【1-4】 閃光粉

【第1章 登場人物】

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【世界地図】 航跡の舞台 ブレギア国編

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 街中の旗という旗が弔意を示すなかを、若者・レオン=カーヴァルと彼直属の配下たちは駒を進めていた。


 一行はその主人以下、言葉を交わす者はいなかった。石畳を蹴るひづめの音が、ふちどられたようにくっきりと響いていた。


 間もなく夕暮れだというのに、街中は静まりかえっている。


 国主・フォラ=カーヴァルの崩御ほうぎょいたみ、領民たちは週末であろうと杯を交わすことを自制しているという。肉屋や革道具屋は屠殺の量を減らし、花屋にいたっては華美な色の花束の取り扱いをやめているそうだ。


 生理欲求から生業まで自粛するほど、国主は民衆から支持され愛されていたというわけだ。



 精気のかけらも感じられない街を抜け、彼等は厩舎に愛馬をつないだ。


 辛気臭い城門をくぐると、その先に待ち受けていた新聞記者たちが金髪の青年へ一斉にカメラを向ける。


「お父君の遺志をどのようにして引き継がれていかれるおつもりですか」

「ブレギアの今後の展望について、先代から御遺言などはもたらされたのでしょうか」

「ホーンスキン将軍が、新国家構想を語られておりましたが、その辺りはお聞きになっているのでしょうか」


 閃光粉が真昼のように焚かれる合間に、質問攻めが始まる。たまらず、ドーク=トゥレム、ムネイ=ブリアン、マセイ=ユーハ、ダン=ハーヴァら若君の補佐官たちが、記者の一団を食い止める。


 レオンは歯を食いしばり口を真一文字に閉めて、ボン焚きの煙と灰の合間を歩み去っていく。



 父が病床に伏せてから、叔父・ウテカ=ホーンスキンとその取り巻き連中の動きが活発になった。国主亡きあとの実権を握ろうと、文官武官問わず臣下たちへ接触を始めているそうだ。


 そうした活動に嫌気がさしたレオンは、首都・ダーナの御館みたちを抜けた。東の郊外――沼のほとりに設けた丸太小屋ログハウスに、補佐官たちとともに起居している。


 御館へ戻るよう、王都の武官兄弟・エレモン=ミレシアン、デイヴィッド=ミレシアンからはもちろん、アリアク城塞のラヴァーダやバンブライからも、ログハウスへ再三使いが送られてきた。


 だが、彼はすべて無視した。健気に枕元にはべっていたところで、あの父王が声をかけてくることなどないだろうから。



 家臣はもちろん民衆すら慈しんだ父だったが、その愛情は息子自分にだけは向けられなかった。


 叔父ウテカから輸送物資をアリアク城塞に運ぶよう命じられたことを幸いに、レオンは鬱陶うっとうしい空気渦巻く首都を離れたのであった。


 同城塞は糧食が不足している――国政の間から甥を遠ざけようとする分かりやすい方便であった。だが、レオンはそれに乗った。


第1部【12-3】草原の御曹司 3

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816927860228121228



 父の最期はあっけなかった。


 アリアク城塞の一室でぼんやりとヴァナヘイム領の夜空を見上げていたとき、筆頭補佐官・ドーク=トゥレムから事務的に伝えられただけだった。「小覇王」の異名など忘れ去ったかのような静かな眠り方であったそうだ。


 軍記物語において英雄が身罷みまかる時のように、巨星が墜ちることはなかった――流星群はおろか、小さな流れ星1つ見かけることはなかった。



 宰相たちとともにアリアク城塞を出て、久方ぶりに首都へ戻る決意したのは、老人たちの言葉に根負けした訳でも、葬儀にだけは参加しようとする殊勝な心掛けでもない。


「『我が子にその才なくば、ラヴァーダ宰相を後継者に』と、国主が遺言されたというのは、本当ですか!?」

 1人の記者による突飛な――お家騒動にもつながりかねない――質問に、若者はさすがに歩みを止める。


 ――父からの遺言はあるのだろうか。

 否、そのようなものにレオンは期待などしていない。


 金髪をわずかに揺らし、またぞろ動き出した若者の背中に向けて、再びフラッシュが一斉に焚かれた。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


親族も臣下も領民も、小覇王を中心に据えたパズルのようなものだと、秋山は思ってしまいます。

血のつながった息子とはいえ、レオンはフォラとは別人であり、同じピースたりえない。


レオンの戸惑いを実感された方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533


若者たちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「【家系図】カーヴァル家 ホーンスキン家 オイグ家」お楽しみに。


閑話休題、一度血縁関係を整理してみたいと思います。

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