第5話

「いやー!一時はどうなるかと思ったよ!

 護衛がもっといても、砂蚯蚓サンドワームで大損害を出した行商隊もあるって話だからね!

 ほら、君たちのとった肉だ!遠慮なく食べるといい!」

「あ、いえ、その……」

「わ、わたしたちは自分たちで食事の用意があるので、今夜は大丈夫です……」


ブリューヒャは満面の笑顔でネクとシェフィルにお礼を述べていた。

後ろでは、行商人たちがワイワイと騒ぎながら、真っ二つになった砂蚯蚓を解体し、その肉やら臓器やらを取り出している。

それらの肉は設置された野外調理場にせっせと運ばれ片端から焼肉になっており、食べられない部位は飯運猪セーフリームニルの餌となっていた。


なるほど、こういった動物の肉を余すことなく利用するというのは行商人の生きる知恵なのだとネクとシェフィルは理解はした。

しかし見た目があんまりな生き物を、目の前で解体され食事として出されても、どうにも食欲が湧いてこなかった。

見た目がミミズというのもいけない。

いくら未知に興味を持った2人とは言え、譲れない一線はあるのだった。





砂漠の夜は酷く冷える。



夜、キャンプを張って就寝する商隊の傍らで、ネクとシェフィルも車両に入り、見張りを残して交代で眠りについていた。

そして時間になり、先に寝たネクが起きて運転席へと移動する。

シェフィルは毛布にくるまって、じっと空を見上げていた。



「シェフィル、交代……」

「ネク、みて」


シェフィルが言う先、ネクは、空を見上げた。



そこにあるのは丸く白い光。

そして小さな無数の光。



普段鈍色に覆われている空は、今日は偶然にも晴れていた。

見たこともない光景に、ネクもシェフィルも、ただ絶句していた。



「……きれい」


やっと出せた言葉は酷く平凡だった、しかし、それしか、言葉が思いつかなかった様子だった。

ネクのその言葉に、シェフィルもまた口を開く。



「月、っていうんですって。

 旧世代の……大戦が起きるずっと前には、人はあそこまでいったことがあるって……」


ネクはシェフィルを見る。

月の光に照らされて、彼女の横顔が砂漠の真ん中で輝いて見えた。



「うん。

 月が、きれいだ……」


2人はしばらく、そうやって佇んでいた。

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