⑤犯人捜し
「なるほどな。それなら、俺にも一つ心当たりがある」
誰かが自分たちを騙している。そう語った
心強い。まさか、
「さすがは信介だな。お前さんの意見を聞かせてくれ」
泰彦は彼の言い分を肯定し、その先の話を聞こうと促す。すると、信介は神妙な顔で、泰彦の顔を覗き込んだ。
「犯人は泰彦、お前だ」
きっぱりと断言する。
あまりのことに泰彦は慌てた。
「おい、なんで俺なんだよ。理由を言ってくれ。
ポートピア連続殺人事件だって、犯人がヤスだって知ってるだけじゃクリアできんぞ。ちゃんとした手続きと推理の上で犯人を割り出さなきゃならんのだ」
捲くし立てる泰彦に対して、「いちいちうるさいな」とでも言いたげに信介の表情が不機嫌になる。こうなると、泰彦自身が悪いことを言っているような気分になってきた。
「ちっ。まあ、説明しよう。騙しているだとか、犯人が誰だとか、いきなり言いだす奴が一番怪しい。以上」
それだけ言うと、信介はむすっとその口を閉ざした。
これでは助け船どころか、泰彦の提案を頓挫させる泥船でしかない。それでも、このまま状況を手をこまねいて見ているわけにはいかなかった。
ここで、もう一人発言するものがあった。加藤だ。
「泰彦は俺を疑っているの? 俺が魔人だから」
いつになく、おずおずとした態度だ。加藤の正体を探るためとはいえ、少しきつい口調で尋問してしまったからかもしれない。
泰彦にも反省する気持ちがあった。
「いや、そうじゃない。少し話を聞いてくれないか」
加藤を制止すると、泰彦は話し始める。
「俺たちは何者かによって、この場所に誘い込まれたんじゃないかって思ってな。
発端は実隆が今回の山行で加藤が人助けすることを知ったからだよな。未来視でそれを察知したって。
でも、おかしくないか。普段は眼鏡と義眼で未来視は抑えているはずだ。なぜ、そんなことを知ったんだ? 加藤が魔人だから、未来視が勝手に発動したのか?」
そこまで言うと、信介が呆れたような視線を送っているのに気付いた。
「そんなことなら、最初から気づけたんじゃないのか」
それに対し、いつものごとく泰彦は言い訳めいた口調になりつつ、弁明する。
「いや、そういうことじゃない。それは薄々思っていたけど、今気づいたっていうか。それよりも、もっと大事な問題が……」
泰彦が言葉に詰まると、実隆が淡々とした様子でつぶやいた。
「つまり、俺が犯人ということか」
そう言いながら、実隆は眼鏡を外す。彼の義眼の奥からは薄く闇が漏れ出ていた。
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