くても、全部吐くまで殴られ続けた。



「ガキ同士仲良くなればと思ったんだがな……まぁいい、パキス、お前はやりすぎたんだ。ちったぁ反省しろ」


「………」



……ドジ、踏んじまったなぁ。

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