第2話 ゲームオーバー

ベビーライフは背徳感と倫理観、正義の心を捨てて授乳をすること以外は勝手に月日が流れていくので楽だった。

1歳になって歯が生え、クソみたいな滑舌でも喋れるようになった私は父親にそれなりのPC環境を要求した。


私の目標はまず世間で目立つことだ。

顔も用いて、どうにかして芸能界に顔を突っ込みたい。

小さい子供が歌を歌って動画を投稿するだけでCMがもらえるこの狂気の時代を存分に活かすのだ。


2歳になる頃には齧りに齧ったプログラミング技術を用いてゲームと表計算ソフトを作り上げ、ツッタカターで公表してそれなりに話題になった。

放っておげばローカルニュースぐらいには載る程度のクオリティにしたのでやることリスト一つ目は完遂した。

今のうちにPC関連の検定を何かしら取ってウィキ情報を増やしておきたいなどと色々妄想しているうちに、準備期間は過ぎた。


3歳、幼稚園入園である。

入園式を終えた後何人かの親が私について話しかけて来ていた。

もはやご近所の注目の的にはなれたのだ。

そして私に前世含め人生初の友達ができた。


あすな。天然っ子で非常に可愛らしく、不思議ちゃん要素もあるアイドル的存在である。

「ほのかちゃん、かお怖いよ?」

「あ、ごめん。ライン戦線の悪魔の顔の練習してた」

「んー・・・?」

憧れであった幼馴染の存在を達成すべく、私は一生仲良くしようと心に誓ったのだった。

その日、帰りに映画を観た。


奇遇なことにその映画はアメリカの哲学者、ドナルド・デイヴィッドソンが提唱した「スワンプマン」をテーマに扱ったロマンスものだった。


夜中、尿意がしたので布団から出た。

トイレは2階にあるのだが、何やらうめく声が1階から聞こえたので慎重に降りてみると、そこには地獄・・・いや。恐怖の空間が広がっていた。

先ほど子供部屋の鍵を無意識に開けたのを思い出して思わず漏らしてしまった。


特殊部隊と思われるゴツい装備をしたヤツが4名。そして目隠しとガムテープを口に貼られ、拘束されている母と父。

状況が分からずとも、母と父が拘束されたまま放置されているということは狙いは私であることぐらい検討はつく。


足音がこちらに近づいてくる。


私は咄嗟に2階へ逃げ、子供部屋の鍵をそっと閉めた。

間も無くして階段を登る足音が聞こえてきた。

ゆっくりと、慎重に。

子供を脅かさないようにしているようだった。

心拍数が上がっているのがわかる。

逃げ場を必死に目で探した。どこに隠れても映画のようにはやり過ごせない。

悪寒がし、震えがピークに達しようとしていた。


その時だった。

「トントントン」

窓が叩かれる音がして、本気で心臓が止まりかけた。

しかし窓にいたのは意外にも意外。

あすなだった。

状況把握も全部後回しにして私は咄嗟に窓を全開にし、飛び出した。

全身に強い衝撃が走る。3歳児だと流石にきつい。


「わお。勇気あるんだね」

「どうしてお前がいるのかは後回しだ。とりあえず助けに来てくれたんだな?」

「君冷静だね・・・」

「厨二病患者はいつだって学校テロに備えてるんだ。御託は後でいい」

2階からはガチャガチャと鍵が閉まったドアノブを捻る音が聞こえる。


「どうすればいい?あすな。お前がなんだか不思議な存在なのはもう分かった。どう逃げればいい?」

あすなは少し困惑した表情を見せたが、すぐに表情を決心した顔に変えた。


「ごめんっ!!!」

月光に反射する美しい刃。

あすなは私の首目掛けて、渾身のスラッシュをかました。

傷口に吹き込む冷たい夜風、命が途切れる気味の悪い音、吹き出す温かい血。


即死だった。

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