⑧魔人の一撃
加藤の腕が円を描いてしなる。
信介の目には虚空を切ったかのように見えるその腕は、確実に何ものかを掴み、投げ飛ばしているようだ。その腕からは風が吹き出しているようで、その速度を加速している。
「あれが魔人加藤か……」
実隆が目を見張りながら、感嘆の吐息を漏らした。
魔人の一撃は重い。そのことを実感しているようだ。
「ねえ、実隆はあれ見えているのか?」
泰彦が実隆の肩をせっついて尋ねる。
この二人は目視できているのだろうか。信介もそのことが気になった。
「アケルケイラが何を消したかだけはわかる。だが、そのもの自体は無理だ。イスの種族の視覚が必要なんだろうな。この身体じゃ見えん。
けど、あんたは見えているのか?」
話を振られたと思った泰彦は慌てながら、答える。
「え? えーと、全然見えてないよ、俺は」
その言葉の後に少し沈黙があった。そして、少しして、ぼそりと実隆が言葉を発する。
「あ、いや、泰彦じゃなくてさ、俺の中にいるイスの種族に言ったつもりだったんだ」
実隆の言葉に、泰彦は気まずそうに「あ、そうなの」と言って目を泳がせる。
そして、次の瞬間、実隆の表情が異様なものに変わり、声を上げた。
「見えている。見えなければ使役できないんだ。これは俺が持ち込んだ第六感にスイッチするための手続き記憶がなければできない」
だが、実隆の身体を使用するイスの大いなる種族は次第にわなわなと苛立ち始める。
「魔人の力、ここまでなのか。まさかアケルケイラでは追い詰めることもできないとは。
しかし、奥の手は用意してある」
その言葉が発せられた瞬間、善戦していたと思しき加藤の表情に焦りが浮かんだ。
アケルケイラの軍勢の動きが変わったのだろうか。それとも、新手が現れたのだろうか。それは、視認することの叶わない信介たちにはわからないことである。
「くそっ、やるしかないか」
加藤の腕に風が集まり始める。それと同時に、彼の腕が筋肉質に膨らみ、瞬く間に加藤本人よりも巨大になる。その腕を振り上げると、同時に足を伸縮させ、空高く舞い上がった。次の瞬間、地上に向かって加藤の一撃が放たれる。
ズドーンという地響きとともに何かが終わった。そして、加藤が倒れる。
「へへへ。もう、鼻くそをほじる力も残ってないや」
加藤は満足げにそう呟く。それは加藤のお気に入りのキャラクターの決め台詞を模したものであった。アケルケイラを一掃したのだろうか。
だが、イスの大いなる種族に憑りつかれた実隆は笑みを浮かべた。
「終わった。そう思ったろう。まだ、これからなんだよなあ」
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