第3話

「そこまでだ、これ以上やるなら憲兵所交番に連れて行くぞ」


張り詰めた空気の中、冒険者ギルド長の良く通る声が響いた。

ネクは掴んでいた男の胸ぐらを離す。

男は蹈鞴を踏んで数歩後ろに下がり、ネクとシェフィルを睨みつけ、そしてギルド長に懇願する様に目を向けた。



「ギルド長!こいつ、俺に暴力を……」

「状況は知っている。お前が先に突っかかったせいだろう」

「そんな、憲兵を呼んでくれよ!」

「ゲハル……お前を捕まえるためか?最近、シェフィルの銃以外の余罪がいくつも見つかってきたんでな。

 懲戒だけじゃ生ぬるかったと反省していたところでな、ちょうどいい……おい、憲兵を呼んでくれ」

「……くそっ!覚えておけよ!」


男……ゲハルが捨て台詞を吐き、再度ネクとシェフィルを睨みつけると、冒険者ギルドから足早に立ち去る。

ふう、と息を吐くネクに、ギルド長が「すまんな」と声をかけた。



「すみません、ギルド長。お騒がせしました」

「気にするな。元はこちらの不手際だ。

 あいつ……ゲハルは、冒険者ギルドの整備員でな。

 正直に言えば腕も素行も悪く、シェフィルの件以外にも余罪が見つかってな。整備員をクビにしたんだよ。だがゲハルを雇う工房も工場もなくてな……せめての情けで冒険者としては登録してやったんだが」


頭をかくギルド長。

騒動から集まった冒険者らも頷いたり、それを首肯する顔をしている。

ゲハルという整備員は、彼らの評判も良くなかったのだろう。とネクは思った。


弛緩した雰囲気となり、疎らに人が散っていく。


ネクはギルド長にもう一度礼をすると、少し耳を赤くしているシェフィルを宥め、次の探索の予定について話し始めた。







冒険者ギルドを出たネクは、シェフィルと一旦別れ、1人で市場のある十時通りを歩いていた。

見慣れた道をとおり、路地に入った場所にある小物屋にネクは足を踏み入れる。



「ネク!今日はどうした?

 ……おっ、その冒険者プレート、シルバーランクじゃねえか!

 昇級したのか!おめでとうな!」

「アードルフさん、実はちょっと欲しいものがあって」

「おうおう!何が欲しいんだ?昇級祝いだ、まけといてやるよ!」

「あはは……ちょっと、それは……」


ネクはアードルフの店を訪れていた。

いくつかのアクセサリーに目を通した後、ネクは「このデザインで」と話をする。



「おお……そいつぁ……そうか」

「ええ、これで……サイズは6号でお願いします」

「おう、解っ……ちょっと待て、もう測ったのか?」

「いえ?パッと見れば目測で分かりますよ」

「それ、お前才能だぞ、おい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る