第11話 充生の過去
温泉町のホテルで迎えた朝。
少し間隔を空けてダブルベットが2つ並んだ部屋。
でも使用したのは窓際のベット1つだけ。
目が覚めると、ニコルはベットに横になったまま、こちらに背を向けてロールカーテンを少し上げて、窓の外を眺めている。
「ニコル、おはよう。」
ニコルがこちらへ振り向く。
「充生、おはよう。」
俺のおでこに唇をつける。
「体、大丈夫?」
俺の顔を覗き込んでくる。
「うん。ぜんぜん大丈夫。」
「良かった。」
軽く唇を合わせる。
「何見てたの?」
俺もロールカーテンの下から窓を覗き込む。
すると、窓の下に線路が見えた。
地方都市の大きな駅の隣りにこのホテルは立っていたようだ。昨夜は全く気づかなかった。
ニコルが俺の髪を撫でながら、
「こんなに駅が近いとは知らなかったよ。
どうする?朝食は7時からだけど、大浴場は6時から開いてるよ。」
と、言った。
携帯電話で時刻を確認すると、現在6時32分。
「大浴場へ行ってから、そのまま朝ごはんへ行く?」
「よし!そうしよう。」
ホテルのガウンとサンダルを履いて、大浴場のある2階へエレベーターで下りる。
大浴場はもうすでに数人のお客が来ていた。みんな同じ事を考えているんだろう。
昨夜とは男湯と女湯が入れ替わっていた。
昨夜はひょうたん型のお風呂だったが、こちらは普通の四角形の内風呂と、その内風呂よりひと回り小さい四角形の露天風呂がガラス窓の向こうに見える。
内風呂の手前には大きな岩が1つ置いてあって、その中がくり抜かれてぬるま湯で満たされていた。お風呂を出る前に掛け湯をするようになっているんだろう。
昨夜のお風呂と同様で、黒を基調にしたシックな内装だった。
こちらはひょうたん型のライトではなく、直方体の和紙をガラスの器に入れた照明が、床に幾つか置かれていた。お洒落な空間だ。
洗い場で丁寧に髪と身体を洗う。
昨夜の事を思い出して、少し恥ずかしい。
やっぱり、セックスしたって、恥ずかしくてニコルの方を見れない。
ニコルが先に洗い終わって立ち上がると、内風呂の方へ行ってしまった。
俺も急いでボディソープを洗い流すと、内風呂へ入りに行った。
湯の花が溶けた白濁したお湯。
自分の腕をさすってみると、なめらかに指がすべる。
露天風呂に人気が無くなったので、2人で外へ出る。
ひんやりとした空気に身体が縮まる。
急いで露天風呂へ足から入る。
「充生、もっとこっちへ来て。」
「うん。」
2人並んで湯に浸かる。
「充生はホテルの仕事の前は何をしていたの?」
突然、ニコルが聞いて来た。
「ニートだよ。引きこもり。」
今まで誰にも話していなかった事。
でも、ニコルには聞いてもらいたいかも知れない。
「引きこもり?ずっと?」
「うんとね、引きこもってたのは1年くらいで、それからバイトを幾つかやったけど続かなくて転々としてた。」
「じゃあ、引きこもる前は何をしていたの?」
俺の過去。
まだ生傷が癒えていない。
「アイドル。」
「え?」
「売れないアイドルをしてた。
で、グループが解散しちゃって、しばらくは1人で地道に頑張っていたんだけど、心が折れてしまって、事務所を辞めて実家へ帰って来たんだ。
それでしばらく引きこもってた。」
「そうだったんだ。
、、ごめん、気軽に聞いてしまって。」
「ううん。ニコルには話したかったから。
、、そろそろお風呂上がって朝ごはんへ行く?」
「うん、そうしよう。」
ニコルは先に立ち上がると、片手を差し出して来た。俺はその手を握った。そのままザバリとお湯から引っ張り出される。
一瞬、時が止まったようにニコルが俺の身体をまじまじと見つめた。
ニコルはパッと顔をそらすと、繋いでいない方の手を口元に当てる。
「ヤバい。」
「え?」
ニコルは俺の手を離すと、慌てて頭の上に乗せていたタオルで身体を隠した。
「朝ごはんの前にもう一度抱きたくなった。」
ニコルが顔を赤らめて呟く。
俺たちは結局、また部屋へ戻って激しく貪り合った。
俺は過去の事をニコルに話せたせいか、より一層、心も身体も解放されていった。
ニコルの唇と指と、挿入されるニコルのモノによって、こわばっていた心も身体も解きほぐされていく。
激しく突かれて、頭の中に一瞬火花が飛び散ったような感覚になった。
「ニコルっ!あぁ!あ、、んっ!頭が変になりそうっ!!」
「充生っ、俺、、もっ、気持ちっ、、いいっ、、、!」
目を開けると、俺の身体で気持ちよくなっているニコルの顔が、快感に震えたまま俺の唇を求めて近づいて来る。
下から突き上げて来る快感と、ニコルの張りのある唇が、俺の唇を押し開いて温かい舌を絡めてくる快感に何も考えられなくなる。
そして2人で絶頂を迎えた。
ぐったりとベットへ横たわる。
朝食終了の15分前に、へとへとになった俺たちは朝食会場へ滑り込んで、急いで食事をした。
名物の漬物や手作り豆腐、サラダや果物、和洋折衷の豪華なバイキング形式の朝食だったけれど、ゆっくり味わう余裕も無かった。
つづく
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