④高尾エリアの裏側
しばらくは楽だった。
富士見台からは少しの間、下りの道が続く。平坦な道が続く。
しかし、登らないで終わる山があったら、どんなに楽なことだろうか。そんなことはありはしない。そして、その苦行の続く道を求めて、登山をする人間は後を絶たないのである。
人は苦しいことから逃れることばかり考えるが、同時に苦しむことを楽しむ生き物なのだ。
「いやいや、おかしいでしょ。さっき
泰彦は我ながらおかしなことを言っていると思う。
しかし、そう思わざるを得ない。下って楽をするということは、その後に登らなくてはいけないことも意味する。そう考えると、下ることもまたつらいことに思えた。
とはいえ、山とは登りもあれば下りもあるものだ。そんな地形を山と呼ぶのである。
「泰彦、大丈夫? 頭までおかしくなっちゃった?」
加藤がそんなことを言う。不思議なことに、加藤のそんな物言いに段々腹が立たなくなってきていた。
「心配かけて、すまんね。まだ、頭は大丈夫だ。先へ進もう」
その言葉通り、一行は先へ進む。杉沢の頭を過ぎ、
その道は想像以上に険しい。あまりにもアップダウンが激しく、体力の消耗がより激しくなった。
「慌てるなよ。大股で歩くな。ゆっくりでいいぞ。歩幅は小さく歩くんだ」
背後から信介の声が響く。大股で歩くと、それだけ消耗が激しくなる。片足が宙に浮き、片足で身体を支える時間が増えるからだ。
これは登山においては基本のことだが、つい急いで早足になり、大股になってしまう。信介の忠告はありがたいものだった。
「歩くコースの選別は注意してくれ。単純なことだけど、登りも下りも最小限だ。一旦登ったら不用意に下らない、一旦下ったら不用意に登らない。これを注意するだけで体力は大分温存できるんだ。デコボコした道は避けるのがいい」
実隆の言葉も続く。そのアドバイスに従い、なるべく、平坦に歩くように心がける。
どれだけ体力を温存できているかはわからないが、それでも効果があるように思えた。そう思うと気が楽だ。
歩みはさらに進んでいく。湯ノ花山。大嵐山を抜ける。三本松山を通り過ぎ、堂所山を後にした。
この後は景信山とも合流し、陣馬山への道へと続く。だが、ここで北側に曲がった。それは市道山の方角である。
「実隆くん、どこまで行くの? そろそろ、その未来視? だっけ? それでわかったりしないの?」
加藤の問いかけがあった。実隆はそれを少し無視するように歩いていたが、しばらくして立ち止まる。
「そうだな、この辺りでいいかもな」
そう言って、眼鏡を外そうとした。それを泰彦が制止する。なぜだか、嫌な予感がしていた。
「待て! 何かがおかしい。何て言うかな、この中に俺たちを騙している奴がいるんじゃないか?」
それは直感の言葉であったが、それを裏付ける知識と経験が泰彦にはある。
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