第3話 100分の1

 さっきの真っ白な部屋とは違う。地面は真っ白だけど、それ以外は夕闇ゆうやみ……いや、もっと赤い色に染まった世界。そして、目の前に見えるのはおりのような結界に入れられた……モンスター?


 ヒューマン系の戦士、魔法使い、僧侶から獣人、巨人、ドラゴン、魔族まで、檻は円を描くように連なっていた。



『ラプラスだ。聞こえるか小僧? 今、目の前にある結界の中にいる者たちは、これからお前が異世界クエストを攻略する上で最も重要な存在、【使い魔】だ。お前は今いる100体の中から使い魔を選んでクエストに挑戦することになるからの』


「なに! 100体だとぉ!?」


『うむ。あと説明することはえっと……あ、そうそう。SランククエストをS評価でクリアすれば元の世界へと戻してやるからな。気張って行け』


「説明雑か! それじゃ全然わかんねぇって――」


『選択終了まで制限時間は3分。ではスタートぉっっ!』


 おいおい、ふざけんな! こんなのまるで、ほとんど説明チュートリアルのない典型的なクソゲーじゃねぇか。……とは言え、そのクエストとやらをクリアできなければ彩音を救うことは叶わないってことだよな。


 ラプラスが異世界クエスト攻略で最重要と言っていた使い魔。この選択がゲームクリアを、もっと言えば俺の今後の人生そのものを左右すると言っても過言ではない。


 目の前の檻のような結界に手を触れてみる。すると俺の手の動きで結界が左右に動くことが分かった。スワイプできるのか、これ?


 この中でクエスト攻略の最適解さいてきかいとなる使い魔は……と。俺はスワイプを繰り返しながらできるだけ強そうな使い魔を探していく。



『残り2ふ~ん』


 やべ。もう1分経ったのか。自然とスワイプの速度も上がっていく。クルクルと結界を動かしていくが、100体は多くてまだ1周もできていない。



『残り1ふ~ん』


 ぎゃーーっ! もう時間が残ってねぇっ。よし、ようやく一周したな。見てきた中で強そうなのはやっぱりドラゴンか。いや、でも汎用性はんようせいを考えたら魔法使いやエルフも捨てがたい。


 そう言えば天使もいたよな。天使で使い魔って意味がわからんけど、ラノベやソシャゲの設定を思い起こせば天使型に外れ無し。持っている能力はトップクラスのはず。かなりの確率でここでの最適解はあの使い魔だ。



「うぉらぁああっ!」【クルクルクル】


 俺は全力で結界をフリックして天使を探した。



『残り10びょー』


 いた! 天使。よし、この使い魔に――


 その時、俺の目に飛び込んできたのは、天使の隣にいた黒い子猫だった。

 小刻みに震えながら、俺を潤んだ瞳で今にも泣きそうな物憂ものうげな表情でじっと見つめている。



【なんだかんだで困っている人を迷いなく助けられる人が一番尊とうといんだよっ!】


 その時、脳裏にあの時の光景がフラッシュバックした。



(彩音……? 川で流されていたところを助けた……黒猫?)


 いやダメだ。ダメダメ絶対ダメ! 俺はこのクエストをクリアしなければ彩音に会えな――


『残り3びょー』

『にぃ』

『いちぃ――』


「クッ、ちっきしょーーっ! 俺の使い魔はお前だーーーーーーーっ!」


 俺が選んだのは、天使型の使い魔……の隣の結界に入っていた、黒い子猫だった。

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