③不可視の攻防

 加藤の腕が脈打っている。ドクンドクンと波打つように、何かに反応するように忙しなくその形状を変えていた。まるで、音に反応して動くイコライザーや、心臓の鼓動に呼応する心電図のようだ。


 ドクン


 腕が弧を描くような軌道を描き、加藤の周囲を回る。

 次の瞬間、加藤の脚がポンプのように何重もの膨らみとともに伸縮した。加藤が飛び上がり、腕が伸び、虚空としか思えない場所にしなる鞭のように襲い掛かる。


 ザシュッ


 何かに弾かれたような音が鳴り、腕は跳ね返った。加藤はもう片方の腕を伸ばし、大木の枝を掴むんだ。そして、その腕を縮めると、その木の上に瞬間的に移動する。

 息もつかぬ攻防。なのであろう。しかし、信介には何が起きているか理解できない。


「わかんないわかんない、全然わかんない。

 加藤はあの見えない奴と戦っているのかよ。ていうか、見えないだけじゃないな。存在そのものを認識できないというか……。わかるのは加藤に触れた瞬間と、何かを消したことくらいだ」


 信介はどうにか状況を分析しようとするが、しかし、何も理解できないという感覚を強くする。アケルケイラ――と実隆さねたかに寄生した知性体が呼んだ生物――自体が理解を拒むような性質もあるのかもしれない。だからこそ、誰にも存在を知覚できない存在なのかもしれない。


「ただ、あの存在を消す攻撃、いや、捻じ曲げる攻撃か? あれを受けたら地図も変わっているな。ここに来るまでに感じた不可解な出来事はこれが原因なのか」


 信介はなんとなく納得した。釈然としないものはあるが、アケルケイラはそういう存在なのかもしれない。


 そうこう考えていると、状況が動いた。

 加藤は腕を背中に回し、相手から見えないように注意しつつ、地中に潜らせていた。その準備が終わったのだろう。行動を起こした。


 地面から加藤の腕が飛び出すと、不可視の生物を雁字搦めに縛るような挙動をする。どうやらアケルケイラを羽交い絞めにしたようだ。加藤の腕が伸縮するとともに、加藤の本体もアケルケイラ――がいると思しき場所――のもとに現れる。そして、不可視の生物を持ち上げると、アルゼンチンバックブリーカーを極める。

 しばらく、何か動くものを極めるのに必死な動きをしていた。少しして、アケルケイラが動かなくなったのか、何かを投げ飛ばすように放り出す。


「はぁはぁ。終わったよ、信ちゃん……」


 加藤が肩で息を切らしながら、信介に近づいてきた。

 その様子に信介は戸惑うばかりだ。


「そうか。いや、何もわからん。説明してくれ」


 そう言われて、今度は加藤が困惑する。


「説明しろって言われたってねぇ。うーん、そうだなあ。

 でも、ちょっとわかったことがあるんだ」

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