②魔と混じり合った者
舗装された道が次第に砂利道に変わり、そして、土の道に変わっていく。山に差し掛かっていた。
とはいえ、まだ人が多く、観光客と思しき人も多い。
「はぁはぁ、それにしても険しいな」
息を切らしながら、泰彦が呟いた。
それに対して、加藤の辛辣な言葉が返ってくる。
「まだ、登り始めたばかりですよ。バテるの早くないですか?」
いや、これは嫌味とかではなく、素直にそう思っているのかもしれない。だとしたら、それはそれで傷つくけれども。
泰彦がそう考えていると、それを窘めるように実隆の言葉が続く。
「まあ、そう言うな。泰彦は初心者だし、身体も万全じゃない。そういう配慮をできなきゃ、
いまだ初心者扱いはどうかと思いつつ、実隆の言葉は心強いものだった。
これには、さすがに加藤もしゅんとした様子だった。
「いやぁ、確かにそうです。反省します。でも、実隆くんは優しいね」
あからさまに相手によって、加藤は態度を変える。清々しいほどだ。
これが魔と混じり合ったの取る行動なのだろうか。
気づくと、城山を越えている。急激に観光客は減り、登山者も少なくなった。道なき道、というほどではないが、素人目には登山道とそれ以外の地面との違いがわかりづらくなっている。それでも、実隆と信介はそれぞれに道を見極め、迷いなく先へ進んでいった。
「だいぶ、開けてきたな」
一気に景色が広がる場所があった。思わず、その景観に見惚れる。
「ははっ、思いがけず晴天だな。これは富士山も綺麗に見れるぞ」
信介が珍しく機嫌よさげだった。けれど、それもそうだろう。これだけ、晴れ渡った空も久しぶりに見る。俄然、富士山を眺めるのが楽しみになってきた。
「
さすがの加藤も少しバテてきているのか、信介に尋ねた。
「うーん、少し急になるんだったかな。その辺りは実隆が詳しいと思うけど。どうっだったかな?」
信介はそのまま実隆に言葉を投げかける。
「ああ、ちょっとは急になるな。でも、お前たちなら簡単に越えられる坂だぞ。
坂の上には富士見台があるからさ、空いてたら、そこで休憩しようぜ」
それは嬉しい言葉だった。ゼハゼハと息を切らしてはいるが、登る活力が湧いてくる。
「よし、俺も頑張るぞ!」
精一杯の大声を上げる。それに対して、加藤の冷ややかな言葉が返された。実際には違ったのかもしれないが、泰彦にとっては冷や水も同然に受け取れる。
「泰彦、がんばれ! 富士見台まではもうひと踏ん張りだ」
その声援とも皮肉とも取れる言葉を受けて、ついに泰彦は爆発した。
「おい! なんで、実隆は実隆くんで、信介は信ちゃんで、俺だけ呼び捨てなんだよ! この中で俺が最年長なんだぞ」
正当な指摘だと思うのだが、その反応は芳しくない。信介と実隆は「敢えて指摘しないようにしていたのに」とでも言いたげな反応だ。
確かに、年長者としては大人げない対応だったかもしれない。そんな反省を抱きつつ、その歩みを山の上へと進めていった。
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