第2話

「待ってください!」



張り上げられた声に、シェフィルも、ギルド長も、ウェッブ議員も……その場にいる全員が目を向ける。

声を上げたネクは、拳を握りしめながら一歩を踏み出す。

護衛の人間が前に立とうとするが、しかしウェッブ議員はそれを制し、ネクも彼に掴みかかるようなことはなかった。

ネクはその場でウェッブ議員を……睨みつけるわけでは無いが、しかし力と熱のこもった目を向ける。



「君は、ネク君でよかったかな?」

「……え、名前を知っているんですか?」


ウェッブ議員はネクの言葉に首肯する。

一瞬、呆気にとられるネクだったが、しかし頭を振ってウェッブ議員を見やった。



「突然そんなことを言われても、横暴じゃあないですか!

 エルフが冒険者になってはいけないなんて、どうしてです?!」

「君はともかく、他の人たちには……エルフはあまり歓迎されていないと思うが」


ウェッブ議員がちらりとギルド長や、アルマ、そして冒険者たちへ目を走らせる。

彼らは何も言えずに目を伏せ、逸らした。



「ネク君も知っているだろうが、エルフとは都市の運営を任されている。

 なぜなら、それに最も適しているからだ。

 君たちを馬鹿にするつもりも、私たちが尊大になったつもりも一切ないと断っておくが……。

 事実として、人間やドワーフよりも、エルフの方がよりよい都市の政治が出来る」


その言葉にネクは黙る。周囲の人間も憤慨することも、反論するような様子もない。

なぜなら、それはだからだ。



「都市を出れば死の世界が広がっている。

 ただ生きるだけでも、生物には過酷な環境なのだ。

 冒険者である君たちには、命を賭けてまで物資の回収、ドローンの討伐をしてもらい大変に感謝している。我々エルフは、それらを例え金属の一欠片でも、都市の役に立て、少しでも多くの人を幸福にする義務がある。

 ……わかるだろう、シェフィル。 

 この砂塵の時代、我儘を言えるようなではない」


そういってウェッブ議員は、シェフィルを見る。

シェフィルは小さな拳を握り締めて俯いている。

反論したいのだろうが、しかし言い返せないのだろう、小さく震えていた。

ウェッブ議員が改めて書類を出そうとし、ネクが口を開こうとした、その時だった。




バダンッ!!


大きな音と共に冒険者ギルドのドアが開けられる。

その場にいた全員が、そちらに目を向ける……ドアを開けたのは、制服を着た若い憲兵警察官だった。



「た、た、大変だ! 都市の中に!都市の中に、ドローンが出た!!」


一瞬の静寂のあと、冒険者ギルドは怒号と悲鳴に包まれた。

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