③邪眼の持ち主
今回のリーダーは実隆だが、彼は先頭に立って歩いていた。どんな道程を進むのか、判断するのが主な役割であり、その次に隊内の疲労や消耗を気にするのも役割であった。最後尾はサブリーダーとしての役目を持つ信介であり、より確実にチームメイトの体調や後れを気にすることができる。
歩みの遅いものを先頭にする、という考え方もある。
これは最も体力のないものに合わせるということであり、不必要に消耗させるのを避ける意味があった。多少遅れは出るが、それは数時間の山行の中でも数十分のことであり、そのタイムを縮めることに大した意義はない。
特に、レクリエーションを目的とした山行では遅いものに合わせるのは当然のことだといえる。
「まあ、俺が一番遅いんだけどな」
泰彦は若干の劣等感を抱きつつ、そんなことを思う。
今回の先頭は実隆ではあるものの、二番手を歩く泰彦の様子を常に観察し、それに合わせたスピードで歩いてくれているようだ。おかげで、だいぶ楽に進むことができた。
「おっ、富士見台につくぞ」
実隆が
彼の言葉通り、先へ進むと一気に視界が開けた。周囲の山々が広がり、その奥に富士山が鮮明に見える。
美しい。思わず嘆息してしまうほどの景観だった。
「へぇ、高尾でもこんな景色が見れるんですねぇ」
加藤でさえも、感嘆の声を漏らす。
「こんな景色があると、高尾も捨てたもんじゃないと思えるだろ」
信介に至っては、なぜか得意げだ。
「まあ、富士山が綺麗な場所はたくさんあるからな」
その反動なのか、実隆は少し斜に構えたようなことを言う。それは正論といえなくもないが、それでも目の前の景色の美しさが眩むようなものではない。
「ここで少し休んでいこう。コーヒーがあるし、茶にしようぜ」
そう発言したのは信介だ。その言葉に加藤も賛同し、荷物を富士見台のベンチに下ろした。
信介は魔法瓶に入ったコーヒーを紙コップに注ぐ。それに合わせて、実隆はザックに入れていた菓子を出した。チョコ菓子だ。
「俺はコーヒーをちょっとだけもらうよ」
残念なことに、泰彦はチョコ菓子を食べることができない。コーヒーなら少し飲めるくらいだ。
異常なほどに燃費のいい肉体になってしまっている。
「実隆、目的地まではあとどれくらいだい?」
コーヒーの香ばしい香りを嗅ぎ、それだけで胸焼けしそうになりつつも、実隆に尋ねた。
その質問に対し、実隆のメガネが光る。ように思えた。実際には、少しメガネのズレを直しただけだ。
「そうだな。このまま
この辺りだと、まだ俺の眼を使ってもあまり意味がない。近づけば、もっとはっきりしたことがわかるはずだ」
彼の片目は四次元空間を見渡す
今回の山行の目的はその人助けを完遂することだった。
「よし、じゃあ、このまま先へ進もう」
そう泰彦が返すと、信介が呆れたような表情を向けてくる。
「おい、泰彦が仕切るのかよ」
その言葉を聞いて、実隆と加藤から笑いが起きる。なぜか、落ちのような扱いを受け、泰彦は釈然としないものを感じつつ、四人に一体感が生まれたことを感じていた。
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