第15話 仕事のオファー

そして3日後、美香さんと待ち合わせをしているレストランへ出向いた。


俺は黒のテーラードジャケットに白シャツを着て、黒のテーパードパンツに黒の革靴を履いて来た。こんな服装をするのは久しぶりだった。髪にも少しワックスをつけてセットして来た。


ジャケットを着て来て正解。

高級そうなイタリアンレストランだった。


薔薇の蔦の絡まったアーチを抜けると、レストランの扉までの空間に小さな噴水があって、ライトアップされている。


店内へ入ると、何も聞かれずに席へ案内された。1番奥の窓際のテーブルにもう美香さんが座っていて、俺の姿を見ると立ち上がった。


「久しぶりだね、充生くん。」


「美香さん、ご無沙汰してます。」


美香さんはモスグリーンの透かし編みのトップスに、同じ色のセットアップのパンツ、白のサンダルというファッション。とても似合っている。細いゴールドのチェーンのピアスが両耳で揺れていた。


この店のメニューはおまかせコースのみだと言うので、飲み物に赤ワインだけ選んだ。


2人で久しぶりの再会を祝して乾杯する。


魚介を使った前菜が運ばれて来た。

とても繊細な味つけで美味しい。


その後も次々と芸術作品のような綺麗な料理が運ばれて来た。


「充生くん、何だか雰囲気変わったね。」


「そうですか?美香さんこそ、雰囲気変わりましたよね。」


2人で笑い合う。


「充生くんは何だか雰囲気が柔らかくなって、色気が出て来た感じ。」


顔が赤くなるのが分かる。


「元気そうで安心したよ。」


「ご心配をおかけしました。」


「ううん。私は結局、2年も連絡取れなかったから。でもずっと、充生くんの事は気になっていたの。事務所立ち上げたのも、充生くんみたいな子達を守りたかったから。


今は所属してくれてるタレントさん達も増えて来たし、みんな気軽にいろいろ相談してくれるから、いい雰囲気だと思う。


もちろん、何かあったら全力でタレントさん達を守る。


あの時は、私も若くて、経験不足で、充生くんには本当に申し訳ない事をしたと思ってます。

守ってあげられなくてごめんなさい。」


「もう、その話はいいですよ。美香さんが頑張ってくれたのはよく分かっているので。

こちらこそありがとうございました。」


その後は2人で昔の思い出話をしながら、美味しい料理を沢山食べて、ワインも進んだ。


「あのね、電話でも少し話したけれど、今ドラマの話があって、深夜枠なんだけど、けっこう当たりそうな予感がするんだよね。


原作が漫画なんだけど、読めば読むほど充生くんの顔が浮かんできちゃって。」


「そうなんですか?」


何だか心がザワつく。そんなふうに言われるのは嬉しい。


「これ、原作の漫画なんだけど、受ける受けないは別にして、良かったら読んでみて。」


紙袋に入った数冊の漫画本を渡される。


「は、あ、、。」


その店でのその時間は、本当に心地良くて、今までの辛かった時間を癒してくれている気がした。


美香さんと別れて、家へ帰る。


ニコルには、昔のマネージャーから連絡が来て久しぶりに会って食事をする、という話はしてあった。


今日はニコルは手羽先屋の仕事だったので、明日の2人の休日に、会ってゆっくり報告するつもりだ。


《ニコル、お仕事お疲れ様。今、家へ帰って来たよ。明日またいろいろ報告するね。おやすみなさい。》


すぐに返信が来た。


《充生、お帰りなさい。お疲れ様。無事で良かった。ずっと気になってたよ。明日会えるのを楽しみにしてる。おやすみ。》


心配かけちゃったな。

早くニコルに会いたい、、。


明日はニコルの一人暮らしをしている部屋へ行く事になっている。行くのはまだ2度目だ。



美香さんから受け取った紙袋から、漫画本を取り出す。全部で5冊あった。


何となく読み始めたら、何とボーイズラブ、男同士の恋愛の話だった。


こ、これは、、。




つづく





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