⑤魔人と涙
「その言い方だと、君はそのことに違和感を抱いているんじゃないか」
泰彦の言葉は加藤の胸をチクチクと刺していく。考えないようにしてきたことに目を向けざるを得ないのを感じていた。
「俺は何も知らない。何も知らされてない。
でも、そうだな。違和感は確かにあるよ。あの人たちは……」
加藤がポツリポツリと口にすると、ガシッと肩を掴まれる。信介だ。
「言いたくないことは言わなくていい」
そう言うと、タオルを差し出してくる。
加藤は自分の頬が濡れていることに気づいた。いつの間にか涙を流していたらしい。
「泰彦、なんなんだ? こんなことが必要なのか?
信介は凄い剣幕で泰彦に迫った。これにはしたり顔で加藤を詰めていた泰彦もたじたじである。焦ったように、頭をぽりぽりと掻き始めた。
「いやいや、加藤がどんな魔人なのか知っておかないと、
泰彦は言い訳めいた口調でそう弁明する。彼には彼なりの考えがあるようだ。しかし、その全貌はいまだ掴めていない。
そして、それに対し、信介は芒洋とした表情を浮かべつつ、言葉を述べる。
「加藤は涙を流しているぞ。お前はそこまで追い詰めたんだ。こんなの尋常じゃない。
それに、涙を流す魔人なんているのか?」
信介の言い分はよくわからない。魔人が涙を流さないなんて決まったことなのだろうか。だが、妙な説得力があったようで、泰彦は考え込んだ。
「うーん、人と魔が混じり合ったのが魔人なわけだから、別に涙は流すと思うんだけど、どうなんだろう。確かに、加藤を追い詰め過ぎているのかもしれないけど、これには……」
何かを泰彦は言いかけたが、それを遮って信介は質問をする。
「そんなことより、今回の山行の目的を教えてくれ。いまだに目的が掴めねぇ。単なるレクリエーションじゃないんだろ」
話が加藤から、今回の山行のことに移った。
加藤としても、今回の登山にレクリエーション以上の意味があるとは思っていない。サークルリストにある山岳部の部長に連絡を取り、電話で話して、登山に誘われただけだ。ただの遊びとしての登山という以上の意味があるものだろうか。
「それについては、俺が説明しよう」
聞き覚えのある高い声が響いた。それは、確かに電話で聞いた、山岳部の部長のものだった。
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