第八章 砂塵の次代

第1話

ネクとシェフィル、そしてギルド長が応接間から出て受付へ向かうと、その場には静寂が満ちていた。

いつもは稼ぎの話や、次にどこの廃墟へ向かうか、あるいはどこの店の女が美人かで盛り上がっている冒険者たちは、しかし今は、にのみ視線が注がれている。



「……これは、ウェッブ議員。失礼、お待たせしました」

「謝罪は不要。約束アポイントメントも取り付けずに来たのはこちらだ」


ギルド長がへと話しかける。

……男性だ。身長は非常に高く、2mは超えているのではないかと思わせる。

ゴツゴツとしてはいないが筋肉質で細身の身体で、背を伸ばし堂々としているその姿は一振りの剣を思わせた。

しかし目に付くのは、白く全身を覆う法衣ローブのような衣服と、胸に輝く徽章バッジ

そしてなによりも、男性の耳は細く長い。

エルフだ。

彼――ウェッブ議員は、都市キャラウェイの為政者の一人。



「しかし、ウェッブ議員が直接来るとは……どのような用件ですか?」


ギルド長の質問に、ウェッブ議員は頷く。

彼の傍で控えていた、全身を機械装甲パワードスーツで覆った護衛の人間が、鞄から書類を取り出しギルド長に提示する。

ギルド長はその書類に目を通し……目を見開くと、ウェッブ議員と、そしてシェフィルの方へ目を向ける。

シェフィルは、嫌な予感がしたのか顔を歪めた。



……シェフィルの冒険者の退職届だ」

「はぁ?!何勝手にやってんのよ、アンタ!」


シェフィルが激昂しウェッブ議員に食って掛かる。

しかし、護衛の人間が割って入り、良いようにあしらわれてしまう。

ギルド長も顔顰めた。



「ウェッブ議員、冒険者ギルドの規則として、本人以外の進退の届け出は認められません」

第十一章項目四ルールは承知している。添付の書類を見ていただきたい。議会での承認だ」


ギルド長が書類を検め、顔を青くする。

そこにはウェッブ議員の他、為政者たちの署名が連名で書かれていた。



「第十一章にはギルド長権限での受付は認められている。これはその理由には十分ではないか」

「し、しかしですな……!」

「……これは審議中の議題であるため確定ではないが、今後エルフは冒険者になれないよう規則を改訂する。

 これは現在冒険者であるエルフにも適用となる」

「はぁ……?!」


割って入る護衛をなんとかすり抜けようとするシェフィルが、再度憤慨してウェッブ議員を睨む。

しかし彼は全く意に介さず、そちらに一瞥をくれると、すぐにギルド長へと向き直った。



「急を重ね申し訳ないが……こちらも時間が惜しい、書類の受理するという理解でよろしいか」

「ぐ、ぬ……」


なんとか反論をしようとするギルド長であったが、しかし良い言葉が浮かばないようだった。

シェフィルの顔が怒りから、悲痛な哀しみの表情へと変わる。

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