第9話

「あ………う………」


吹き飛ばされたシェフィルは、機体の中で全身を打ち付け、自らの血で体を濡らしていた。

操縦桿を力なく握り、引くが、機体は動かない。

完全に機能停止してしまったようだ。

カメラさえも動かず、装甲が弾け機体が破壊された亀裂から、肉眼で外を見る。

第四次機体ハイエンド……光線剣ビームサーベルを構えたドローンが、こちらへと迫ってきていた。

その足取りは、獲物を前に舌なめずりをしているわけでも、勿体つけて絶望させているわけでもないのだろう。

ただ、とどめを刺すだけの相手に、ブースターを吹かして近づいて仕留めるのは燃料代が勿体ないというだけの判断だろう。

シェフィルの冷静な部分はそう判断したが、しかし現実にそれをされる身になれば、それは死神がゆっくりと近づいてきているようにも感じられた。



「あ……!いや……あ………!」


なんとか逃げようとするが、機体はやはり動かない。

機体の亀裂へ身体をねじ込み外に出ようとしても、打ち付けた身体は思うように動かず、そもそも亀裂は人が通れるほど大きくはない。

そうしている間に、第四次機体はもう目前へと迫り……淡々と、光線剣を振り上げた。



「たすけて……ネク………」



ガゴンッ


大きな物音に、第四次機体は振り返る。

光線砲プラズマキャノンを受けたネクは、しかし寸でのところで直撃は免れていたのだ。

装甲を損傷し左腕は半ば千切れていたが、機体の駆動部分やブースターはまだ生きていた。

防弾盾バリスティックシールドを杖にして立ち上がったネクは残った右腕で戦闘斧バトルアックスを引き抜き、



『おまえの相手は……俺だ、このブリキ野郎……!』


第四次機体は冷静に相手を評価していた。

先の第三次機体との戦闘データは第四次機体にも通信データリンクされている。

目の前の機体は重量機体ヘビーアーマー

装甲は厚い。

機体の重量による速度低下を補うためか、様子だが、戦闘速度はそれほど速くはない。

ネクが突っこんできたとして、近接武器の距離になるまでは数秒。

ならば光線剣による近接戦闘は不要、突撃銃バトルライフルを準備。

そう判断した第四次機体が、銃を引き抜こうとした。




そして、ネクは機体の操縦盤キーボードに指を走らせる。




頭部装甲―――脱装パージ

胸部装甲―――脱装パージ

脚部装甲―――脱装パージ

左腕部――――脱装パージ

右腕装甲―――を除き脱装パージ

各種武装―――戦闘斧とを除き脱装パージ


制限リミッター解除―――全噴射器ブースター点火テイクオフ




 キ   ュ  ボッ



ネクは機体の装甲と武器、それらをほぼすべて外す。

……そして外した装甲や武器が地面へ落下するよりも速く。


音よりも早く。



、ネクは第四次機体へ接敵する。



ズバァ――――――ンッ


それでも流石というべきであろう。

第四次機体は刹那にも満たない一瞬で、接敵したネクの脅威度を修正し、素早く光線剣を起動し、ネクの手にした戦闘斧を切り払った。

だがネクは構わず、突き出したままの拳を第四次機体へと押し当てる。



ガゴォォォンッ


右腕に残した最後の武器……杭打機パイルバンカーは第四次機体の胴体を貫き、構成する精密機器内臓を盛大にぶちまけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る