第3話 リスポーン

驚いたことに目を覚ますと、知らない天井がそこにあった。

痛みはない。首も切られてない。というか首に手が届かない。

まただ。

クソッタレの神め。私はサッカーボールではないのだぞ。友達になる気すらさらさらない。

あすなに殺されたというショックはあまりなかった。

悪夢並みに展開とシナリオがメチャクチャだったせいで現実とは思えないのだ。

実際、夢だったのかもしれない。

走馬灯に夢が入り込んできたなんて聞いたこともないが、体感2時間ほどの夢が5分程度の睡眠でも体験できてしまうのだから、ギリギリ不思議ではないだろう。

そうだ、夢だったのだ・・・。

ところで、また・・・いや、夢から覚めてもお股の感覚はなかった。


夢とは違って現実の私の転生先は田中家のかえでというなんとまあ平凡な名前の女の子であった。

しかし、母親が容姿端麗なことは正夢であった。

父親もそれなりにハイスペックで公務員、それも自衛隊の普通科連隊に属しているらしく、なかなか帰らないことを除けば父親として十分だった。

しかし訓練内容などをあまり話さないことから第一水陸機動連隊※超エリート部隊、通称レンジャー部隊に属しているのかもしれないと私はワクワクした。

そして当たり前ではあるが背徳感と倫理観、正義の心を捨てながら授乳に挑む日々が始まった。

哺乳瓶の存在を思い出したのは離乳食の時期に入ってからであった。


夢と同じくSNSで目立ちまくって出世を楽にしようと思ったが却下した。

あまり夢占いなどは信じない方なのだが、リアルすぎる悪夢を見た後ではどうにもやる気になれないからだ。

目立たず、平凡より少し上で生きていこうと思った。

幼児期も幼児のイメージ通り過ごした。


そして3歳。

いやな入園式だった。

夢と同じ東相浦幼稚園。

港近くで駅もあるというのに田舎風景なのも夢と全く一緒だった。

そして

あすなもいた。


私は本気で予知夢の預言者なのかもしれない、とちょっと嬉しくなったが、あの悪夢が予知夢だとすれば最悪だ。

そんな心配をよそにいきなり駆け寄ってきたあすなは、いきなり卒倒しそうなことを言ってきた。

「あっ!ほの、かえでちゃん」

「お前・・・今・・・」

「ちゃんと『リスポーン』したみたいだね・・。お疲れ様っ」

「はあ?」

「あれ、あの時めっちゃ冷静だったのに・・・」

何を言っているのかさっぱり理解できなかった。

いや、理解はできていたが、頭がそれを拒絶していた。そんな訳ないと。

「あの時・・・?」

「言わせないでよ。私だってやりたくなかったんだから」

「首ちょんぱ?」

「そうよ」

どうやら私は面倒な物語を始めてしまったらしい。

神が目の前にいれば右フックからの左ストレートだ。

「わかった、一つ一つ説明するからお前も一つ一つ説明しろ」

「はーい」

「私は加藤祐也で死んで西野ほのかとして生まれ変わった。そして意味不明なことがあってなぜかお前に首ちょんぱ。で、田中かえでに転生。」

「やっぱりほのかも生まれ変わりあとだったんだ」

「異世界に行けると思ったんだがな」

異世界転生トラックに撥ねられたのであれば剣あり魔法あり王政国家ありの世界に飛ばされるべきだろうに

「・・・男で私?」

「悪かったな。厨二病の副産物だ。」

「あっ・・・ごめん」

あすなはものすごく気まずそうに苦笑いしてわかりやすく一歩引いた。

「お前の番だ。説明しろ。ありゃなんだったんだ?そして西野家は今どうなっている?」

「あの4人組の特殊部隊は見た?」

思い出したくもない。あの背中だけでも威圧を放つ黒い影。

「勿論だ」

「あれは特殊人間回収部隊あ号『堕胎』よ。あなたのような「死んでも記憶を保つ」人間を集めて軍隊を作る『不号計画』のための部隊。」

自分を殺しかけた相手でも、プロフィールが厨二病くすぐりまくりでなんだか半分許しそうになっていた。

「あ号ってことは複数あるのか」

「なーんだ、知識あるのね」

好奇心旺盛な私は前前世で軍事関連の知識もつけまくっていた。

旧日本軍の決戦作戦名には50音順を用いたものがあった。

旧日本軍?

「まさか旧日本軍の生き残りとか?」

「確かに組織的な思想は生き残りと言えるけど現日本政府から予算もらってるし、そもそも70年以上前の人が現役で特殊部隊してる訳ないでしょ」

それはそうだが私はあすなが平然と言ってのけた事実に恐怖した。現日本政府はあんな野蛮な組織に予算を出しているのか。

やはり信用できないなあの居眠りクラブ・・・!

「あとね、西野家は無くなったよ」

「つまり?」

「最初からなかったことになってるよ」

「はあ?」

「訳あり!」

「はあ・・・」

初めて出会ったときのあの抜けた感じや無知で無垢な子供は全て演技だったと思うと、女は怖いなあと思ってしまう。

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