第10話

「改めて感謝させて欲しい。

 ありがとう、ネク殿。

 君のおかげで、この都市も、娘も助かった」


ネクはウェッブ議員の頭を下げた感謝の言葉に、思わず自身も頭を下げていた。

都市キャラウェイを襲ったドローン騒動が解決して、数日の時間が経った。

あの後、ネクは『機母マザーウィル』を冒険者らに連絡し、自身はシェフィルの機体を抱えて戦線を離脱していた。

それ故に『機母マザーウィル』討伐の功績は他の冒険者のものとなってしまったが、第四次機体ハイエンド撃破などのこともある。

公ではないものの、ギルド長から個人的な褒章を受け取っていた。


ウェッブ議員は周囲をもう一度見渡す。


ここは都市にある病院の待合室だ。

シェフィルは、助けられた後に医療装置カプセルに入れられ、すぐに回復したものの、全身を打ち付けたことも加味して精密検査となり、入院することとなった。

その見舞いに訪れていたネクだったが、同じく見舞いに来たウェッブ議員と遭遇し、こうして話をすることとなっていた。



「それにしても……本当なんですか。

 都市はあと、60年も保たないかもしれなかった、って」


ネクの言葉にウェッブ議員は頷く。

都市キャラウェイは、冒険者の持ち込む分を加味しても、あと60年もしないうちに資材が枯渇する見込みであったらしい。

そうなれば残された人間は他の都市に疎開するか……いや、多くの人間は都市と共に滅ぶしかなかったのだ。

だが地下鉄メトロで掃討したドローンらが非常に大量の資材を抱えており、一旦解決。

また、地下鉄そのものも保存状態が良く、整備により使用できるかもしれないらしい。

そうすれば他の都市や廃墟への移動も可能となり、資材の融通や取引が円滑になれば都市の寿命はさらに伸ばせるだろう、とのことだ。



「エルフは為政者として、少しでもこの都市の寿命を伸ばし人を救う義務がある。

 シェフィルも、そのために冒険者を辞めさせるつもりだったが……君たちのおかげで、安泰になった。

 ……私情を挟みたくはないが、だが親としては、あの子には好きにやらせてあげたい。

 まあ……あの子のことを心配しているのも、事実なのだがな」

「……すみません、そんな事情も知らずに、怒鳴ったりして」


ネクの言葉にウェッブ議員は「気にしないでくれ」と笑う。



「あの子のために怒ってくれた男を、咎めたりするものか。

 ……ネク殿。あの子を頼むぞ」

「はい」


ウェッブ議員の言葉に、ネクは大きく頷いた。

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