ニ 押し込み強盗

 だが、ただでさえ辞めたいと思っていたところへ持ってきて、俺達の労働条件はさらに悪化の一途をたどる……。


 昨今の警察による捜査の強化と世間での詐欺に対する認知度が上がったことにより、俺達のグループは特殊詐欺を取りやめると、いわゆる〝叩き〟──即ち、押し込み強盗に業務内容を変更したのだ。


 当然、下っ端の俺も実行犯……しかも、見張りや運転手ではなく、実際に家へ押し入る役目を申し付けられた。


「──こいつらは俺が縛りあげとく! おまえらは物色でもしてろ!」


 俺は当て身を食らわせ、組み伏せた老夫婦を結束バンドで拘束しながら、他の仲間三人に別の役目を割り振る。


 こうなっては仕方がない。柔道や日本拳法など体術の心得がそれなりにあったし、俺は率先して家人の拘束の役を買って出ることにした。


 はっきり言って、俺達実行犯はただの使い捨ての捨て駒だ。なので、雑な仕事を振られることが多く、押し込む家に何人いようがそんなことはお構いなしである。


 他のグループの犯行だったが、押し込んだ先で思わず殺人までやっちまったバカもいる。


 俺の関わった事件で死人が出るのはまっぴらごめんだからな。トウシロウの他人に任せるよりは、俺自身の手で安全に拘束する方がまだマシってもんだ。


「……はい。目ぼしいものはいただきました……ええ。金庫もバッチリ……はい。現金はすぐに持って行かせます……」


 ご丁寧なマネジメントにも、リーダー格のさらに上、犯行グループを取り仕切っている〝露平ロへェ〟なる指示役からは押し込みの現場にまで電話がかかってきて、細かくあれこれといちいち命令される。


 上のやつは手は出さねえけど口は出す……ほんと、どこからどこまでもクソむかつく、ブラック極まりねえ職場だぜ……。


 そうして四件ほどのヤマでコキ使われた後、俺はそろそろ潮時だな…と感じた。

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