第4話 不号計画対抗組織「コウノトリを守る会」

朝起きると、真っ黒な袋がベッド裏に隠されていた。

中には格好いい・・・実用的なコンバットナイフ、携行食レーション、見るからに高性能な高級フラッシュライト(OhLight製)、18禁のガスガンが入っていた。

随分と野生的なサンタクロースが来たらしい。

ガスガンということは銃の扱いを覚えろということなのだろう。

実際ガスガンは実銃とそれなりに似た構造をしている。

いいメーカーが作ったものなどは分解手順すら真似ることができたりするので、実射を除いた訓練としてはそれなりに機能するのだろう。

相手は特殊部隊なのだからな。


しかし、厨二病の私だってこんな朝から野蛮なものを見せられて戦々恐々な雰囲気にはなれない。

死ぬたびに見られる家族と食べる温かい朝食風景であろうと、これ以上の安心に代えられるものはないのだ。

「あー!結んだ髪解けちゃってる!」

「んー」

「あとで一緒に直そうね」

「んーー」

幼稚園児の朝は例えるならパステルカラーだ。

色彩豊かだが、目に映る全てが優しく思え、毎日が可愛らしく彩られている、

昼?昼ももちろんパステルカラーだ。

私の中のドス黒い何かが洗い流されそうなほどだ。

歯磨き中に跳ねている寝癖を触ったりしてみる。

さらさらで元気な髪質。文字通り無垢だ。

そして鏡に映る可愛らしい女の子。モテ顔だなこりゃ。

ライン戦線の悪魔の顔をしてみる。似合ってない。

全力で笑顔になってみる。ぎこちない。

自分の顔で遊んでいるうちに登園時間となった。美少女に生まれ変わったのだからはちゃめちゃしてみたいところだが許さないのがなんとも残念だが、少なくとも「転生したら美人ママとITパパの勝ち組確定だった件」とかいうタイトルで出版するより百億倍マシなのだろう。


「かえでちゃーん!」

「そうやってしてれば純粋に子供として可愛いのになあ」

「男子よ、レディーを敬うのだ!」

「はいはい、失礼した」

「生存戦略しましょうか?」

どこかで聞いたような文句と共にファイティングポーズをとってきた。しかし3歳児がファイティングポーズを取ると面白いぐらい可愛らしく、弱々しい。

「すまなかったって」

「それでよし」

冬も近づく11月の陽気は寒気をちょうど良く包み込み、布団の中のようで眠気を誘った。

「1時10分まで昼休憩はあるんだよな?少し寝るから起こしてくれ・・・」

「だーめ」

「はあ・・・」

「幼稚園児たるもの外で遊んでなんぼでしょう?」

「わかったよ」

運動しろ、と言いながらも昼食後の私のうだうだに付き合ってくれるあすなも動きたくないんだろうなあと思っていた。

横腹が痛くなるのは幾つになっても勘弁だ。


天日干し日和の空を眺めながらくだらないことを考えていた。

1982年、ヒラリー・パトナムがとんでもないことを提唱した。

水槽の中の脳みそ。この世の森羅万象が全て夢なのかもしれないという哲学論だ。

この説は否定しようがなく結局「幸せなら、OKです」という感じで終わったものだと聞いたことがある。

たとえ夢が覚めたとしたら私はどこにいるのだろうか。

奇妙なカプセルに入っていて、エネルギー源として生かされているのか

それとも、ただ虚無に起きるのか・・・。

私の死なない人生もどこまで歩めばいいのだろうと思い始めた時、あすなが突拍子もない質問をしてきた。

「・・・コウノトリって知ってる?」

「子供に質問された時かわすのに使う鳥か」

「それもそうだけど・・・」

「絶滅危惧1A 種のデカい渡り鳥だろ?常識だろ」

「ランクまでは知らないけど・・・私たちの組織はコウノトリを保護してるのよ」

「対抗するためにコウノトリを保護してると?」


コウノトリを守る会。

全国各地に営業所が存在するそれなりに大きな株式会社。

普段は地方でコウノトリの巣作り体験のイベントを開催したり、募金活動を行ったり、コウノトリに関する教育的な絵本の出版をしている会社。

と言っても、ほぼ出版業でやりくりしているらしい。

不号計画対抗組織のフロント企業らしく、あえて目立つことで政府の監視リストから外れるどころか、絶滅危惧種の保護という観点から援助金までもらっているらしい。

ちなみに不号計画対抗組織の名前はいいものが浮かばなかったらしくコウノトリを英語にしただけの「ストーク(Stork)保護部隊」と安直な名前がつけられているとのこと。


「なぜコウノトリなんだ」

「隊長が言うには、不号計画に強制参加させられそうな子供を回収まえに保護してうちに連れてくるからってのと、幸せを運んでくるから、らしいわ」

「なるほど納得できる」

「さ、休憩終了よ。鬼ごっこでもしよ」

「・・・お前鬼なっ!」

永遠に対しての恐怖はそうそうに吹き飛んだ。

戦えるのだ。

転生が何度もできるというだけで私は不号計画が終わるまで戦い続けられるのだ。

私は小さい頃からアニメや漫画の理にかなった戦術や戦法に恍惚とするほど戦いが好きなのだ。

そう思うと悪笑が込み上げてきた

「速すぎるでしょ・・・幼稚園児にして50m走8秒は出せるわよあれ・・・」

退屈を壊すには困難スリルが必須だということは著名な哲学者や心理学者が提言するより誰もが知っていることだ。


死んでも



楽しんでやる。

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