第7話 水曜日のデートは
待ち遠しかったデートの日が来た。
無事に初キスをした翌日に、別のフロアで清掃作業していたニコルが現れて、急いで携帯の連絡先を交換した。
この仕事は常に自分の携帯電話を持ち運ぶ事を義務づけられている。
急にアーリチェックインという、早くに到着するお客が入ったり、担当の客室の変更点があったりした時に、地下の事務所から自分の携帯電話に連絡が来るのだ。
そんなわけで、無事にニコルと連絡を取り合えるようになった。
考えてみれば、俺がこの仕事を始めてから1ヶ月と少し。ニコルとは僅かな会話しかしていない。お互いの事を何も知らなかった。
俺の話はあまりしたくないけど、、ニコルの事はもっと知りたい。
とりあえず水曜日のデートは、俺の住んでいる実家の近くの公園まで、ニコルが来てくれる事になった。
公園に11時の約束。
俺は、白に黄色の太めのボーダーの入ったTシャツに、水色のシャツを羽織って、膝上までのショート丈のチノパンにグレーのハイカットスニーカーというファッション。
天気が良い事もあって、平日の公園は小さな子供を連れた母親達や、犬の散歩をする人々、ジョギングをする若者達などが居て、眺めていると心が和んだ。
公園のベンチに座って、久しぶりに広い空を見上げる。
こんなふうにこの公園でゆっくりするなんて、小学生とか中学生、、高校生の時以来かなぁ。
「充生、おはよう。」
ビクッと驚いてしまった。
ニコルが立っていた。
相変わらずの人目をひく長身のイケメン。
「ニコル!おはよう!早いね。まだ10時前なのに。」
少し離れた所にある柱の先についている大きな時計を見上げる。約束は11時だったけれど、俺は早めに公園へ来ていた。
「うん。なんか早くに目が覚めたから、そのまま身支度をして出てきたよ。」
ニコルが照れくさそうに微笑みながら答えた。
「そっか。俺も。」
2人で見つめあう。
ニコルはカーキ色のぴったりしたTシャツに、ベージュのカーゴパンツ、茶色のワークブーツいうファッション。
ぴたりとしたTシャツなので、鍛えられた腹筋がうっすらと感じられて胸がキュンとなる。
「充生、会いたかったよ。」
「ニコル、、俺も会いたかった。俺の家の近所まで来てくれてありがとう。」
2人共、そのままベンチへ座った。
「充生は実家暮らしなんだね。この公園もよく来るの?」
「まぁ、駅へ行くのに公園を突っ切った方が早いから、仕事の時は毎回通るくらいかな。こんなふうにゆっくり過ごすのは久しぶりだよ。」
しばらくベンチに座って話した後、自販機でコーヒーを買って、飲みながら遊歩道をゆっくり歩いた。
歩道に向かって木々が覆い被さって、アーチのような緑のトンネルを作っている。初夏の陽射しに輝く木々が濃い香りを漂わせていて、俺は思い切り鼻から息を吸い込んだ。
「あー、いい香り。」
ニコルを見上げる。
ニコルは仕事の時には見た事がないようなリラックスした表情をしていた。
「緑の香りだね。こんな心地いい時間は久しぶりだよ。」
ニコルはそう言うと、俺の頬にそっと手を添えて軽く唇を重ねてきた。
バーっと俺の顔に熱が集まって来る。
「ニコル!公衆の面前ではやめて!!」
「周りに誰も居ないから大丈夫だよ?」
俺は慌てて周りを見回すと、緑のトンネルに囲まれた俺たちは2人きりで、人の姿は見えなかった。
「ほんとだ。」
俺はピタリと立ち止まって、俺に合わせて立ち止まったニコルの両肩に手を乗せて、背伸びをすると、ニコルの唇に俺の唇を合わせた。
そっと唇を離すと、ニコルの顔が赤らんでいて、
「充生、可愛い!!」
と小さく囁くと、ギューっと抱きしめられた。ニコルの張りのある胸と引き締まった腹筋が、俺の貧弱な体に押し付けられるのを感じる。
ニコルと始めてキスをした日から、男同士のいろんな事?を検索してみていた。
男同士のセックスの事。
う、後ろのあそこに、あれを、、。考えられない、と思ったけれど、自分の指を挿れてみると、変な感覚。少し抜き差しを繰り返していると気持ちいいような、しばらくやめられないような感覚にはなった。
でもニコルとそんな事になるんだろうか、、。
まだ考えられない。
今日のデートは、公園の後に近くのお店でお昼ご飯を食べて、カフェへ移動してお茶をしただけの、爽やかなデートのまま解散した。
でもたくさん話すことが出来て、お互いの事が少し分かり合えた気がする。
ニコルの事は、仕事が遅い清掃員とは口を効かない、という話を他の清掃員から聞いていたから、初めは怖い印象だった。
けれど、親しくなると、仕事を手伝ってくれるし、俺が嫌がる事はしないし、俺にだけは優しい表情を向けてくれるから、何だか俺だけがニコルの事を独占出来るような嬉しさがあった。
ニコルはお父さんが日本人で、お母さんがフィリピン人のハーフらしかった。生まれた時から日本で育っていて、フィリピンへは行ったことがないらしい。
現在、24歳で、一人暮らし。
(年下だったー、、。)
実はモデルの仕事をたまにやっていて、それだけではやっていけないので、清掃のバイトと手羽先屋のバイトを掛け持ちしていた。
毎日忙しいけれど、じっとしていられない性格だからちょうどいいらしい。
モデルの仕事をしていたとは、、やっぱり、という感じだ。
ぼんやりとしていたニコルの生活が、急にくっきりと分かってきて、嬉しい。
家へ帰って、自分の部屋のベットの上に転がると、今日の事をいろいろ思い出して幸せな気持ちに浸れた。
そして、少しニコルの事を想いながら、自分で自分を触った。気持ち良くなったところで、後ろにも指を挿れて動かす。
目をつぶると、ニコルのカーキ色のTシャツにうっすらと感じられた張りのある胸の形と腹筋が脳裏に浮かんだ。
ぎゅっと抱きしめられた時に感じた温かさとニコルの匂い。周りの木々のざわめきと濃い緑の香り。
「あっ、、あ、、。」
つい声が漏れる。1本の指から2本の指に増やして、思いきって奥まで指を挿れていじっていると、身体がビクッと震えた。
「あっ、、ああっ、、はっ、、んん!」
俺はこんな事をして、これからどうなってしまうんだろう、、。
汚れてしまったシーツを見て、少しの不安と甘い期待に包まれていた、、。
つづく
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