四 捜査
「おまえらの悪行三昧はこの一月余りでばっちり掴めたからな。ま、幹部なら10年以上は硬いだろう。出てきた頃には浦島太郎。娑婆は様変わりしてるだろうさ」
「フン…警察に駆け込むつもりか? そんな証拠がどこに…」
「あ、証拠がないとか思ってたりする? 残念。あんたらとのやりとりは全部スクショで残してある。それにいくら秘匿性の高いSNSでも発信機器とその契約者を突き止めることくらい、うちのIT捜査班にかかれば簡単なことさ。国家権力を以てすれば、ケイタイ会社に情報公開もさせ放題だしな」
犯罪の証拠はないものと思い込み、余裕綽々にそう返そうとする〝露平〟の口を塞ぎ、いい加減、自分の置かれている立場をちゃんと理解できるよう、俺は懇切丁寧に教えてやる。
「…!? ……捜査班って、まさか……」
「そう。俺は警視庁組織犯罪対策部特殊詐欺捜査班の特任刑事だ。通称〝露平〟とその一味、今回押さえた証拠をもとに、これから警察はおまえらの逮捕に向かう。別に俺達だって
やっと俺の正体に思い至って冷や汗をかいているであろう〝露平〟に向かい、俺はその絶望的推測をより堅固な現実のものにしてやる。
そう……俺は刑事だ。でもって、この特殊詐欺グループに潜入捜査してたってわけである。まあ、まさか押し込み強盗まで始めるとは思ってなかったがな……。
「クソっ……誰が捕まるかよ! たとえてめえらが俺の居場所を突き止めたとしても、ここへ来る頃にはもう偽造パスポートで海外に高飛びだぜ!」
すべてを知った〝露平〟だが、往生際悪くもまだ逃げられると思っているらしく、スマホの向こうからはペラペラと、そんなタカをくくった声が聞こえてくる。
しかし……。
「残念だったな、サツの犬。んじゃあな、骨折り損な潜入捜査、長い間ご苦労さん……ん? なっ! なんだてめえら!? なにしやが……んゴハっ…! んギャアっ…!」
「オラっ! 無駄な抵抗はやめろ! …なーんてこたあ言わねえ……むしろ、もっと抵抗して俺達を楽しませろよぉ……ウォラアっ! 死ねやコラぁっ!」
次にスマホのスピーカーからは、なにやらドーン…! とドアが蹴破られる轟音とともに、驚く〝露平〟の気色悪い苦悶の叫びと、やつとその仲間達を殴って楽しむ、同僚の嬉々とした声が聞こえてくる。
「ああ、すまん。じつはあと二つほど騙してることがあった……本当はこれから向かうんじゃなくて、もうすでに警官隊がおまえのアジトを包囲してたんだ。それと、逮捕時におまえらを存分に痛ぶられるから、俺達、荒事が大好物なんだよな……」
もう聞いてはいないと思うのだが、捕物で騒がしくなった電話の向こう側に、俺はそう言って嘘を吐いていたことを一応謝罪しておく。
「さ、あとは実行犯のおまえらだ。これでわかったろ? もう逃げ場はない。抵抗しなければあいつらみたいに…」
とりあえず向こうは済んだようなので、俺は通話を切ってスマホをポケットにしまい込むと、バンの仲間達にも再び説得を試みる。
「……う、うわあぁぁぁぁ…!」
だが、一部始終を聞いていたリーダーが恐怖のあまり発狂すると、不意にドアを開けて外へと転げ出たのだ。
「い、嫌だ! まだ捕まりたくない!」
「ま、待ってくれも! お、俺も!」
それに触発され、運転手を含む他のメンバー達も一斉に車内から逃げ出そうとする。
「あ、おい! だから無駄だって…」
しかし、慌てて静止する俺の言葉が終わるよりも早く、カッ…と一面が真っ白になったかと思うと、パトカーのヘッドライトに照らし出されて、無数の警官達の姿が闇に浮かび上る。
事前に発しておいた俺からの連絡を受け、このバンの周囲もぐるりと警官隊に包囲されていたのである。
「な? だから逃げ場はないって言ったろ? これに関しちゃおまえ達を騙しちゃいなかったぜ?」
放心状態でその場へと崩れ落ちる
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