第6話 ひみつそしきっっ!!

多分、男の子ならどんな緊迫した状況でも、秘密組織とかそういう言葉が出れば少なからずワクワクするものだろう。


ストーク保護部隊の本拠地は完全防音仕様でわざわざライフラインギリギリの地下40mにあり、バスルーム、トイレ、キッチン、共同宿泊部屋完備の豪邸。やろうと思えば実弾訓練もできるらしい。

もっとも、実銃なんてものはあるはずもないのだが・・・

ただお手製安全性皆無ジップガンクラスのクソ精度のサブマシンガン開発には成功しているとのことだ。

すごいことにも感じるが、ここまで本格的な施設があればどうってことはない。

サブマシンガンの構造自体は単純なもので、第二次世界大戦中にはおもちゃメーカーが既存のものを改良して製造したと言う話もあるくらいだ。数十発の試射ができればわりかしまともなモノができる。


「驚くなよ?うちには銃がなくても、弾薬ならあるんだ。アメリカで安く買える格安粗悪弾だが、あるだけマシだろう」

どうやってそれを持ち込んでいるのかは不問として、これバレたら本気でやばいやつだ。

「・・・エレベーター以外の出口はあるんですか?」

「勘のいいガキは好きだよ。下水道から逃げることもできるし、隠し通路で海まで行けるやつがある。これを掘り抜くのに10年もかかっちまったが」

「10年でよく愛宕町から海まで繋げますね・・・1.5km強ぐらいはあったはずですよ」

「マンパワーさ」

「さ、そろそろ社長は出勤時間でしょ?」

「えっちょっと」

「ガールズトークに茶々を入れないのが紳士社長のやり方よ」

あすなは社長の背中をぐいぐいと押して無理やりエレベーターに乗せて帰らせた。


「ふう・・・私は今日お泊まりの予定だけど、君は?」

こんなワクワクする空間アジトなんか一日中永遠と居たいのが当然だろう。

しかし、急なお泊まりというのは母親からすればマジ勘弁の案件で、夜ご飯の予定など諸々のスケジュールが崩壊するため圧倒的迷惑なのだ。今回は見送りせざるを得ない。

「残念ながらお泊まりってこと言ってないし、パジャマもないから。4時になったら帰る」

「あら残念。ここ結構快適よ?」

「どちらにせよ無理だろ。小学生ならまだしも」

「ふーん」

「・・・他のメンバーは?」

「仕事中よ。一応一般人扱いだし。ここに住んでるのは戸籍を持ってない研究班のあの人だけね」

あすなの案内された部屋には、絶賛爆睡中の男子小学生がいた。

「どうにも生まれ変わるたびに捨てられるなかなかにエグい特性を持ったゲーマー、菊花きっかさんよ・・・」

「そりゃまた災難な・・・」

「一応先輩よ」

菊花きっかというのはコードネームだろうか?

いや、生まれ変わるから名前が永久不定なんだろう。呼びやすいようにあだ名のようなものをつけているのだろう。


「そういえば君の名前もいずれ決めないとね。ほのかなんてごまんといるわけだし、死んだらまた名前変わる人だしね」

鳳凰院ほうおういん!」

「却下!」

「タイムマシン作りそうないい名前じゃないか」

「死んでも精神年齢は成長できるのよ。後悔しないためにももっとまともなやつにしておきなさい」

というわけでこの件は一旦保留となった。

今度は問黒男といくろおを提案してみようか。


「ただいまー」

「あら一人?危ないから誰かと一緒に帰りなさいよ」

「はーい」

「全く・・・」


次の日。都合よく母親が急に仕事で2日帰れないということになったため、27日から3日間のお泊まりが決定した。

神の罪滅ぼしだとしたら3割許してやろうと思う。

「おめでと。君のためにここのメンバー全員集まることになったから。挨拶がんばれ〜」

「そんな大袈裟な」

「あんたの首ちょんぱエピソードで面白く思ってくれた人が結構いるのよ」

なんだかはた迷惑である。


しばらくして家の前の道路でよく見かける制服を着た男子が入ってきた。

多分相浦中学校の生徒だろう。

「あら、この可愛いのが?あたし桜花おうか。よろしくね!」

いやに女っぽいやつだったが、今後こういうギャップにちゃんと慣れないといけないと改めて感じさせてくれた。

主な人格は女っていうことだ。

「見た目は子供だが、中学2年生の男子だ。厨二病に罹患したままで少々めんどくさいかもしれないがよろしく」

「喋り方が容姿と一致しないね・・・」

「そりゃそうだろ」

「でも君、電話の時めっちゃ演技うまかったよね」

「え、それマジっすかあすな先輩」

「可愛かった」

「えっめっちゃ聞きたかったっす・・・!」

あの大根役者クソみたいな演技を可愛いと言わないでもらいたい。

それに私は男なのだぞ?可愛いと言われて喜ぶのは5歳児までだ。

あとあすなには猿轡お口チャック器具が必要かもしれない。


「触れてなかったけどってなんなんだよ」

「3歳でエク○ル作って目立って出世しようとするってダイナミックじゃん」

「うるせえ大手情報系企業ビックテックに消されてろ・・・」

「二人とも仲良くできそうだね。任務できる体になったら多めにバディ組もうかな」

「まあ悪い奴じゃなさそうだし、そん時はよろしく!」

「おう」

このまま名前が「ダイナミック戦場のエキスパート」にならないことを神と仏とイエスに祈った。ないとは思うが。


「おっじゃないの?」

背後から渋いおっさん声が飛んできた。

なるほどここの部隊名がなかなか決まらなかった理由が見えてきた。

「どうも」

「やっぱり幼稚園児がすげえ律義にしてたら違和感しかねえな」

「こら、初対面にはまず名乗るべきでしょう?どっかの社長隊長じゃないんだから」

あの人、初対面で名乗らないのに経営者とはこれ如何に・・・

「ああ、すまなかった。俺は連山れんざん、男だ。よろしくな」

「あ!はいはい!あたし女!」

「知ってるよ・・・」

「つまんないの」

桜花は学校じゃどんなキャラクターで通しているのだか。

悪い意味で有名人になりかねないだろう。

「おはよ・・あっ、じゃん」

さっきの小学生、菊花さんが起きてきた。

今まで一番安直でましなあだ名だ。

「私の説明はそれなりに野郎あすなから聞いてるんだろ?研究に戻るから。よろしく」

「あっはい・・・」

ガッチャン・・・

なんだか取り残された感がすごい自己紹介だった。

紹介すらしていないが。

そのあとも何人か名乗りに来たが、個人的にはMOBといった感じで、雑務や研究担当員、後方支援係など大して覚えなくてもよさそうな人ばかり集まってきた。

それでも一部は立派に異常な能力を持っているのだからMOB扱いはよろしくないのだろうが。

それに私の人名メモリーは6人が限界だ。覚えようと尽力しても無理であろう。

総勢15名程度で、そのうちの数人は軍属経験のある人がいた。

その人たちから訓練を受けて戦闘に備えるとかなんだとか。

あ、教官役の人ならなんとなく覚えている。

谷・・・・谷なんちゃら。

中学のころクラスのやつらを覚えたりするのにずいぶん苦労して、必死にプリントの配布を任されないように立ち回っていたのを思い出す。


メンバー紹介が終わってプチ歓迎会をした後は菊花さんとあすなを除く全員帰っていった。

怪しまれないようにわざわざ海ゆきの通路から帰っていった。


「ほのかー!一緒に風呂入る?」

「あほか。からかうんじゃない」

「えへへへ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ポスト・でっど つきみなも @nekodaruma0218

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ