第17話 貴族の仕事一日目。
タラリネとオルミュロイは黙々と働いてくれた。兄妹だしできれば一緒に水入らずで話してほしいが騒ぎを起こしてしまったし『働いていた』というアピールをしなければならない。
この家の、貴族の従者らしき人は私達を「下賤」と自然に言った。蔑むためでもなくそれが当然であるというように。
……そんな彼らがいるのだ。何もしなければ仕置をされてしまうかも知れない。
髪や指、装飾品や服の襟の部分が割れたり欠けたりしている像へ向かって丁寧に高圧洗浄かけていく。時折来る庭師の方や様子を見に来る人には「水しぶきや汚れ、破片が飛んでいく可能性がある」と二人には一言注意としてもらう。
汚れが素早く落ちていく過程を見るのは面白いのか、人が遠目に集まってくるので二人には看板とバリケードになってもらった。
ちょっと気持ちはわかる。ネットの動画でも高圧洗浄で床や屋根を綺麗にする動画や機械の洗浄、車の洗車なんかはついつい見ちゃうよね。
「水分補給しましょう、一つで申し訳ないですが一緒に使ってください。<水よ出ろ>」
「あ、ありがとうございます!兄さんから飲んで!」
「……俺はこれを使う」
オルミュロイはずっと無表情だがタラリネは表情が変わって面白い。
使えそうなものはズタ袋に入れてマーキアーが持ってきてくれていた。硬い人数分のパンにコップが2つ、柄杓やバケツにブラシ、ハサミに磨き粉、スプーン?何に使うんだろう?それとスープを入れるのによく使われる木をくり抜いた器。
コップ2つに新たに見つけた器を使って水を入れて飲む。
「………」
「っ!……!!」
私が飲んだのを確認した後に二人が飲み始めた。
オルミュロイは無表情だがタラリネはコロコロ表情が変化して面白い。美味しかったんだな私の水。
「美味しいです!ありがとうございます!」
数時間はぶっ続けで作業をしていたしこれぐらい許されるだろう。
私なんて像から至近距離で作業していただけあって泥だらけだ。見かけにも「よく働いた」のが見て取れるはず。
「少しトイレに行ってきます」
「では私もついてきます!」
「この場に人が残ってないと他の人が来るかもですしゆっくりしていてください。あまり大きな声で話さないように」
二人の空になった容器に水を入れ、従者にトイレの場所を聞いて休憩した。積もる話もあるだろう、あまり時間は取れないが……それでも急ぐのも無粋かな?いや、パキスのようなトラブルの可能性もあるし、うーむ………結局不自然にならない程度に戻った。
はにかんでるタラリネちゃんが遠くに見えて、邪魔するのは気が引けるがそれでも仕事に戻らないといけない。
「おかえりなさい!」
「仕事に戻りましょう。二人とも疲れたら言ってくださいね」
「はいっ!」
正直行ってきたトイレも汚かったし掃除したい気もするがそれより命じられているのは像だ。パキスのことを思い出して色々胃が痛くなるがそれでも任された仕事をこなさなければならない。
像も12体は綺麗にしたところで貴族様が来た。
「おぉ!よくやってくれたな!ここまで汚れが落ちるとは思っても見なかったぞ!」
「ありがとうございます」
「今日は泊まって行け、お前はいい湯をいれられると自慢されてな」
「わかりました」
案内された風呂はなにかの金属製であった。猫脚や陶磁器という訳では無いが親分さんの場所にはなかった設備だ。
「あぁいい湯だぁ!!」
「………ありがとうございます」
なぜかは分からないが、貴族様の横で私は入浴を眺めている。いや、熱いお湯をいつでも出せるようにということだろうな。給湯器フリムちゃんである。
しかもメイドさんや従者もいない。「一人で入る」と従者さんに断っていたし私は一人にすらカウントされていないようだ。
「お前の水は魔力がこもってて良いなぁ、体の芯まで染みるぜ」
「ありがとうございます」
私の水は飲む人によって反応が違う。親分さんのように驚くほど美味しいという人もいれば宿屋のおばちゃんのように何が良いのかわからないけど客の評判が良いという人もいる。
普通の井戸水とは何が違うのか?フリムちゃんは給湯器や高圧洗浄機だけではなくフィルターでもあるのかも知れない。もしくは茶葉。
「……仕事はどうだ?」
「トラブルもありましたが順調です。12体ほど清掃が完了しました」
「よく魔力が持つなぁ、よっと」
全裸のおっさんの裸なぞ見たくないが湯の中で体を拭っている貴族様。
「パキス、そう言えばパキスがキレたらしいなぁ……何があった?」
「パキスは私の元上司だったのですが、親分さんが私の部下につけまして……きっとそれが気に食わなかったんでしょう」
機嫌が良さそうだがバーサル様はパキスにとって伯父だ。パキスの味方になって私を教育するかも知れない。
そのために従者や私の護衛を入れない状況にしたのか?
流石に貞操の危機は無いと信じたいがそれでも可能性はある。仕事が途中だし殺されないまでも殴られる可能性もあるだろう……。
「あー、そりゃ仕方ねぇなぁ。まぁあまり悪く思わねぇでやってくれな、ありゃドゥッガが悪い」
「というと?」
「パキスは反抗したい年頃でもあるし、反抗する理由もあるってことだ」
ドゥッガ親分さんへの反抗心で殺されたくはないんだけどな……ただ、私に向かってお怒りではないようだ。
「なるほど、湯の温度はいかがでしょう?」
「もうちっと熱くできるか?」
「はい、湯を足しますね」
「おう」
風呂場では暴力を振るわれるようなことは何もなく、ベッドが並べられた大部屋で私達は泊まることとなった。
ローガンとマーキアーが既にいて――――……パキスはそこにはいなかった。
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