④第六感

「はあ、第六感ですかあ」


 加藤は少し拍子抜けしたように、ため息のような声を漏らした。

 もう少し有意義な発言を聞けると思っていたからだ。


「おいおい、そう馬鹿にしたもんじゃないぜ。言葉にするってのは大事なんだよ。

 お前さんは自分だけにある感覚がどんなものか自分でも理解できてなかったんじゃないのか? 五感ってのは、見る、聞く、嗅ぐ、触る。それに味わうだが、これは甘い、しょっぱい、苦い、酸っぱいだと思ってくれ。これ以外の感覚があるんじゃないのか? それが第六感だよ」


 それを言われ、加藤はドキリとする。自分が普段感じるものを言語にしたことは確かになかった。

 泰彦に言われたように、感覚の一つ一つを潰していく。そして、あった。確かにあった。五感以外に自分が感じていることが。


「うーん、言われた通り考えてみたよ。けど、なんていうのかな。この感覚を説明するのは難しい。該当する言葉が思い浮かばないし、なんていうのかなあ……」


 加藤は頭をフル回転するが、どうしても説明する言葉が浮かばなかった。

 それに対し、助け船を出してくれたのは信介だった。


「まあ、それは仕方ない。俺だって盲目の人に見える景色がどんなものか聞かれたら困る。聾唖の人に水が凍り着く音を再現してくれと言われたら頭を抱えるだろ。同じことだ」


 その言葉に加藤は救われた。確かにそうだ。自分の感覚を共有できないのは、ほかに同じ感覚を持つ人が少ないからだろう。

 どうにか落ち着いた加藤は、思い出すように新たな疑問を抱いた。


「でも、この第六感といっていいかわからない感覚があるのが魔人なんですか? そんな大層なものなのかなあ」


 泰彦はこれに反応するように目を輝かせた。加藤は面倒くさいスイッチを押してしまったような感覚に襲われる。


「ミスカトニック大学には――あっ、俺はミスカトニック大学の卒業生なんだけどね――こんな記録が残されている。

 ウェイトリーという男がミスカトニック大学に所蔵されている死霊秘本ネクロノミコンを読み込み、邪神を呼び出そうとした事件があったんだ。だが、事件はそんな単純なことじゃない。元々、彼の祖父は邪神を呼び出すことに成功しており、自分の娘と交わせた。そうして生まれたのは双子であり、彼はその片割れさ。しかし、もう一人は人間とは呼べないほどの異業と化しており、怪物の姿になり暴れ始める。

 それを止めたのは、我らがミスカトニック大学の教授、アーミテッジだ。まあ、それはいいんだけどな。これは魔人が生まれた事例さ」


 それを聞いて、加藤はため息をつく。


「つまり、俺が邪神と人間の混ざり合って生まれた子だと言いたいんですか。なんていうか、陰謀論なんじゃないの?」


 加藤はうんざりしたように言い放った。それに対し、泰彦はそのキラキラした瞳を向ける。


「君がそれを完全に否定できるなら、俺は何にも言わないさ。どうなんだ? お前は自分の親が誰かわかっているのか?」


 泰彦は真っすぐに目を見ながら告げる。

 それに対し、信介は慌てた様子を見せる。


「おい、言いたくないことは言わなくていいぞ」


 彼の言葉に安堵するものを感じつつ、自分のことを思い返す。


「加藤の家のお父さんもお母さんも普通の人間だよ。お姉ちゃんもいる。みんな、いい人たちだ」


 そう発言しながらも、加藤の胸にはざわざわとした感情が蠢いていた。

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